日銀砲でヘッジファンドを粉砕!
読売新聞の記事です。無くなると困るので保存しておきます。この頃は不況だったのですが、日本に力が残っていたようです。当時よりも、経済面・人材面で劣っているような気がします。
投機筋を徹底排除
財務省が31日発表した5月(4月28日―5月27日の速報値)の外国為替市場への円売り・ドル買い介入額は4月に続いて2か月連続でゼロとなった。昨年度に32兆円を超える空前の円売り介入が行われたのに、なぜ介入がぴたりとやんだのか。巨額介入の裏側には、ヘッジファンドと呼ばれる投機筋と政府・日本銀行の激しい攻防に加え、デフレ克服に向けた政府の強い意向があった。(黒川 茂樹、文中敬称略)
攻防
「投機筋の円買い圧力が強い。きょうの介入は1兆円を超えそうです」
1月9日朝、財務省大臣室。国際局の幹部は、財務官の溝口善兵衛が立案した介入方針を、財務相の谷垣禎一に淡々と説明した。
円相場は1ドル=105円台目前まで来ている。谷垣に迷いはなかった。ゴーサインを受けた日銀のディーリングルームから、切れ目なく10億円単位の円売り注文が出された。
「財務省はいくらドルを買ったら気が済むんだ。介入資金が底をつくぞ」
大手銀行担当者の読み通り、財務省は介入枠を使い切ったが、保有する米国債を日銀に売却して5兆円の介入資金を調達し、午後2時ごろには1度に5000億円規模の円売り注文を出した。この日の介入額は、ドル買いでは史上最大の1兆6664億円に達した。
発端
財務省幹部は「円安誘導ではなく、投機筋の動きを粉砕するためだった」と証言する。
勝負の発端は、円相場が1ドル=117円前後で落ち着いていた昨年8月。投機筋はイラク情勢の悪化などを材料に「日本政府がいくら介入しても、1ドル=100円を超す円高になる」と世界の投資家から巨額資金を集めていたのだ。
9月20日のドバイG7(先進7か国財務相・中央銀行総裁会議)の声明には「為替の柔軟性が望ましい」と日本の介入にクギを刺す表現が盛りこまれた。投機筋はさらに、円買いをしかけてきた。投機筋の思うつぼになれば、回復しかけた景気が腰折れしかねない。
反撃
財務省は大みそかも含めて年末、年始に15営業日連続で介入を続けて円高を食い止め、2月のG7での相場反転を狙った。1月22日、谷垣は日銀総裁の福井俊彦と会談し、「デフレ克服に向け、日銀の量的緩和と政府の介入政策は整合的だ」との認識で一致し、投機筋をけん制した。2月に米ボカ・ラトンで開かれたG7声明では、日本の強い主張で「過度の相場変動に懸念」が示された。
しかし、別の資金力のある投機筋が円高への誘導を狙って円買いを仕掛け続けた。政府・日銀は相場の基調が円安に反転した2月下旬以降も、1ドル=110円付近になるまで連日押し下げ介入を続け、徹底的に投機筋を排除した。ほとんどの投機筋は、3月上旬に利益が得られないまま取引を手じまいせざるを得なくなった。目的を達した財務省は、3月16日以降介入をとりやめた。
これと相前後して、米財務長官ジョン・スノーが米国で介入をけん制する発言をしたが、溝口は米財務次官のジョン・テーラーに、ほぼ毎日電話で介入を通告していた。国際金融筋は「介入の最中には米側は中止を求めなかった。介入の目的を達したのを知った米財務省が、国内向けに発言したのでは」と解説する。
真相
しかし、市場では、巨額介入は、円安への誘導による景気てこ入れを狙った脱デフレの"切り札"だったとの見方も根強い。現在の景気回復局面では、政府の大規模な介入政策と、日銀による量的金融緩和が車の両輪の役割を果たしてきた。日銀は、いったん市場に放出した円を吸収しない非不胎化政策をとり、市場に潤沢に円資金を放置し続けた。日本は、介入で得たドルで米国債を大量に購入したが、これも米国の財政赤字を穴埋めし、米国経済の下支え役を果たした。東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出は「財政出動ができず、金融緩和も限界の中で輸出産業を支える一種の"公共事業"だった」と見ている。
量的緩和による超低金利のおかげで、財務省は市場からほぼゼロ金利で介入資金が調達できた。日本経済がまだデフレを脱却できないなか、1月22日の谷垣・福井の合意は、なお重い意味を持っている。
(2004年6月1日 読売新聞)