民主党の小沢一郎代表が、代表を辞任する意向を表明した。西松建設の巨額献金事件で公設第一秘書が起訴されて以降も「続投」していたことへの厳しい世論の動向などが背景にあったといえよう。
小沢氏の辞任表明を受け、鳩山由紀夫幹事長も辞任する意向を表明した。民主党は後任決定の手続きに入るが、代表の後任には、ともに代表経験者の岡田克也副代表、鳩山氏らの名前が挙がっている。
会見した小沢氏は辞任の理由について「政権交代という大目標を達成するため、自ら身を引くことで挙党一致を強固にしたいと判断した」と述べた。
代表辞任を求める声は党内外で根強く、このまま代表の座にとどまれば、「政治生命を懸ける」と公言してきた次期衆院選での政権交代実現が難しくなると判断したのだろう。ならば公設第一秘書が起訴された時点で決断すべきではなかったのか。遅きに失した感は否めない。
辞任の引き金となったのは、政治資金規正法違反容疑で公設第一秘書が逮捕、起訴されたことだ。二〇〇三年から四年間に西松建設から計三千五百万円の献金を受け取ったのに、同社OBが代表を務める政治団体からの献金と偽って政治資金収支報告書に記載したとされている。
小沢氏は公設第一秘書の逮捕以降、政治資金規正法の規定に関する「認識の違いだ」と違法性を否定。検察当局を「政権交代を阻止しようとする勢力」と位置付けるなど対決姿勢を強め、公設第一秘書が起訴されてからも「続投」を表明した。
しかし、その後の共同通信社の全国緊急世論調査で代表辞任を求める声が66%を超え、小沢氏の説明にも79%が「納得できない」と答えるなど世論の逆風は厳しかった。小沢氏は「政治とカネ」をめぐる国民の厳しい目を見誤っていたといえよう。
民主党はこれまで「政官業癒着の打破」を掲げてきた。小沢氏が一線を退いても、そのリーダーがゼネコン業界と深いつながりを持ってきた疑惑はぬぐえない。国民の政治不信を深める事態を招いた小沢氏の責任は重大だ。あらためて有権者への説明責任が求められよう。
役員会などで小沢氏の「続投」を了承し、党としての自浄努力を怠ってきた民主党にも責任がある。党内には、「挙党態勢の構築」を掲げる小沢氏が辞任後も“院政”を敷くのではないかと懸念する見方もある。「二重権力構造」を許すようなら、さらなる批判は免れまい。
日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)に基づき、日本での介護福祉士や看護師を目指すフィリピン人候補者の第一陣が来日した。昨年のインドネシアに続き二カ国目で、介護・医療分野への外国人労働者の受け入れが本格化してきたが、立ちはだかる課題は多い。
協定では二年間で最大千人受け入れることになっている。介護福祉士で来日から四年以内、看護師は三年以内に日本の国家試験に合格すれば定住も可能だが、不合格なら帰国しなければならない。候補者はまず半年間、日本語や生活習慣を学んだ後、各地の職場で補助的な作業をしながら合格を目指す。
注目されたフィリピンからの第一陣だったが、今回の定員四百五十人に対し、来日したのは二百七十三人にとどまった。背景には働く側と受け入れ側の期待のずれがある。施設側では希望の年齢と合わないことや、費用をかけても不合格なら水の泡となる懸念などから受け入れを敬遠するケースが相次いだ。
一方、働く側にとっては条件の厳しさがある。最大の壁が国家試験だ。漢字文化圏に属さない外国人にとって合格にはかなり高い能力が要求される。このため、英語圏の国への志望者が増えているという。
候補者の多くはフィリピンの介護士や看護師の資格を持っている。介護・医療現場にコミュニケーションが重要なことはもちろんだが、日本語、特に漢字がネックになってせっかくの専門知識が生かせないのは本人たちにとっては理不尽だろう。
インドネシア人候補者も同様である。EPA優先で、現実的視点を欠いた取り組みの問題点が浮き彫りになった形だ。試験の在り方などを柔軟に考え、海外の優れた労働者の能力を生かす方策が求められる。
(2009年5月12日掲載)