岡田斗司夫のオタク日記
2002年3月16日〜3月31日
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3月 その2


16日(土)

 久しぶりに親子三人で映画。「モンスターズ・インク」を見る。「ディズニーアニメに当たりなし、ピクサーに外れなし」が持論の僕も驚きの大傑作。「トイストーリー」よりのピクサー社CG表現技術というより、なんでこいつらこんなにアニメが上手いのか。なのになぜ、手書きアニメの分野では米国はダメなのか。劇場で予告編にかかっていた「ピーターパン2」の凡庸っぷりに比べて始まった本編はシナリオも作画も演出も満点の出来であった。やっぱり違いはシナリオかなぁ。
 午後から三越のタリーズで和美と会議。自伝小説のマーケティングについて。一番の問題は、僕自身が他人の自伝など買わない人間である、ということ。小説形式であろうとなんであろうと、なにが悲しゅうて他人様の人生話読まにゃアカンの?と僕自身が思っているのに、どうしてソレを読者にお勧めできようか。スキャンダルものにしたらある程度の売り上げは見込めるかも知れないけど、これは違うよなぁ。だいたい「売れたい」=金が欲しいんだったら、出版業界なんていう場所にいるのが間違いだな。
 アエラより取材申し込み。「宇宙戦艦ヤマト」に関しての裁判結果が来週に出るけど、その前に事前取材をしたい、とのこと。僕も経緯を細かく知りたかったので受けることにする。この数年、松本零士氏のヤマトがらみの発言にはちょっと疑問があったけど、基本的には係争中の件なので自由にしゃべれないんだろう、と勝手に判断していた。判決はまぁどう考えても西崎氏が有利だろう。これでまたオタク業界の地図書き換えがあるかな?


17日(日)

 いきなり古い知り合いからメール多数。「MUSIX見ていたら岡田が出てたので驚いた!」という内容ばっかり。お前らいい年してモー娘。の歌番組見るなよ。2週間ほど前に「いまいちブレークしないモー娘。新メンバーをアニメキャラにたとえて、活路を見いだす」という企画だったけど、なにしゃべったか自分ではよく覚えていない。まぁテレビのコメント仕事というのは一時間近くしゃべらされて2分程度、なので何をしゃべったか覚えていたら逆に「なんでこういう編集になるのか!」とストレスだけ溜まることになる。
 それにしてもモー娘。の新メンバー、思い入れがないなぁ。僕にとってのモー娘。というのはガンダムでたとえたらファーストのみ。「ラブマシーン」で終わってるんだよね。「逆襲のシャア」が「ハッピー・サマー・ウェディング」かな?ファーストの最後に「ニュータイプが」とか言い出したのは後藤真希加入だし、作画から安彦さんが抜けたのは、市井さやか引退と同じく「俺にとってのガンダムは、これで終わり」という意味を持つからなぁ。ああああ、オタク話を延々と読ませてスイマセン。


18日(月)

 事務所に出社したらモノマガ最新号が来ていた。自分の日記をチェックしたら、なんと中央写真部分のコメントが抜けている!入稿は本文と同時だったのでなにかの事故だろう。というわけで仕切り直して、今回の写真が本来のバージョンです。
 小学館プロから「モテる技術」という新刊の宣伝フライヤーがFAXで来る。ちょっと読んだだけだけどメチャクチャ面白そうなので、担当者にメールする。
 午後から吉祥寺・伊勢丹の「歌行灯」でhm3の鼎談。今回は開田裕治さんをゲストに最近の特撮作品について。いつもどおり話題も進行もメチャクチャだけど、それでも原稿を読んだらなんとかなっているんだろうな。


19日(火)

 自宅近くで交通事故。僕のベンツAクラスと4トントラックが側面衝突した。視界にトラックの鼻先が入ったと思ったら、もう運転席はエアバッグの煙だらけ。身体が動かない。助手席の和美はなんとか車内から這い出たけど、運転席側のドアは電信柱に塞がれて開かない。「こりゃまずいなー」と大脳の一部は言ってるけど、全身が痛み出して動けない。ベンチレーターから煙が出てきて、「ああ、エンジンルームで何か燃えてるよ。焦げ臭いよ。こりゃ一酸化炭素中毒になる」とぼんやり考えて、無理やり助手席側から這い出ようとしたら肩や肘や手首に激痛。折れてはいないだろう、とエンジンを切って、なんとか路上に転がり落ちた。車はもうメチャクチャ。


 相手のトラック運転手はパニックになっているが、なんせこちらはもう事故3回目。それでも救急車がなかなか来ないのは参った。救急病院でCTスキャンやレントゲン十数枚を撮って、診断書を出してもらう。全身打撲に脱臼・捻挫で左手はギブスに固められた。


