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社説2 プーチン首相来日の意味(5/13)

 ロシアのプーチン首相が来日し、麻生太郎首相と会談した。北方領土問題で目立った進展はなかったが、協議の加速とともに四島の帰属問題を解決してこそ、日ロが真の戦略的パートナーになり得るという点で一致したことは一定の意義がある。

 プーチン首相は昨年5月まで8年間も大統領を務め、今もメドベージェフ大統領との双頭政権を担っている。なお大きな影響力を持つ実力者だ。外交は大統領、内政は首相という大まかな役割分担はあるが、重要案件は2人が協議して決めているとされる。日本政府がプーチン首相訪日を重視したゆえんでもある。

 普段は経済対策など内政に忙殺されるプーチン首相が、数少ない外遊先に日本を選んだ理由は明白だ。極東・シベリア地域を中心に日ロの経済連携を強化し、国内経済の活性化に結びつけたいとの期待である。

 資源高を追い風に急成長してきたロシア経済は、米国発の金融危機や原油相場下落の影響で急減速している。国際通貨基金(IMF)はロシアの今年の実質経済成長率がマイナス6%まで落ち込むと予測する。経済苦境の長期化は、首相の人気低落にもつながりかねない。

 両国は今回、日ロ原子力協定など多くの協定や覚書に署名した。日ロの経済連携の成果を誇示できる訪日だったといえよう。

 日本にとって重要なのは、今回の首相訪日を領土問題の進展にどう利用していくかだ。

 プーチン首相は「平和条約締結のために経済協力を拡大しようとしている」と語った。経済協力だけが先行し、領土問題が置き去りにされるとの日本側の懸念をぬぐい去る意味でも、前向きな対応を求めたい。

 7月に予定されるメドベージェフ大統領との日ロ首脳会談では領土問題を協議することも確認した。プーチン首相は「あらゆる選択肢を検討する」と述べたが、日本側が4島の日本帰属という主張を堅持すべきなのはいうまでもない。

 平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言の履行が最大限の譲歩とするロシアとの溝はなお深いが、首脳間の政治対話や経済協力を重ねて打開の道を探るしかない。

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