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【社説】

四川大地震1年 重い教訓世界に発信を

2009年5月13日

 中国の大震災から一年。震源地で開かれた追悼式で、胡錦濤国家主席は復興を一年繰り上げ二年で達成することを誓った。被災者が訴える震災対策の問題や教訓にも耳を傾け世界に発信してほしい。

 昨年五月十二日、四川省中部の〓川(ぶんせん)県を震源地に発生したマグニチュード(M)8・0の地震は死者約六万九千二百人、行方不明者約一万七千九百人を出した。

 過去、中国を襲った地震と異なったのは政府の動きだ。発生直後から外国報道機関に現地取材を認め救援を求める人々の姿が現地から生中継された。

 建国以来、初めて日本をはじめ外国の救助隊を受け入れ援助の輪は世界に広がった。中国紙「南方週末」は人命最優先の対応を「人民と世界に普遍的価値の実現を約束した」と高く評価した。

 地震で各地の学校施設が倒壊し多くの子供たちが犠牲になり、手抜き工事が疑われた。しかし、震災一年を前に記者会見した四川省当局者は「これまでに建築の質が原因で倒壊した建物の例は見つかっていない」と述べた。死亡・行方不明となった同省の生徒数は五千三百三十五人にのぼると初めて明らかにした。

 子供を亡くした親たちから、もっと多いはずだと疑問が出ている。不信の原因は責任追及の動きが当局に規制され、裁判所も訴訟を受け付けようとしないためだ。十二日も責任を問う親たちの活動は封じられ、取材も妨害された。

 震災一年を迎えメディアは政府の対策や復興の動きをたたえる報道一色になった。マスコミを監視する党中央宣伝部は地震の教訓や反省など「後ろ向き」の報道はしないよう指示を出したという。

 人命最優先を評価した南方週末の報道などに対しても「普遍的価値の信奉は社会主義の道を否定する意図がある」という批判のキャンペーンが展開されている。

 「逆流」の背景には金融危機で中国の高度成長が減速して失業者が増え、社会の安定を最優先にせざるをえない事情がある。しかし、多くの犠牲を払った震災の反省や教訓は中国だけでなく世界に通ずる貴重な価値がある。報道も許さず封印しようとするのは賢明とは思えない。

 四川大地震を教訓に日本も、三年間で小中学校施設の耐震化を加速する特別措置法を制定した。文部科学省の調査で、震度6強で倒壊の危険がある建物が四万棟以上に上ることが分かっており、予算措置を急がなければならない。

※〓はさんずいに文

 

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