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万国国際法学会戦規提要(オックスフォード提要)

 
第一部 一般原則

第二部 一般原則の適用
   第一款 敵抗
    (甲)人に対する行為の条規
      (イ)平穏なる住民に就き
      (ロ)敵に加害するの方便に就き
      (ハ)負傷者、病者及治療所員に就き
      (ニ)死者に就き
      (ホ)擒虜と為すべき人
      (ヘ)間諜に就き
      (ト)休戦旗に就き
    (乙)物に対する行為の条規
      (イ)強暴加害の方便に就き(砲撃)
      (ロ)治療用品に就き
   第二款 被占領地
    (甲)定義
    (乙)人に対する行為の条規 
    (丙)物に対する行為の条規
      (イ)公有財産
      (ロ)私有財産
  第三款 俘虜
    (甲)擒状(俘虜たる地位に在る者の状態を云ふ)
  第四款 中立地内被留置者

第三部 罰則

高橋作衛『戦時国際法要論』p343-362より
  

 

万国々際法学会戦規提要
The Manual of the Law of War of the Institut de Droit Intrnational.

千八百八十八年英国オックスフォートに開きたる同会の決議なり

陸戦条規
第一部 一般原則

【第一条】
戦争の状態は独り交戦国の軍勢と軍勢との間に於てのみ強暴の行為を許すものとす
凡そ軍隊に属せざるの人は強暴の行為あるを得ず
[右第一条に於ては国家の軍勢を組成する人員と其の余の臣民との間に区別を立つるを以て茲に所謂軍勢なるものに定義を下すの必要を生ず]

【第二条】
国家の軍勢に算入すべきもの左の如し

(一)、真に軍隊と称するもの、但し民軍を包含す
民軍とは平時に於て各自其の職業に従事し戦時に至れば出て隊伍に入る人民を以て組織たる軍隊なり
(二)、予備、後備、並左の条件に合する各種の団隊

(イ)責任ある統率者の下に立つこと
(ロ)制服又は標章を着用すること但し其の標章は固定にして遠方より見知し得べきものなるを要す
(ハ)公然武器を携帯すること
(三)、戦艦の乗員其の他海軍に属する人員(有志海兵を含む)
(四)、敵の占領を受けたる土地の住民にして軍隊の来襲に際し之と闘はんが為に自然に且公然に兵器を以て起つ者、但し此の如き人民は猶予の存せざるが為に未だ兵戦上の編成を為すに至らざるも猶ほ之を一国軍勢の一部と看做すべきものなり

【第三条】
凡そ交戦する軍勢は戦規を遵守すべきものなり
[国家たるもの戦時に於て其敵抗の力を用いる適法の目的とすべき所一に敵の兵力を弱むるにあり(千八百六十八年十一月四日より十四日に至る聖比得堡(セントピートルスブルグ)万国会議宣言)]

【第四条】
戦規は交戦者に於て其の敵に加害する為に如何なる方便たりとも随意撰用する無限の自由を許さず、就中無用の厳酷に渉るべからず、又総て不実、不正、若くは暴逆の行為を避けざる可からず

【第五条】
戦時に於て交戦者の間に締結したる休戦、降服以下各種の軍中規約は厳密に遵守し且つ尊敬すべきものなり

【第六条】
攻撃を被りたるの土地たりとも戦争の終るまでは未だ以て略取せられたるものと為すことを得ず、其の戦争の終る前は占領を為すの国家に於て事実上必勢に依り監督を行ふと雖も此の監督は本来仮構のものたり


第二部 一般原則の適用

第一款 敵抗
(甲)人に対する行為の条規

(イ)平穏なる住民に就き
[第一条に據り強暴の行為は単に軍勢と軍勢との間に於てのみ許すべきものなるを以て左の諸則あり]
【第七条】
住民の平穏なる部分を逆待するは禁制なり

(ロ)敵に加害するの方便に就き
[第四条に依り行為は正実なるを要するを以て正々堂々兵勢を以て兵勢に当るべきものたり是を以て]
【第八条】
左の行為を禁制す

(イ)毒剤を各様に使用すること
(ロ)詐偽奸邪の方法を以て敵を殺害せんとすること(例へば刺客を放ち、又は偽り降服して殺害を加ふるの類)
(ハ)軍勢に属する公明の標識を隠して敵を襲撃すること
(ニ)国旗、士官階級の標識、敵兵の制服、休闘の旗章、赤十字条約を以て定めたる保護の徽章を濫用すること(第十七条及第四十条参看)

