既設のバイオトイレに並ぶ観光客。横には携帯トイレ用の仮設テントが立てられた=2日、鹿児島・屋久島、武田剛撮影
世界自然遺産の屋久島(鹿児島県屋久島町)の入山者が年間10万人を超え、山中でのし尿の処理が大きな課題になっている。シンボルの縄文杉に向かう登山口では携帯トイレの販売が始まり、し尿の持ち帰りを環境省などが呼び掛けている。自然保護のために入山者数を制限しようという動きも出ている。
町や環境省などでつくる屋久島山岳部利用対策協議会は2日から携帯トイレの導入試験をスタート。5日まで1個500円で販売し、観光客が用を足すために使ってもらい、持ち帰るように促す。登山口まで戻れば、使った後の携帯トイレを回収する専用のごみ箱もある。
登山口から縄文杉に至る約5時間の登山ルートには、5カ所の目隠し用テントが設けられた。この中で、携帯トイレを使ってもらうためだ。東京都から観光に来た20代の女性は「常設のトイレよりもきれい」と話していた。
屋久島では10年ほど前からトイレ問題が指摘されてきた。山小屋のトイレには長い行列ができる。山中で用を足す人が多く、森の中にトイレットペーパーが散乱し、景観を損ねる。小屋周辺の沢では、トイレから漏れたとみられる大腸菌も検出された。矢原徹一・九州大大学院教授(生態学)は「局所的に生態系が破壊されている」と指摘する。
屋久島は93年の遺産登録後、観光客が大幅に増加。山岳部に入った人は00年には4万5千人だったが、昨年は10万9千人に倍増。その9割が縄文杉方面に集中する。観光客がすれ違う登山道で普通に見られた島固有の植物も姿を消したという。
抜本的な対策として浮上しているのが入山規制だ。協議会は3月、観光客数を一定数に管理すべきだという方針を決定。屋久島町の日高十七郎町長は「結論から言うとオーバーユース(過剰利用)だ。抑制しないといけない」と話しており、年内にも条例案を議会に提出する意向だ。
複数の協議会メンバーは、縄文杉への日帰り客を1日300人程度に制限すべきだという考えを示す。縄文杉ツアーは観光業にとって大きな収入源とあって「島民の生活も守るべきだ」との意見があり、激しい議論になることは町自身も認めている。(須藤大輔、鈴木彩子)