 石神井警察署で調書作り。そのあと現場検証に行ったらもう夜である。
 現場検証で警官に「これがベンツじゃなかったら、あんた死んでたよ」と言われてあらためて今回の事故の恐ろしさが身にしみる。車は右車輪が宙に浮いて、もう少しで横転しそうな勢いで左方向に4メートルほどすっ飛ばされていた。
 夜、眠ろうにも体中が痛い。痛み止めが効くのを待って、やっと寝入る。


20日(水)

 痛い。昨日は死にかけたんだから当たり前だけど、とにかく身体が痛い。それでも仕事するのが僕の偉いところで、扶桑社の織田さんが来て対談本の打ち合わせ。しかし事故話で進まず、というのは僕はなにをやっているのか。


21日(木)

 キーボードは打てるので仕事。祭日だけどこの二日仕事していなかったのでしかたがない。朝から「オタクの歩き方」をずーっと書き続けて、昼過ぎにようやく完成。
 自分にご褒美を、と和美と一緒に「アリー my Love」を2本見る。アメリカではあらゆる職種で「ギャラと能力」の間に正比例の関係があるのが特徴だ。日本みたいに「プロは全員そこそこの腕前で、収入もほぼ同じ」なんてことはありえない。プロでもへたな奴はとことんへた。上手い奴はとんでもなく上手だけど、ギャラも天文学的数字。この法則はTV業界にも当てはまる。人気の出たシリーズには優秀な(ギャラの高い)ライターが次々と売り込んでくる。僕が見ているアリーは今日で14話。13話をワンクール契約としているから、ちょうどこのあたりからライターやキャラクターの見直しが入っている。設定も微妙に変わりだしたようだ。


22日(金)

 まだ肩や肘が痛い。ベッドに入るのも一苦労だし、寝返りなんかとても無理だ。睡眠不足でアエラの取材を受ける。「宇宙戦艦ヤマト」に関してファンとしての思いや、西崎氏から依頼を受けた経験などを話す。記者の太田氏はヤマトの大ファンらしく、相当に調査しているようだ。裁判の経緯や双方の主張など細かく教えてもらう。
 午後から次回トイフェスの打ち合わせしていると宅急便でポピニカ魂の「宇宙戦艦ヤマト」到着。もう打ち合わせどころじゃなくソワソワする。


 と思ったら、某秘密ルートより大阪万博パビリオンのガレージキットまで到着。しかし仕事は仕事、というか額田さんとフィギュア王で「フィギュアガールズ」を、という話で盛り上がる。電撃ホビーの「モデリング娘。」がいまいち寒い展開なので、ああはならないように注意。スカイビューティーズみたいにやればいいワケだよね。
 夕方、TVCMのオファーが来る。声のみの出演なので交渉を受けてみようっと。


23日(土)

 昨日、無理したから肩が痛い。寝ようとしても寝ころんだ状態が痛いので、いろんな場所にクッションを当てたり、その動きがまた痛かったりですごす。明日は無理しないで動かないようにしよう。


24日(日)

 明日からマンガ夜話収録なので、ブラックジャックをひたすら読む。肩の腫れ、少しはひいてきた様子。


25日(月)

 朝から娘の小学校卒業式。早く着きすぎたので父兄席の最前列だったけど、これがまずかった。校長先生が挨拶で「みなさんに私の大好きな詩人の言葉を話します。相田みつをさんという人の…」と言うもんだから、おもわず吹き出してしまった。でも、誰も笑わないのはヘンだと思うの!
 式が終わってすぐNHKへ。マンガ夜話、今回は初のスタジオでの収録だ。