[第四条に依り無益の惨害は避くべきものなり是を以て]
【第九条】
左の諸事を禁制す

(イ)無用の苦痛を与へ又は障害を彌大にする武器、弾薬、其の他の物資を使用すること、就中爆発性を具へ又は爆発物を充てたる飛弾にして量目四百「グラム」以下なるものを用いること(聖比得堡宣言)
(ロ)降服を請ふ者又は負傷したる者を傷殺すること及救命を与へざるの宣言を為すこと但し此の宣告を為す軍隊に於て自ら救命を請はざるを宣告する場合も亦同じ

(ハ)負傷者、病者及治療所員に就き
[負傷者、病者及病院の人員は赤十字条約(第十条乃至第十八条)により無益の惨害に対し防御せらる、左の如し]
【第十条】
負傷し又は疾病に罹りたる軍人は何国の属籍たるを論ぜず之を収容し、看護すべし

【第十一条】
司令長官は戦闘後直に戦闘中に負傷したる敵の兵士を敵の前哨に送致することを得、但し右は其の時の状勢に於て之を送致することを得べく、且両軍の協議を経たる場合に限るものとす

【第十二条】
患者負傷者を輸送するときは其の之を率いる人員と共に完全なる中立の取扱を受くべし

【第十三条】
戦地仮病院及陸軍病院に於て任用する人員即ち医士書記及其の他衛生、庶務、運搬に従事する人員並教礼士並に官設病院の人員を補助する職権を与へられたる協会の会員及代表員は各々其の本務に従事し且負傷者の入院すべく若しくは救護すべき者ある間は中立の利益を享有するものとす

【第十四条】
前条に掲げたる各員は敵軍の占領する所と為りし時と雖依然需要の存する限りは其の勤務する所の病院又は仮病院の病者若くは負傷者を看護すべし

【第十五条】
若し第十三条の人員に於て自ら退去せんことを請求するときは占領軍の司令官其の出発の期日を定むべし、但し軍事上の必要あるときは此の期日を延引することを得べしと雖其の延引は僅少の日時を越えざるべし

【第十六条】
中立と認定せられたる人員敵軍に陥りしときは成るべく之に相当の扶持及給料を与ふるの条規を設くべきものとす

【第十七条】
中立たる諸員は白地に赤十字の臂章を装付すべきものとす、但し其の交付方は陸軍官衙に於て之を司るべし

【第十八条】
交戦国の将官は其の戦地の住民の仁愛に訴へて慈善の挙を慫慂し若し負傷者を救護に尽力せば之に酬いるの利益(第三十六条及第五十九条参照)あることを予言するの義務あるものとす、果して此の勧諭に応ずる人民には特別の保護を加ふべきものたり

(ニ)死者に就き
【第十九条】
戦場に斃れ伏せる死人を褫奪し又は其の体を支解することを得ず

【第二十条】
死人は其の何誰たるを知るに必要なる標識(就中服章、番号等)を其の身辺に就き集収したるの後に非ざれば之を埋葬すべからず、敵の死体に就き集収したる標識は之を其の軍隊又は政府に通知すべきものとす

(ホ)擒虜と為すべき人
【第二十一条】
交戦者の軍勢の一部に居る人敵手に陥りたるときは俘虜として第六十一条以下の規程に依り取扱ふべきものなり
本条は公然公信を齎す伝令使並に敵の動静を視察し又は軍隊若くは領地の諸部の間に音信を通ずることに使役せらるゝ常人、及気球施行者にも亦之を適用す

【第二十二条】
軍勢の一部に居らずして之に随伴する人、例へば新聞紙の通信員、給養掛、用達商等の類にして敵手に陥るときは兵戦上之を必要と認むる間は何時までも拘留することを得るのみ

(ヘ)間諜に就き
【第二十三条】
間諜として捕擒せられたる人は俘虜と取扱を受くるの権なし

【第二十四条】
交戦者の軍勢に属する人たりとも偽装を為さずして敵の戦線地内に入りたるときは間諜と看做すべきに非ず又公然公信を齎す伝令使及気球旅行者(第二十一条)も間諜と看做すべきに非ず

[戦時に於ては間諜の行ありとして人を門罪すること動もすれば濫弊に陥り易し是を以て左の二条を確守するを要す]
【第二十五条】
間諜として論告せらるゝ者あるときは何人に限らず審問を経ずして之を処刑することを得ず

