脚本家の山田太一氏がどこかの雑誌で書いていた。
立ち読みだったので、正確な引用をできないのが申し訳ない。
日本随一の脚本家がいうには、自分は「気持ち」とは書かない。「気持」と書く。
なぜなら若いころ、吉行淳之介がこう書いていたのが記憶に残っているからだ。
「気持ち」の「ち」は気持が悪い。おかしなシッポがついているみたいで。
この文章を読んだ日から、山田太一氏は「気持」と書くようになったという。
そして、以降わたしが「気持ち」と書かなくなったのは言うまでもない。
いつのことだったか。もう４、５年もまえのことかもしれない。
と書いてから申し上げるのも、あれですが、正直者ゆえごめんなさい。
たったいま検索してみたら「本の山」にも「気持ち」がかなりあります。
「ち」は抜くと決めているのですが、ついうっかり……。

シナリオ・センター提出課題の柱に「○〜〜（夕方）」と書いたら、案の定、消されている。
「（夕方）」と書くのはいけない。「（夕）」と書くのが正しい、というのだ。
予測はしていた。まえに「（夕暮れ）」と書いたときも訂正されていた。
理由は「照明の指定なので」。前回とおなじである。
わけがわからない。「夕」も「夕暮れ」も「夕方」も意味するところは同一でしょう。
どうして赤字で指導されなければならないだろうか。
スクールのルールだから。
今現在シナリオを書いてないし、シナリオで食べていた時期もないけれど、先生だから。
だから、なに？　と添削者を面罵したくなる。
わたしが「（夕方）」と書くのは山田太一脚本の真似である。
これから毎回、朱筆を入れられようが、わたしは「（夕）」と書くつもりはない。
だいたいカタカナの「タ」とまぎらわしいではないか。
「（夕方）」のほうがよほどいい。

ひとつわかったことがある。匿名の添削者の無能がよくわかった。
おそらく赤字を入れている自称先生は、人の胸打つ作品を書けないだろう。
書いたこともないだろう。
人間がたった一文字に込める思いを理解できぬものに（人間の）ドラマが書けるものか。
人間をまるでわかっていないと匿名の添削者を嘲笑ってやりたい。
「夕方」を「夕」と書き換えさせるくらいで、教師面をされたらたまったもんではない。
どんな人物なのか知りたいが、これはスクールのトップシークレットらしい（笑）。
本来なら断じて教えられないもの（創作）を教えようとするからこうなるのである。

（追記）いつもなら直前に書いている提出課題を今週はもう書き終わっている。
公開を遅らせているのは、ひと晩寝かせるため。
シナセンのルール強制主義は、かなり書き手の負担になると気がついた。
自己主張の強いわたしでさえ、ついつい赤字を避けるようなシナリオを書いてしまう。
このスクールに通ったことで個性がなくなった受講生も少なくないだろう。
たとえ結果としてコンクールで入賞したとしても、
長い目で見たら（食えていけるか！）それが正しいのかどうか疑問である。
人生は一発勝負ではないのだ。
今日書いたシナリオは意図的にローカル・ルールを破ってみた。
わざとあえて真っ赤に添削されるような習作を書いた。
だれにもわかってもらえないかもしれない。
しかし、だれにも全員にわかってほしいと思うドラマは果たしておもしろいか。
だれかひとりでもいいからわかってほしい。
この欲望から創作されるものが真に人を感動させるのではないか。
シナセンではよくいわれる。
みんながわかるドラマを書きなさい。みんなに伝わらなかったら意味がない。
一面、正しいことは認めるが、
この創作方針は人間の大切な部分を見落としているのではないか、と思う。

COMMENT

misaka URL @
05/12　17:57		 想いですね。.　　シナリオ作家だろうが、小説家だろうが、創作ですしね。たった一字に想いを込めて、なにが悪いのだろうか。そう思いました。

　芸術性ではなく、消費性を求める。あくまでも目的の違いですね。頑張ってください。
Yonda? URL @
05/12　21:04		 misakaさんへ.　

芸術は縁がないです。
芸術を理解したことも、享楽したことも、憧れたこともないと思います。
へそ曲がりなだけでしょう。
押しつけられると逆らいたくなってしまう。

３０を過ぎると当の芸術家以外は、芸術に興味がなくなるのかもしれません。
人生で成功することの難しさを実感します。
コメントの主旨に対応しない返答で申し訳ないです。
ごめんなさい。
Yonderu! URL @
05/12　23:07		 そう、舐めちゃいけない.　
10人の内、7〜8人の舌に合う味付けをする。
これは、大衆食堂です。
化学調味料をぶっ込んだ、1コインメニューのお手軽量産品です。
否、私は、複雑で緻密な味わいが欲しい。　
いや、そこを味わえるようになりたい。
妥協なき店主のこだわりは、解る人間にしか解らぬ宿命を持つのかもしれない。
想ええばここの店主の味付けに、惚れ込んだ私は 毎度毎度、立ち寄ってしまうのであります。
素材、食感、香り… そして辛味に舌鼓するのであります。

この処、ここの店主はフランチャイズ店の修行に出向いているらしい…
しかしまだ、ここの味付けに科学調味料は混じっていない。　　うれしい限り！

客だって、スープの出汁を研究しているのです。
深い味わいを探っているのです。
真似は出来なくとも、一口一口、至福だって感じるのです^^

ここのメニューには金額がありません。
お金を取ってください。　　メニューに金額を書き込んでよろしい時期かと存じます。
私は必ず足を運びます。
misaka URL @
05/13　07:22		 いえいえ。.　　芸術に逆らうことも芸術です。
　己の道を進んでください。

　では、またきますので。
- URL @
05/13　09:26		 .　私がこのブログを読んだあと「気持」と書くようになったのは言うまでもない。








 

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