グローバリゼーションが作り出すもう一つの力学をどうつかみ取るか |
相つぐ食品
価格の値上げ
コーヒーの国際価格が値上がりした。おおよそ八年ぶりの高値である。巷のコーヒーショップも軒並み店頭価格を十円から二十円値上げした。
コーヒーをはじめ乳製品、パンやうどんの原料となる小麦粉に至っては、三〇パーセント値上がりした。こうした物価上昇の大きな要因としては、BRICsと言われる右肩上がりの成長目覚ましい新興諸国、つまりブラジル、ロシア、インド、中国といった国民のコーヒーや小麦をはじめ乳製品などの消費が増えたため、需要に対して供給側が価格設定を上げてきたためと言われている。(注1)
最近、日本国内のデフレ、つまり商品価格の下落傾向は一転して、家計を直撃する食料品の価格が著しく上がった。
ベトナムの
農作物転換
また北京オリンピックの前哨で沸く中国で、お茶に替わり何倍も高いコーヒーが飲まれるようになった。新興国のBRICsに続くひとつとして近年必ず名前が上がるベトナムが、これまでの農作物をやめ、中国や新興国向けのコーヒー市場に向けて、生産をすでに切り替えるものも出てきている。
まさにいわゆる「他山の石」であり、国際分業と比較優位の論理からくる生産物の転換、つまり、グローバリゼーションの展開でもある。
ブラジルの石油
会社が企業買収
風が吹けば桶屋が儲かるという諺は、こうした経済効果の現象では、ある主体が様々な過程をとおして、何倍もの支出になる乗数効果や投機的マネーの動機として、その波及効果の例えに持ち出される。こうした投機的要因もまたこれらの関連した物価上昇のひとつの理由に他ならない。
また工業製品にもそれは波及効果をもたらしている。ちなみに日本の自動車メーカーによるBRICs内の生産は、予測値で二〇一一年には、年間五百万台を超えるといわれており、北米市場とちょうど逆転するといわれている。
ブラジルに至っては、ブラジル国営石油会社ペトロブラスが、米国エクソンモービル系の石油精製会社である沖縄にある南西石油を買収する。百億円を投資して、日本に拠点を造る戦略に出ている。
ドルからユー
ロへのシフト
また新興国の投資マネーが急増していることを追記しなければならないだろう。国際通貨基金(IMF)のデータを基に米連邦準備理事会(FRB)の推計によると、中国、ロシアや中東各国など百五十五カ国・地域から先進国に向かった資金は、二〇〇六年に前年比二五%増の計六千三百八十億ドル(約七十七兆円)にのぼり、過去最高となった。原油、鉄鉱石など資源や工業製品、サービスの輸出で急増した新興国の黒字が還流した。投資マネーとは、国際収支のうちの資本の純流出額(流出額マイナス流入額)と外貨準備の増減の合計を言う。
こうした新興国やベトナムに対して日本、米国、EUは、すでにビジネス・パートナーとして歓迎し始めている。
世界貿易センタービルのテロ事件後、一九九〇年代のアメリカ一国覇権時代がゆらぎ、多くの国は、新興国や発展途上国も先進国も外貨準備をドルからユーロへと微妙にシフトしはじめた。これはイラク戦争を強行した米国よりイラク戦争に反対するEUをより支持したからだ。
資本主義の歴史
過程の現段階
かつて、ローザに影響を受けたケインズ主義者のジョーン・ロビンソンは、『マルクス、マーシャル、ケインズ』のなかで第三世界の革命の根拠を説明、分析した。つまり「資本主義を超える段階としてではなくその代替物として、すなわち産業革命を共有できなかった諸国民が、その技術的成果を模倣することのできる手段、異なる一組のゲームのルールのもとで急速な蓄積を達成する手段として」第三世界の革命の総括を試みた。
さらに遡り、アダム・スミスが、『国富論』第四編第七章で述べた大航海時代、十五世紀の地理的大発見は、グローバル化の原点ともいえる。アダム・スミスは『国富論』で、それが原住民に恐るべき不幸をもたらしたのは、当時たまたま欧州の軍事力が優越していて不義不正の限りを尽くしたからで、自由な交易が定着すれば知識や技術が普及し、こうした力の地域間格差は縮まるはずだと予測した。またその時には、「この各地域が産業の発達と生活の向上を刺激しあうだろう」とその将来を展望した。