【第二十六条】
間諜を行ひて後一旦敵の占領する地域を脱去し了へたる者は後に至り敵手に陥ることありとも脱去以前の行為に対し責問せらるゝことなし

(ト)休戦旗に就き
【第二十七条】
一方の交戦者命を帯びて他の一方の交戦者と交渉を為すため白旗を以て敵軍に詣る人は侵害すべからず

【第二十八条】
前条の人は鼓吹手、旗手及其の必要あるときは先導者及通辭者各一名を随伴せしむるの権あり、此等諸人も亦侵害すべからず

[凡そ戦使なる者は唯だ仁義を行ふ為に之を発することを要する場合もあれば帰するに不可害の特権を以てすべきこと明白なり、然れども之に因り他の一方に不利益を被らすに至りては則ち不可なり、因て左の規程あり]
【第二十九条】
休戦旗を送られたる司令官は必ずしも之を請受すべき義務なし

【第三十条】
休戦旗を請受する司令官は其の戦線地内に敵の現在するより起るべき不利益を防止するに必要なる総べての方策を施すの権あり
休戦旗携帯者及其の随伴員は之を請受する敵に対し挙止誠信を以てするの義務あり(第四条)

【第三十一条】
休戦旗携帯者若し敵の信任を濫用したるときは一時拘留せらるゝことあるべく、詭偽を以て敵を欺く為に其の特権を行使したるの証拠あるに於ては不可害の権を失ふものとす

(乙)物に対する行為の条規

(イ)強暴加害の方便に就き(砲撃)
[無用の惨害を許さゝるの規程(第四条)に依り極端の強暴加害を緩化するを要す、因て]
【第三十二条】
左の諸事は之を禁ず
(イ)分捕をなすこと、但し攻撃に依り市邑を陥れたる場合に於ても猶ほ之を許さず
(ロ)公有又は私有の財産を破壊すること、但し戦争の必要万止み難き場合は此の限りに在らす
(ハ)防守せざる場所を襲撃し及砲撃すること

[交戦者に於て堡砦及其の他敵の屯集する処に対し砲撃を加ふるの権あるは疑ふ可からず、然れども此の強暴を制して成るべく其の結果を敵の軍勢及其の防戦方策の外に及ぼすなきことを勉むるは仁愛主義の命ずる所なり]
【第三十三条】
攻撃軍司令官は砲撃を加ふるに先だち百方尽力して其の意志を当該地方官庁に通するの義務あり、但し急襲(アスソヴルド)と同時に砲撃を加ふる場合は此の限りに在らず

【第三十四条】
砲撃の場合は教法、技芸、学術及仁恤の為に設けたる建築及病院並に病者、傷者を居らしむる場処を成る可く加害の外に措くに必要なる総べての手段を施すべきものとす、但し此等の場所を直接又は間接に防御の為に利用せざる場合に限る
攻囲を被る者は顕著なる標識を定めて予め之を攻囲者に通知し置き此の標識を以て此等の場所を表示すべき義務あり

(ロ)治療用品に就き
[傷者保護の規定(第十条以下)あるも病院に対し特別の保護を加ふるに非ざれば無効に帰すべし是を以て赤十字条約に基き左の諸条を設く]
【第三十五条】
軍隊処用の戦地仮病院及陸軍病院は局外中立と看做し患者若くは負傷者の該病院に在院する間は交戦者之を保護し尊敬して侵害すること勿るべし

【第三十六条】
前条の規程は患者及負傷者を収容して之を看護する民屋又は民屋の一部分にも適用す

【第三十七条】
戦地仮病院及陸軍病院は兵力を以て之を守るときは其の局外中立たるの資格を失ふものとす、但し警察を守衛に用いるは妨げなし

【第三十八条】
陸軍病院の器具什物等は交戦条規に従て処置すべきものなり、故に該病院付属の各院は其の退去の際各自の私有品を除くの外爾余の物品を携帯することを得ず、但し戦地仮病院は前項の場合に於ても其の器具什物等を保有することを得

【第三十九条】
前条規定の場合に於ては戦地仮病院なる名称は野戦病院及其の他病者及傷者を受容する為戦地に於て軍隊に随従する臨時病院に適用するものとす

【第四十条】
病院戦地仮病院並に患者及負傷者の輸送に使用する人員及物件を表示する為白地に赤十字を画したる顕明なる旗章及制服を用い且必ず之に国旗を副ふべし


第二款 被占領地

(甲)定義

【第四十一条】
一の境域を以て占領せられたりと為すは敵軍の侵襲を受けたる結果として所轄の国家が事実上此の境域内に於て其の平生行ふ所の権力を行ふことを停め、侵襲せる国家の外能く秩序を保持するの地位に在る者なきに至りたる時に存す、其の占領の範囲及期限は此の事情の現存する場合及時日の際限に依り定まる

