実験医学 2009年6月号 Vol.27 No.9

神経変性疾患発症につながる

タンパク質の構造異常

ユビキチンシステムの破綻から新規原因因子TDP-43の蓄積まで

長谷川成人/企画
定価 1,800円+税 2009年5月 発行
B5判 123ページ ISBN 978-4-7581-0048-9


特集

神経変性疾患発症につながる
タンパク質の構造異常
ユビキチンシステムの破綻から新規原因因子TDP-43の蓄積まで
企画/長谷川成人
概論―因子から解明される神経変性疾患の発症基盤【長谷川成人】
生命活動を支えるタンパク質は,通常,合成後速やかに本来とるべき正しい構造に折りたたまれ,それぞれ役割を果たす場所に運ばれて機能するが,その寿命を終える前に,何らかの原因で,構造やコンフォメーションに異常が起こる場合がある.通常は分解され,何事も起こらないが,それが中枢神経系において,分解されない構造をもった「アミロイド」に変化した場合,神経変性疾患の原因となる可能性がある.本特集では主要な変性疾患の共通の分子発症基盤としてみえてきたタンパク質の構造変化に焦点を当て,病原タンパク質の発見の経緯や背景から,研究の現状,治療などの最先端のトピックスまでを概説する.
神経変性疾患の新規原因分子:TDP-43【新井哲明/長谷川成人/野中 隆/藤城弘樹/内門大丈/秋山治彦】
前頭側頭葉変性症および筋萎縮性側索硬化症 (ALS) をはじめ,アルツハイマー病,レビー小体型認知症,ハンチントン病などの多くの神経変性疾患において,リン酸化,断片化,ユビキチン化したTAR DNA-binding protein of 43 kD (TDP-43) の細胞内蓄積が生じている.家族性および孤発性ALSにおけるTDP-43遺伝子変異の存在は,TDP-43の異常と神経変性の直接的な関係を証明しており,TDP-43の蓄積メカニズムを明らかにすることが種々の神経変性疾患の病態解明に重要であると考えられる.
認知症の執行役としてのタウタンパク質凝集過程【高島明彦】
老化やアルツハイマー病などを含む多くの神経変性疾患において,タウタンパク質の神経細胞内凝集体である神経原線維変化が観察される.家族性の前頭側頭葉認知症であるFTDP-17においてタウ遺伝子に変異が見出され,患者脳で神経原線維変化と神経脱落が観察される.さらに近頃,アルツハイマー病患者にタウタンパク質重合阻害剤を投与すると認知機能低下が有意に低下することからタウタンパク質凝集が神経変性を行う執行役を担っていると考えられている.本稿ではタウタンパク質の凝集過程と神経機能低下,神経細胞死,神経原線維変化について概説する.
神経変性疾患におけるアミロイドの構造多型とその生理的影響【田中元雅】
いくつかの神経変性疾患の原因タンパク質は,神経細胞にβシート構造に富む線維状の不溶性凝集体(アミロイド)を形成する.タンパク質は元来,唯一のフォールディング構造へ折りたたまれるが,アミロイドを形成するとき異なる構造へ凝集しうることが明らかになってきた.また,おのおのの異なるアミロイド構造は細胞に異なる生理的影響をもたらすため,アミロイドの「構造多型」は,原因タンパク質の異なる凝集状態,細胞毒性の強弱(有無)や疾患部位特異性を統一的に説明できる可能性がある.本稿では,酵母プリオンとハンチントン病におけるアミロイドの構造多型とそれがもたらす生理的影響について紹介する.
成長因子プログラニュリンの機能と神経変性【根建 拓/河合隆徳/西原真杉】
成長因子プログラニュリン遺伝子の変異が前頭側頭葉変性症 (FTLD)と連関することが数多く報告され,プログラニュリン研究は大きな注目を集めつつある.しかし,プログラニュリンは受容体が未だに同定されていない他,産生分泌制御機構や断片化グラニュリンを生成するプロセシングの生理的意義,生理作用発現機構の詳細など未だ不明な点も多い.本稿では,このプログラニュリンの性質や役割,特に脳での発現,生理作用,シグナル伝達などについてわれわれの研究室で得られた最新の知見を交えながら概観していきたい.
造血幹細胞ニッチと骨代謝【片山義雄】
骨代謝と造血システム,従来異なるこれらの研究ジャンルが,2003年の骨芽細胞性造血幹細胞ニッチの相次ぐ報告を期に融合した.以来ここ数年で骨芽細胞と造血幹細胞間の接着やシグナル伝達系の分子メカニズムは徐々に明らかになってきている.さらに,骨芽細胞ニッチに作用することによって間接的に造血システムに多大な影響を与えている組織や因子の存在も認知され,もはや造血システムを理解するうえで骨代謝研究の視点は外せないものとなっている.
ユビキチンシステムと神経変性疾患【木村洋子/田中啓二】
非分裂細胞である神経細胞にとって,細胞内タンパク質の品質管理はきわめて重要であり,いったん破綻すると生体内の細胞でその破綻の影響が最も大きく生じる部位である.本稿では,ユビキチンシステムと神経変性疾患やモデル生物を用いた最近の知見をまとめ,ユビキチンの重要性を論じたい.
異常タンパク質蓄積と神経変性【村山繁雄/齊藤祐子】
ヒトの老化に伴う翻訳後異常代謝タンパク質蓄積は,アミロイドβタンパク質 (Aβ),タウ,αシヌクレイン,TDP-43などで,後三者はリン酸化とユビキチン化を受けており,他にも同定されていないユビキチン化タンパク質を含め,すべて同定されているわけではない.コードされている遺伝子異常の表現型と,高齢者連続剖検例の網羅的検索にからは,いずれもが他を誘導しうる.当該症例毎のタンパク質科学的検索に指示されたサロゲートバイオマーカーの同定が,根本治療には必須であるが,詳細な臨床・画像・病理学的記載の蓄積が,臨床的観点からは依然王道である.