最近では、一部経済アナリストが、金融危機で揺れる世界市場を救済できるものは、新興国の投資マネーのみと発言するなど、かつて世界が経験しなかったこうした新興国の台頭は、その国内に歪みを進行させもしている。
例えば、かつて韓国が戦後の政治過程で、独裁的政治家主導の下で、開発独裁を経験し、米国の経済援助のもと韓国の工業資本の隷属的性格を刻み込むことになった。
かつて、カリフォルニア大学教授ロバート・スカラピーノは、「コンロン報告」で、この米国の韓国支配の実態を告発する貴重な資料を提供している。その中でスカラピーノは李承晩政権の腐敗を認めながらも、韓国の存在価値を、まずその対共産圏前線基地におき、反共諸国、特に日本との提携によって経済力を強化すべきことを主張していたが、米国の対韓国政策が、そこを対共産圏基地としての「確保」、「安定」に重点をおいたことへの指摘は、支配の性格的特徴を如実に表現していた。
BRICsのひとつブラジルもそうした意味合いにおいて、こうした開発独裁を過去に経験し、最近では、ロシアもまた政権性格と近隣諸国との関係で、開発独裁であり、国内外に多大な影響を与えている。
また冷戦終結後、BRICsの中のロシアの資源が安価であるため世界市場に流れ、さらにそれに加えて、中国などの安価な労働力の利用によるデフレ効果が進行した。しかし近年のロシアの資源の世界市場での価格高騰、中国の急成長下での労働単価の上昇により、このデフレ効果は減衰し、物価上昇に転じ、かつての世界市場のこうしたデフレ効果も陰りが差してきた。(注2)
特に中国では、二〇〇七年の消費者物価上昇の当初予測三パーセントを前年比四・七パーセントと大幅に上回り、全国人民代表者大会の目標ははずれた。(注3)そしてなによりも最近の食品加工物の食中毒問題は、これまでの成長路線の再点検を迫っている。さらに中国国内の労働争議の多発と格差の拡大は、かつての格差を克服するための革命が、いまやその逆に格差が拡大する一方である。
BRICsの台頭は、世界の経済動向のおおきな選択肢を手にした。この勢力がどのように世界を動かそうとしているのか、またそれについてどう考えるか、大いに論議しなければならなくなってきている。
(浜本清志)
(注1)「世界一身近な世界経済入門」門倉貴史 幻冬舎新書
(注2)『平成三十年経済崩壊までのシナリオ』「週間文春1月3・10新年特大号」堺屋太一
(注3)『頼みのBRICsも赤信号』「WEDGE」08年3月号
空港はいらない県民の会総会
静岡空港の絶望的未来を
見通した粘り強い闘いへ
【静岡】二月九日、静岡市で「空港はいらない静岡県民の会」の第十三回総会が開かれ、県下各地や大阪から「泉州沖に空港をつくらせない住民連絡会」、東京から「八重山・白保の海を守る会」の仲間をはじめ八十人以上が参加した。
総会の冒頭であいさつに立った、静岡県東部・沼津市の「ストップ・ザ・鉄道高架・新生沼津の会」の加藤さんが、沼津駅周辺の鉄道高架事業とそれに伴う貨物駅の移転事業に静岡空港建設事業に匹敵する千八百億円の血税が投入されようとしていることを訴えた。これによって市の財政や市民生活に関連する様々な事業が圧迫される。貨物駅移転では住民の多数が反対を表明しているなかで、地権者の弱味(高齢化、後継者不足、5千万円まで無税)につけ込んだ買収攻勢でも取得率は六四%であり、二〇〇七年度中の買収完了、〇八年度事業開始の事業計画を実質二年間延長する計画変更に追い込まれている。もはや「強制収用」の道しか残されていない。国交省の強制収用指針は「取得率八〇%を超えたら」であり、それへ向けてがむしゃらな買収攻勢が予想されることなどが報告され、ムダな公共事業を止めるために共にがんばろうと決意が述べられた。
「八重山・白保の道を守る会」在京メンバーの生島さんは、昨年三月、沖縄県が新石垣空港の建設に向け、任意の買収交渉開始後わずか十カ月で強制収用手続きを開始、七月末には事業認定申請を強行、十一月から本格的な建設工事に入っており、この工事によって絶滅危惧種コウモリ類三種が激減、専門家らで組織された学術調査委員会の工事中断・再調査要請をも無視して工事が強行されていることを報告した。
「泉州沖に空港をつくらせない住民連絡会」の渡辺さんは、会代表の若野さんのメッセージ「空港の採算性、環境、安全、軍事利用などの是非を問う」を朗読紹介した。