大ベテラン漫画家・水野英子さんにはさすがのいしかわじゅんも「僕、すごいファンだったんですよ」と敬語を使っている。
 手塚の古書を前にして水野さん、「私もいろいろ持ってたんだけど、松本(零士)さんに貸したら帰ってこない」というと夏目さんが「松本さんはブラックホール。入ったら出てこない」と返した。
 帰ったらヤマト裁判の判決が出ていた。予想通り西崎氏の勝訴。ちょっと具体的に経緯を書いてみよう。
 そもそもは松本氏が「西崎氏が雑誌記事やネット上で『ヤマトの著作者は自分である』と主張したことは名誉毀損に当たるから、新聞などに謝罪広告を掲載せよ」と訴訟したのがはじまり。これに対して西崎氏側から「西崎が一連のヤマト作品について著作者人格権を有することを確認して欲しい」と反訴が出て、今回の裁判では松本氏の主張を退けて西崎氏の主張が通った、というわけ。
 もちろんこれで、ヤマトの著作権が西崎氏のものになった、というわけではない。ロイヤリティーが発生する著作権については、すでに譲渡契約により東北新社側にわたっている。
 しかし今回の判決で、西崎氏は「ヤマト作品の著作者」として著作権とは別に「著作者人格権」というものを有しているということが認められた。『著作は著作者の自己表現であるから、著作権が別の人の手に渡ったとしても、著作者に勝手に作品の内容を改変したり、ゲーム化したり、続編をつくったりしてはいけない。それらには著作者の同意が必要である』という権利なので、今後は西崎氏の同意なくば新作も制作できなくなる。せっかくヤマトを西崎氏から取り上げたバンダイにとっては大きな誤算だろう。
 今回の判決で最も衝撃的な部分は、裁判所が「西崎氏がヤマト作品の全体的形成に創作的に寄与した唯一の著作者である」とし、「松本氏はヤマト作品に部分的に寄与したに過ぎず、原作者でもなければ著作者でもない」とはっきり断定したこと。
 さて、新宇宙戦艦ヤマト、どうなることか。


26日(火)

 井の頭公園の桜はほぼ満開。花見客で歩きにくく、怪我をかばって歩くのに疲れた。
 マンガ夜話収録。アシスタントの笹峰愛ちゃんは今回で卒業。新アシスタントにはちょっと驚くほどメジャーなアイドルになるかも、という噂も耳にした。


27日(水)

 事故から一週間以上たつけど、まだ痛みがマシにならない。ずっと右腕を三角巾で吊ったままだ。昨日のマンガ夜話では本番中は外しているけど、収録が終わると無理した部分が痛み出す。こりゃ長くかかりそうだなぁ。
 午後から小学館プロの編集さんたちと「モテる技術」について話す。男性向けの「モテるための完全マニュアル本」なんだけど、これは売るのが難しそう。買う側の立場で考えると「こんな本を買うの?」という書店員の目が恥ずかしい本だ。しかし面白い本であることは確実なので、なんとか売れるキッカケはお手伝いしたいなぁ。


28日(木)

 自伝小説について和美と会議。ついに突破口を発見した。これは「岡田斗司夫の物語」ではない。「オタク、と世間から呼ばれるかもしれない、私たちの物語」なのだ。あの時代や価値観を説明するために、僕の人生の事件や人物は使用するけど、そこに書かれるのは「ヤマト、ガンダム、スターウォーズに出会ってしまった私たち」でなくてはならない。つまり「自伝」部分は薄くなって、「小説」部分を濃くするわけね。ああ、やっと売れそうな気がしてきた。


29日(金)

 アサヒパソコンの取材。実際に使っているところを写真に撮られながら説明する。「書き下ろしを書くときにはデータベースでカードを作ること」「短い文章でもまず、アウトラインプロセッサで構成を考えてから書き出す」と説明すると驚かれた。やはり物書きという人種は「とりあえず書き出す」という人が多いようだ。アウトラインプロセッサ、めちゃくちゃ便利なのになぁ。


30日(土)

 昨夜大雨が降ったけど、今朝の天気は上々。まだ公園にも桜が残っている。柳瀬君たちは事務所で花見の準備をしているけど、僕は夕方まで和美宅でゆっくりさせてもらう。
 事務所に行くと柳瀬君が台所でパスタを打っていた。あいかわらず「やりすぎる奴」である。広いベランダに大テーブルを出して十人以上の飲み会に参加。倉田真由美さんは風邪でサイン会まで休んだそうで、今日は扶桑社の織田さんとヨーコ会長のみ。しかし僕の周りはお茶の水女子大の木越さん、ねるこみ常連の海老沢さん、デザイナーの小鴨さんと友人の藤原さん、高山さんにアナ部のことねさん、などきれいどころばかり。男は僕に柳瀬君、ホンダでレース用エンジン開発してる松原一号(きょーじゅ)にサブカル古川君、関数電卓の中尾君など東大OBがテーブル片づけたりと働いている。松原弟とファミコンゲーム音楽イントロクイズなどして遊んでいたら、夕方からさらに慶応大学の山野さんやライターの渡辺さんが参加して、いつのまにうちの事務所はこんなに女性の出入りする場所になったんだろうか、と驚く。


 カプコンに就職して四国のゲーセンで働く松原二号、お前の知っていた男臭〜いオタキング事務所は、もう過去のものになっちまったぞ。


31日(日)

 昨日、はしゃぎすぎて肩が痛い。それでも明日からのオタクアミーゴス公演に備えてビデオの編集をはじめる。もう二週間近くなるのに治らないなぁ。このまま一生、肩と肘が痛いんだろうか。イヤだなぁ。


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