牧太郎の大きな声では言えないが…

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牧太郎の大きな声では言えないが…:いたずらに袋だたき?

 「いたずら」は「徒」と書いて無益、無用のこと(「悪戯」と書けば「悪ふざけ」。意味が違うが)。人々はこの「いたずら」という言葉を巧みに使う。

 最高裁が示した「わいせつ表現の3要素」にも「いたずらに」の名文句が使われている。

 「わいせつ(猥褻)とは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥(しゅうち)心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」

 無益、無用とは言わず「いたずらに」と書くところがミソ?

 例えば場末のヌード劇場で踊り子が肌をさらして踊るのは、彼女らにとっては生きるための経済行為。「無用なことではない」と言いたいが「いたずらに」と言われると、何となく文句が言えない雰囲気になる。この言葉には、何やら“宗教的な響き”が隠されているのかもしれない。

 わいせつは「時代と場所を超越する固定的な概念」ではない。そのあいまい性を「いたずらに」という言葉で上手にカバーする。

 SMAPの草なぎ剛クンが酒に酔って、深夜の公園で「いたずらに」全裸になった。公然わいせつ容疑の現行犯で逮捕された。

 間抜けな話だ。が、これが「公然わいせつ」に当たるのか?

 彼が逮捕された直後の4月24日朝、僕はブログで「朝になったら、町内におわびすれば許されることではないか? 公然わいせつの疑い? そうだろうか? 真っ暗な公園で、誰も見ていないのに、なぜ『公然』なのか」と書いた。

 安眠妨害ではある。警察が彼の身柄を確保したのも適切だと思う。が「公然わいせつ」だろうか? マスメディアが大々的に報道する一大事なのか? 政治家が「最低の人間」とこき下ろすほどの悪行なのか? 寄ってたかって、草なぎクンから仕事を奪った。

 5月1日、東京区検は草なぎクンを起訴猶予処分にした。理由は「反省しており、社会的制裁も受けたため」。寛大な措置と考える向きもあろう。しかし、僕は逆に「恐ろしさ」を感じた。

 本当に「公然わいせつ」だったのか? 「社会的制裁を受けた」という理由は「いたずらに有名人を袋だたきする(マスメディア主導の)風潮」を肯定的に評価することにならないのか?

 法の厳密な執行より「社会的制裁の有無」を重視する体制。いたずらに袋だたきする「権力」に恐怖を感じたのは、僕だけだろうか?(専門編集委員)

毎日新聞 2009年5月12日 東京夕刊

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