(乙)人に対する行為の条規 

[臨時政府の変更せるが為に新しき関係を生ず依て左の諸条あり]
【第四十二条】
占領軍の軍衙は成る可く其の行ふ所の権力並に占領の地域を被占領地の住民に告知すべき義務あるものとす

【第四十三条】
占領者は其の権内に存する総べての方策を用いて公共の秩序を回復し及保持すべきものとす

【第四十四条】
占領者は其の邦土に於て平時に有効なりし法令を成る可く保存し、必要の場合に限り変更し、中止し又は廃除すべきものとす

【第四十五条】
各種の文官にして引続き其の職務を執行せんことを承諾する者は占領者の保護を受くべし
占領者は何時にても彼等を罷免することを得べく、又彼等は何時にても辞職することを得べし。彼等其の自由の意志を以て承受したる義務に背くときは唯だ之を懲戒の処分に付するに止まるべきものなり。彼等に於て敵の信任を売らんとしたるときは必要に応じ如何に処罰するも可なり

【第四十六条】
緊急の場合は占領者に於て占領地の住民に命じて地方行政の事務を補助せしむることを得

[占領は住民の国籍に変更を来たすに非ざるを以て左の各条あり]
【第四十七条】
占領地の民衆を強制して敵の権力に対し忠順又は服従の誓を為さしむることを得ず然れども占領者に対し敵抗の行為ある者を罰するは妨げなし(第一条参照)

【第四十八条】
占領地の住民にして占領者の命令に従はざる者は之を強制することを得べし
然れども占領者は住民を強制して其の攻防の工事を助けしめ又は其の本国に敵対する作戦に与らしむることを得ず(第四条参照)

【第四十九条】
人命、婦徳、信教及礼拝の形式は尊敬せざるべからず、又勉めて家族の生活に干渉することを避くべし

(丙)物に対する行為の条規

(イ)公有財産
[占領者は占領地を支配する為に或る関係に於て合憲政府に代ると雖亦無限の権力を有するに非ず、其の土地の運命結局するまで(換言せば和約の成るまで)占領者は直接に作戦の用に供すべきものを除く外敵の財産を自由に処分する権なし、是に於て左の各条あり]
【第五十条】
占領者の領取することを得べきは国有に属する金円及債権(有価証券を包含す)、兵器、弾薬及概して兵戦の用に供すべき国有動産に限る

【第五十一条】
運輸の方便(国有鉄道及其の列車、国有船舶等)並陸上電信、海底電信は占領者の使用に供する為之を差押ふることを得るのみ、戦争の必要止むを得ざる場合の外は之を破壊することを禁ず、平和に復するときは現状の侭之を返還すべし

【第五十二条】
占領者は敵の国有に属する不動産、即ち家屋、森林、農地等を使用し及之に対し行政事務を行ふことを得るに止まる
敵の国有不動産は之を離権することを得ず、且之を完全に保管せざるべからず

【第五十三条】
市町村及之に類する団体の財産、教法、仁恤及教育上の設営に属する財産、並に学術技芸の為に存する財産は略取の外たるべし
総べて此等の目的の為に存する建築、並に歴史上の紀念物、文庫及学術技芸の製作品は戦争の必要断然止むを得ざる場合の外之を壊毀し若くは故意に損害することを禁ず

(ロ)私有財産
[占領者の権力にして既に国有財産に対し制限せらるゝ以上は一私人の財産に対して制限せらるゝこと固より明なり]
【第五十四条】
私有財産は一個人、団体、会社及其の他何等の主体に属するを問はず之を尊敬すべし、之を没収することを得るは下の数条に指定したる場合に限る

【第五十五条】
運輸の方便(鉄道及其の列車、船舶等)電信、兵器及軍需品の倉庫は一個人又は会社の所有に属するに拘らず略取することを得べし、然れども成る可く和約成るの時に至り之を返付すべし、且其の所有主に負はしめたる損失を賠償せざるべからず

【第五十六条】
現品供給(徴発)を一地方又は一個人より要求するは一般に認められたる戦争の必要に相当すべく、且其の邦土の資力に比例するを要す
徴発は占領地司令官の特別の准許あるに非ざれば為すことを許さず

