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【主張】日露首脳会談 疑問残る経済連携の先行
麻生太郎首相は12日、4年ぶりに来日したロシアのプーチン首相と会談した。両首脳は原子力や税関、密漁防止などで協力する文書に調印し、経済的な連携を一層深めることで合意した。ただ、懸案の北方領土問題では「日露双方が受け入れ可能な方法を模索する作業を加速する」ことを確認するにとどまり、今後に懸念を残す形となった。
プーチン氏は記者会見で、今回の会談を踏まえ、「7月のイタリアでの主要国首脳会議(サミット)の際に行われる日露首脳会談で、あらゆるオプションが話し合われる」との見通しを示した。麻生首相も「日露関係を高い次元に引き上げる重要な一歩だ」と一定の評価を下した。
しかし、こうした合意は、日露が領土交渉を活発に行ったソ連崩壊直後から毎回のように繰り返されてきたものである。領土問題の解決の道筋はいぜん、ついていない。会談は、当初から経済中心としていたロシア側の思惑が先行する形で終始した感は否めない。
プーチン氏は首脳会談に先立ち日本経団連主催の経済フォーラムで講演し、東シベリア開発や原子力などのエネルギー関連をはじめ、環境・技術などの分野での日露協力に強い期待感を示した。
ロシアの国家財政は原油・天然ガス価格の急落で苦しさを増している。今回の訪問を経済優先とした背景には、資源に依存するロシアの自己資金が払底する中で、日本の資金や技術に目を向けざるを得ないロシア側の事情がある。
日本はあわてる必要はない。東シベリアの油田開発などが今後の課題となるが、日本企業が参画するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」では、ロシア側に半分の権益を半ば強制的に譲渡させられた苦い経験がある。そうしたことを想起しながら、協力関係を進めていくべきだ。
原子力協定もメリットばかりが強調されているが、ロシアは核開発の野望を捨てないイランなど米国が警戒する国々とも積極的に協力している。協定締結も、リスクとコストを含めた日本国内の議論を深める必要があった。
経済面ばかりを重視していると北方領土問題は置き去りにされ、その重要性や解決の必要性が薄められる危険がある。日本側は今後ともロシアの経済優先策に惑わされず、四島返還の原則を貫き、粘り強く交渉を継続すべきだ。