きょうのコラム「時鐘」 2009年5月13日

 大ニュースが起きると、よその出来事が目立たなくなる。「小沢代表辞任」で「森光子さんに国民栄誉賞」がいささかかすんだ

「この身をなげうつ」と悲劇の主人公を演じる政治劇も面白いが、強い感動を呼ぶのは「放浪記」上演2000回という女優魂である。加賀・山中座の名誉座長で、「山中節」を愛する人でもある

節目の舞台の後、森さんは苦難の時代に作った句を披露した。「あいつよりうまいはずだがなぜ売れぬ」。芸能人に限らず、誰もが心に抱く思いであろう。身の不遇を嘆くのは簡単だが、それをバネに飛躍するのは容易ではない

「放浪記」の初演は1961(昭和36)年。その8年後に小沢代表は政界に入り、長く表や裏の主役を演じてきた。降り掛かった献金事件も、森さんの句になぞらえるなら「あいつらもやってるはずだがなぜ辞めぬ」か。「説明責任」を求める声が依然聞かれるが、説明できる話なら、とうに済ませていただろう。政治の世界は分かりにくい。裏があり、裏の裏もある

森さんの舞台は、なお続く。感動とは無縁な分かりにくい政治劇も、幕が降りる気配はない。