【第五十七条】
占領者に於て租税及賦課を徴することを得るは被占領国に於て従来設定したる所に限る、即ち之を以て行政の費用に充つべく、其の之に充つるの額も亦合憲政府の用途に支出せし額に依るべし

【第五十八条】
占領者に於て用途徴収を為すことを得るは未納の罰金又は未納の租税又は差出すべくして差出さざる現品供給に代ふる金額に限る
用金徴収は主長将官又は占領地に設けたる最上行政官衙の命令に依り其の責任を以てするに非ざれば課することを得ず且其の比率(ワリアイ)は成る可く従来より存したる納税の比率に依るべし

【第五十九条】
軍隊宿舎及軍用徴収より超る負担の割付けを為すに於ては一個人が負傷者の救護に熱心なるの度を酌量すべし

【第六十条】
軍用徴収の金額並に代価未済の徴発物品に対しては領収書を交付すべし、此等の領収書を遺漏なく且適当の形式を以て交付することを確保する為に手続きを一定するを要す


第三款 俘虜
(甲)擒状(俘虜たる地位に在る者の状態を云ふ)

[監守は俘虜に被らす刑罰に非ず、又讎仇の沙汰に非ず、唯だ一時の拘留にして全く悪罪の性質なきものなり、即ち下の数条に於ては一方に於て俘虜に加ふべき尊敬を計り他の一方に於て其の監守を強固にするの必要を量りたり]
【第六十一条】
俘虜は敵の政府の処分に属す、之を捕擒したる一個人又は軍隊の処分に属するに非ず

【第六十二条】
俘虜は敵の軍隊に於て有効なる法律規則に服従する義務あり

【第六十三条】
俘虜は仁愛を以て取扱ふべきものとす

【第六十四条】
凡そ俘虜の一身に属するものは兵器を除く外永く其の所有たるべし

【第六十五条】
俘虜は尋問に従ひ其の真正の官氏名を以て答ふべきものとす背くときは自己の同様の地位に立つ他の俘虜の享有する緩典の全部又は一部分を削らるゝことあるべし

【第六十六条】
俘虜は市邑、城砦陣営又は其の他の場所に留置し境界を確定して之を越ゆることを禁ずべし、然れども之を一屋舎内に監禁するは堅固に拘留する為に此の如き監禁を必要とする場合に限るべし

【第六十七条】
違令に対しては之を監制する為に必要とする限り厳重なる制策を用いるも妨げなし

【第六十八条】
逃走する俘虜あるときは降服を号令したる後之に対し兵器を用いることを得
逃走する者若し其の軍に帰着する前に又は捕者の権下に属する土地を脱去する前に再び捕獲せられたるときは之を罰すべしと雖其の罰は全く懲戒の性質に出づべし、或は普通俘虜を遇するよりも更に厳重なる監制を被らすことを得。一旦逃脱を遂げたる後再び捕擒せらるゝ者は罰せらるゝこと無し然れども若し前に逃脱せざるの宣誓を為したる者なるときは俘虜たるの権利を失ふ

【第六十九条】
俘虜を拘留する政府は之を扶持する義務あり
扶持に関し交戦国の間に別に■■約き場合は捕者たる国家の軍隊が平時に於て受くる所に等しき被服食料を給与すべし

【第七十条】
俘虜は如何なる方法を以てするも交戦の作用に与らしむへからず、又其の本国又は軍隊に関する報告を為すことを強迫すべからず

【第七十一条】
俘虜は之を戦場に於て実行する作業と何等直接の関係なき政府の作業に使用することを得べし、但し其の労働の種類又は分量は彼等を疲衰せしむるものならざるを要し、又之に命ずる工事は若し軍隊に属するものなれば其の軍人としての分限を辱しむることなく、軍隊に属するものに非ざれは其の官職又は社会上の地位を辱しむることなきを要す

【第七十二条】
俘虜民間の傭役に従ふことを許す場合に於ては其の給料は監守する政府之を収め必要の場合に於て先つ扶持の費用を控除し、余分あれば之を彼等の怡楽に供する為に支出し或は解放の時を以て彼等に交付すべし

[捕擒したる敵を抑留するを正当とする理由は戦争の継続する間のみ存立するものなり故に左の規程あり]
【第七十三条】
俘虜の擒状は和睦の約成るとき自然に消滅す、然れども実際之を解放する時期及方法は関係政府の合意を以て定むる所に依る