昨年の第十二回総会から一年間の闘いの総括と〇八年の活動方針について、桜井事務局長が、〇九年三月開港へなりふり構わず暴走する石川県政に抗して、開港される静岡空港の絶望的将来を見据えて、〇八年の闘いの方針を確立するためのスタートとなる総会として位置づけ、具体的な闘いとして@需要予測のデタラメ、確定的な大幅赤字、発表された空港条例などについて国・県の行政・議会の責任を問う闘いA空港開港キャンペーン一色の現状に対する反撃の大宣伝活動を通じた世論喚起や住民監査請求と住民訴訟などをまじえた闘いの再構築B跡地利用を含む廃港へ向けた闘いC西側制限表面部を巡る継続する闘いなどを提起した。質疑討論では、闘いの再構築とも密接不可分の財政確立・強化のための方策などが議論になった。
また総会では、空港闘争などの県下のさまざまな運動のセンターの役割を果たしてきた安倍川製紙労働組合とその組合事務所が、王子製紙資本による静岡事業所閉鎖攻撃に直面していることをはね返すために、支援共闘会議に加わることが特別決議として採択された。 (M)
コラム
「武装し闘う」借家人
先日、十二年ぶりに引っ越しをした。一カ所にこれほど長く住み続けたのは、実家での少年時代を含めても最長であった。子どもがいると、小学校だの中学校だのと、移転するのもなかなか困難になる。また、職場まで自転車で七分というのも、腰を落ち着かせた大きな理由だった。娘が家を出たことで、重たい腰も上がったというわけだ。
隣りに住む大家には、引っ越す予定であることを、二カ月前に伝えた。「まだ次の所は決めていないのでしょう。きれいにするので、引っ越ししないで下さい」などと、後ろ髪が引かれるような言葉が返ってきた。さっそく衣類、古本などの整理にとりかかり、くたびれた家具や長年使用した家電製品など随時処分しつつ、休日は不動産屋を回った。引っ越しは、大家さんが経営する運送会社にお願いし、「後日、リフォーム代の一部を請求させてもらいます」ということで、無事に終えることができた。
それから一週間ほどして、大家さんからではなくて、リフォーム屋から「借主責任分の見積書」が送られてきた。三十八万円の請求である。以前、新聞で「八年住めば、借り主の負担は五%」という判例があることを記憶していたので、冗談じゃないぞ! と、さっそく大家さんに電話を入れて猛抗議する。しかし、引っ越しを伝えたときの甘い言葉から一転して、「カビ汚れがひどい」だの、「配水管の油汚れがひどい」だのと、一歩も譲歩しようとしないのだ。
これではらちがあかないと、宅建・不動産賃貸管理士の免許を持つOさんに相談することになった。請求内容を見た彼は、「不当請求だ。闘え!」と、いろいろとアドバイスしてくれた。心強い援軍を得て、私の闘志はメラメラと燃え上がる。そして再度、大家に電話を入れた。
資格を持つ不動産業の知人に相談したことを伝えて、再抗議すると、「敷金(12万円)分でいい」と、コロリと方針転換してきたのだ。「三十八万円の請求は何だったんだ! 不当請求を自ら認めているではないか! なめるなよ!」と、怒りの炎も巨大な火柱になる。リフォーム代の総額一覧と、十二万円の請求内容を提示することを要求した。
しかし、後日リフォーム屋から送られてきた請求は、請求内容を変えながらも、またしても二十八万円だ。こうなったらこちらの側から、借主責任分を総額一覧表をもとにして計算するしかない。Oさんからのアドバイスを参考にして計算する。壁、天井、床などの張り替え分は一〇%。畳は一枚分。破損させた襖一枚分。娘が物を落としてヒビを入れた洗面台の交換費の一〇%。それにクリーニング代として約四万円。結局、総額は七万円余りであった。これに、私が当然にも支払うべき延滞金(8日分)を加えると、大家が私に一万数千円を返却しなければならないことになった。さっそくそれを、A4用紙二枚にギッシリと文章化して送った。
それから二週間。いまだに連絡も返答もこない。敵はあきらめたのか……! 三〜四月は引っ越しのシーズンだ。大家からの不当請求に対しては、「怒りの決起」あるのみ! 正しい知識で「武装」さえすれば、必勝である! (星)
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