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社説:日露首脳会談 負の遺産除去へ努力を

 麻生太郎首相とロシアのプーチン首相が会談し、北方領土問題について4島の帰属問題の最終的解決を図る必要性で一致し、作業を加速することを確認した。7月のイタリアでの主要国首脳会議(サミット)の際に予定されている麻生首相とメドベージェフ大統領の会談で領土問題の前進が図られることを期待したい。

 2月にサハリンで行われた麻生首相とメドベージェフ大統領の会談では、北方領土問題について「新たな、独創的で型にはまらないアプローチ」による解決を図ることで一致した。このため、プーチン首相の発言内容に関心がもたれた。

 加えて、プーチン首相訪日を前に、麻生首相の外交ブレーンである谷内正太郎政府代表が毎日新聞のインタビューで「3・5島返還でもいいのではないか」と述べたことが波紋を広げた。谷内発言は首相の胸の内を代弁したものではないか、との憶測を呼んだ。

 麻生首相の説明によると、会談で両首相は「日露間に平和条約が存在しないことは幅広い分野での関係進展の支障になっている」との認識で一致し、「我々の世代で解決するためこれまでの合意、文書に基づき双方に受け入れ可能な方策を模索する作業を加速する」ことも確認した。

 さらに、プーチン首相は「負の遺産を早く取り除くことが重要だ」とも語ったという。領土問題解決への意欲の表明と受け止めたい。

 ロシアは原油、天然ガスの価格下落と金融危機のあおりで苦しい経済状況にある。雇用情勢も悪化し、給与遅配や失業率上昇で国民生活への影響も出始めているという。

 メドベージェフ大統領との「双頭体制」の下で内政・経済問題を担当するプーチン首相としては、日本との貿易、経済交流の促進に力を入れたいとの思いがあるのだろう。経済関係4閣僚や企業関係者を同行させ、日本経団連主催のフォーラムで対露投資の拡大を訴えたのもそのあらわれといえる。

 両首相は原子力の平和利用を前提に核物質や技術の移転の枠組みを確立する日露原子力協定、国際犯罪の捜査協力強化のための刑事共助条約などに署名した。こうした協力拡大は双方の利益につながるだろう。

 ただ、北方領土問題での交渉対象を4島とする日本と、2島返還をうたった1956年の日ソ共同宣言を基礎にした解決を基本とするロシアとの溝が埋まったわけではない。プーチン首相は共同記者会見で、7月の首脳会談では「3・5島返還」方式も含むあらゆる選択肢が話し合われるとの見通しを明らかにした。日本はそれに備えた、しっかりした戦略を練っておく必要がある。

毎日新聞 2009年5月13日 東京朝刊

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