Update Review

SIRT1/NADが結ぶ概日リズムとエネルギー代謝の新たなフィードバックループ
CLOCK-SIRT1によるサーカディアンリズム調節【中畑泰和/Paolo Sassone-Corsi】
NADワールドの新展開 Metabolic oscillatorとしてのNAD合成系の新機能【吉野 純/今井眞一郎】

トピックス

カレントトピックス
ノンコーディングRNA・Airによる転写抑制機構【永野 隆】
反撥性ガイダンス分子draxinは脊髄と大脳の交連線維形成に必須である【新明洋平/田中英明】
ネクロプトーシスシグナリングの網羅的解析【人見淳一/Junying Yuan】
受容体型キナーゼの細胞内からの活性化【井上 茜/瀬戸口喜代子/樋口 理/山梨裕司】
News & Hot Paper Digest
「前」初期エンドソームとその成熟
赤外線レーザーで時空間を制御して遺伝子発現を誘導する
生体内でのTh17分化におけるIL-23の役割は?
AVEO社のヒューマン・イン・マウス (HIM)癌モデル
“NeuroChoice” 研究グループ発足

連載

クローズアップ実験法
培養細胞の免疫染色の基本とコツ【山崎大輔】
【新連載】難治疾患
連載監修にあたって【加藤茂明】
慢性腎臓病 (CKD) の臨床的問題とCKD対策への取り組み【前島洋平/槇野博史】
私の発見体験記
「性研究」の夜明け前【諸橋憲一郎】
ラボレポート-留学編-
とにかくよく議論する人々-National Institute for Medical Research【笹井紀明】

関連情報


おすすめ書籍

  • 異常タンパク質蓄積とアルツハイマー病の治療戦略
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  • タンパク質の分解機構
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  • 脳神経疾患の分子病態と治療への展開
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  • タンパク質の一生集中マスター
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  • みる見るわかる脳・神経科学入門講座 改訂版 前編
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