【第七十四条】
擒状は一般解放の為に定めたる期日に至り自然に止む病者負傷者の場合は治療の後再び戦役に堪へずと認めたる時を以て止む
捕者たる政府は彼等の戦役不能を認定したるときは直に本国に返送する義務あり

【第七十五条】
俘虜は交戦国の間に締結したる交換規約に依り解放せらるゝことあり

【第七十六条】
俘虜は其の本国の法律之を禁ぜざるときは宣誓の上解放せらるゝことを得。宣誓の条件は之を明細に規定すべし。解放を受けたる者は其の名誉を賭して自ら約諾したる所を綿密に履行する義務あり。彼等の政府は彼等の誓旨と相容れざる各種の勤務を彼等に要求し又は彼等より承受することを得ず

【第七十七条】
俘虜を強迫して宣誓の上解放を受けしむることを得ず。之と同様に敵の政府は宣誓の上解放せられんとする俘虜の要求を容るべき義務なし

【第七十八条】
宣誓の上解放を受けたる俘虜其の誓約したる政府に反対して兵器を取るに際し再擒せらるゝときは俘虜たるの権利を奪はる、但し其の解放に以後に締結せられたる交換規約に於て無条件に交換したる俘虜中に包含せらるゝ場合は此の限りに在らず


第四款 中立地内被留置者

[中立国は交戦者を補助すべからず、就中交戦者をして其の領地を利用せしむるは中立の義と相容れざることを一般に認められたる所なり然れども仁愛の主義よりすれば殺傷捕擒を避くる為に庇隠を請ふ者を拒絶する義務を認め難し、是に於て此の二の必要を交和する為に左の数条あり]
【第七十九条】
中立国若し其の領地内に交戦者の軍勢に属する軍隊若くは軍隊若くは諸人の庇隠を求むる者あるときは之を成る可く戦地より遠隔せる所に留置せざるべからず
若し中立国の領地を作戦の方便に使用せんとする者あるに於ても前項同然の処分を為すべき者なり

【第八十条】
留置する諸員は之を陣営に置き、或は城塞又は其の他の安全なる場処に拘禁することを得べし
士官公許なくして中立地境を脱出せざる旨を誓約する者あるとき立誓の上之に自由を与ふべきや否は中立国之を決定す

【第八十一条】
被留置者の給養を規定する特別の条約を欠くときは中立国其の食物被服を支給し且其の他の方法に依り仁愛の為に必要とする範囲に於て之を保育す
中立国は被留置者が中立地内に入るに際して所持したる戦具を保管す
和約の上又は其の以前に於て成るべく速に被留置者の属する所の交戦国より中立国に対し留置の費用を弁償すべし

【第八十二条】
千八百六十四年八月二十二日の赤十字条約(上文第十条より第十八条まで並に第三十五条より第四十条まで及第七十四条参照)は中立地内に庇隠を求め又は此に移されたる病院所属員並に病者負傷者にも之を適用す

【第八十三条】
病者負傷者にして俘虜に非ざる者は中立地内を経て之を移送することを得べし、但し之に随伴する者は病院所属員に限るべく且之と倶に運搬する物品は病者負傷者の為に必要なるものに限るべし病者負傷者をして其の地内を通過せしむる中立国は右の条件の厳重に履行せられんことを確保する為に必要なる各種の手段を施すべき権利なり

第三部 罰則

[前数条に違反する者あるときは所轄の交戦国に於て審理の末之を処罰すべきものなり]
【第八十四条】
戦争の条規を犯す者は其の国の刑律に規定する所に依り処罰せらるべし

[然れども処罰に依り戦規違反を制止する方法を用うべきは犯者にして被害者の権内に在る場合に限れり、若し其の権力の及ばざる所に在るときは此の方法を用うべからず、故に被害者は其の処犯重大にして戦規励行の必要上止むを得ざるに於ては報復手段に依るの外なし、報復手段の時に使用せざるべからざるは慨嘆すべき所にして寧ろ他人の罪を以て不幸を罰せず敵戦規に背くも我れ之を守るべきの一般原則に対する例外として見るべきものなり、報復を行ふの権は左の規則に依り之を緩化すべし]
【第八十五条】
故障の原因たりし侵害を賠補したる上は報復を許さず

【第八十六条】
報復の已む可からざる重大の場合に於ても其の性質及範囲は敵の為したる戦規違反の度外に出づべからず
報復は司令長官の允許を以てするの外之を行ふことを得ず
報復は如何なる場合に於ても仁義道徳の法に違ふことあるべからず

高橋作衛『戦時国際法要論』第4版、明治44年、p343-362


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