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社説

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ロシアと日本―長期戦略がほしいのだが

 ロシアの大統領を8年間つとめたプーチン氏が、今度は「首相」として訪日し、麻生首相らと会談した。

 昨年の大統領選挙で当選した43歳のメドベージェフ大統領との二人三脚は「2頭体制」と呼ばれる。首相はもっぱら経済政策を担当し、大統領が外交、軍事などを仕切るという分業だ。

 とはいうものの、強権的な統治や国民の厚い支持に支えられたプーチン氏の威光に陰りはない。ロシア最高首脳の久々の訪問といっていいだろう。

 今回、さまざまな協定文書が署名されたが、注目されるのは日ロ原子力協定だ。これにより、原子力発電用のウラン濃縮をロシアに委託できるようになるなど、原子力分野での協力が大きく広がる。

 地球温暖化対策の必要から、世界で原子力回帰の動きが強まり、ウラン燃料の需要が増えると予想されている。これまで大半を欧米に依存してきた日本にとって、ロシアにも供給源を広げられる意義は大きい。

 世界最大とされる濃縮ウランの供給能力を持つロシアも、日本という大消費国に販路が開かれる。

 ただ残念なのは、日ロ間に横たわる最大の懸案である北方領土問題がなかなか進展しないことだ。プーチン氏は記者会見で「(今後)あらゆる選択肢が話し合われる」と、ロシア側の前向き姿勢を強調したが、具体的な展望が開けているわけではない。

 両国の経済交流はここ数年、拡大の一途をたどり、貿易総額は03年の約60億ドルが08年には約300億ドルと、5年間で5倍も伸びた。ロシアにとって、今や日本はドイツ、中国などにつぐ主要貿易相手国である。

 経済での結びつきが深まれば、領土問題解決への環境ができると期待されていたのに、領土はすっかり置いてけぼりの様相だ。日本の首相が毎年のように交代するという、不安定な政権が続いたことが痛かった。

 日本政府も、交渉を動かそうと努力はしている。2月の麻生・メドベージェフ会談では「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」で領土問題の解決を目指すことで合意した。

 ロシア側が誠意をもって新アプローチに基づく具体案を示すことを期待したいが、そうこうしているうちに、世界不況の影響で日ロ間の貿易が急激に冷え込んできた。経済危機が長引けば、せっかく積み上げてきた経済面での協力は再び低調な状態に戻ってしまいかねない。

 ここを踏みとどまるには、日本側の腰を据えた取り組みが不可欠だろう。長期的な視点で対ロシア外交の戦略を描いてこそ、領土という難しい問題を動かすことができるのではないか。総選挙を控えた今の麻生政権に、そんな余裕があるとは思えないのが残念だ。

スリランカ内戦―人道危機と日本の責任

 20年以上続いてきたスリランカ内戦が重大な局面を迎えている。

 分離独立を求める少数派タミル人の武装組織「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)が政府軍の攻撃にさらされ、北部のわずか3平方キロメートルの地域に追い詰められている。

 そのLTTEは敗北を前に、まったく無謀な行動に出た。地元住民を部隊と一緒に行動させ「人間の盾」としているのだ。武装勢力の家族や支持者が一部いるとはいえ、大部分は強制されていると見て間違いあるまい。

 先月末には約10万人の住民が戦闘の合間にLTTEの支配から逃れた。しかし、国連の推定でまだ最大5万人もの住民が残されている。

 これまでに7万人以上の犠牲者が出ている。最近、仮設病院への攻撃などで住民が死傷したとの報道もある。ここで大規模な戦闘が起きれば、言語を絶する悲劇が起きかねない。

 LTTEの行動が人道上許されないのは明らかだ。即刻、住民の拘束をやめ、全員を解放しなければならない。

 政府軍も軍事作戦を中止し、住民を避難させる措置を取るべきだ。作戦を強行して犠牲者が増えれば国際社会の非難はむしろ政府軍に向かうだろう。また国連などの援助関係者の現地入りも認めなければならない。

 この人道危機を国際社会も見過ごしてはならない。かつてルワンダやスーダンの紛争で、状況判断を誤ったために大勢の犠牲者を出してしまった教訓を思い出すべきだろう。

 日本とノルウェー、米国、欧州連合(EU)の4者は、連携して紛争解決への道を探ってきた。ノルウェーは7年前に双方の停戦合意をまとめた。

 だがこの停戦合意は、LTTEによるテロ攻撃や政府の強硬姿勢への転換によって昨年崩れ去り、ノルウェーとスリランカ政府との関係は険悪になった。米国の関心も自らの利害が絡む他の紛争地域に向きがちだ。

 それだけに、スリランカへの最大の援助国であり、政府とのパイプを保つ日本政府の責任は重い。「人間の安全保障」理念に基づいた外交を実践するときである。

 政府は明石康・政府代表を最近、現地に派遣し、ラジャパクサ大統領と危機回避策を協議したが、合意は得られなかったという。

 ヒューマン・ライツ・ウオッチなど国際的な人権NGO4団体は麻生首相に異例ともいえる書簡を出した。日本が事態解決のためもっと積極的な役割を果たすべきだという内容だ。

 英仏両国の外相は先月、現地を訪問し、国連安保理が事態解決に乗り出すよう求めている。

 麻生首相は安保理外交をフル稼働させるとともに、中曽根外相を現地派遣するなどして事態解決に動くべきだ。

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