きょうの社説 2009年5月12日

◎小沢代表辞任 中央突破には無理があった
 民主党の小沢一郎代表が党代表の辞任を表明した。公設第一秘書が西松建設の巨額献金 事件で起訴され、同党の支持率低下を招くなか、次期衆院選での政権交代を前面に掲げて中央突破を図る戦略には無理があった。

 小沢代表は会見で「政権交代の大目標を達成するために、自ら身を引く」と述べた。今 の時期の辞任表明には、唐突な印象もあるが、世論の支持回復が期待できず、党内からも批判が噴き出すなかで、これ以上の続投は困難と判断したのだろう。九月までに実施される次期衆院選に向け、態勢立て直しを図るには、ぎりぎりのタイミングと見たのかもしれない。

 会見で小沢代表は、政権交代の必要性を訴え、挙党一致の必要性を強調した。ただ、辞 任の理由を「選挙に勝つため」という一点に絞って説明したのは、責任回避の印象も否めない。選挙に強いといわれる自身の力を誇示し、代表辞任後も影響力を残す思惑がこめられているようにも思える。

 気になるのは、小沢代表の決断が、世論の風向き次第といったふうに見える点だ。党内 のごたごたを極力見せたくないという事情は分からぬでもないが、小沢代表は再開した地方行脚でも巨額献金事件について一切語らなかった。強気の姿勢で代表続投の方針を決めた後は、ひたすら口をつぐんで批判をやり過ごし、世論の怒りが収まるのを待っていた印象である。

 誤算だったのは、各種世論調査の数字が、むしろ時間を追うごとに厳しさを増した点だ ろう。一企業から長年にわたって巨額の献金を受け取っていても、適正に処理されていれば、何ら問題ないという態度は、国民感覚とは大きくずれていた。国民の怒りの矛先は、政官業の癒着を批判しながら、ゼネコンとの深い関係が疑われる状況に向けられている。

 小沢代表がそうした心理に気付いていないとは思えない。挙党態勢のために辞めるとい う犠牲的精神を強調する前に、国民の政治不信を高め、党を混乱させた責任について、きちんと語ってほしかった。小沢代表が黙ったまま表舞台から消えるなら、大きなしっぺ返しをくうことになりかねない。

◎金沢の町家保存 使いこなせば魅力伝わる
 金沢市の「金澤町家再生活用モデル事業」の完成第一号として、同市長町の築百年の空 き家が工房に生まれ変わった。市は町家の全戸調査や修復士の育成など町家関連施策を拡大しているが、生活の場をはじめ、商いや文化施設、地域交流の場など、幅広い用途で使いこなしてこそ町家の価値や魅力が伝わっていくだろう。町家を生かした都市づくりをもっと前面に押し出し、官民一体で運動を盛り上げていきたい。

 金沢市が「金澤町家」と定めているのは一九五〇年以前に建てられた建築物で、二〇〇 七年調査では約八千七百棟ある。年々減ってきたとはいえ、これだけの数が残るのは金沢が戦災を免れたからであり、非戦災都市の大きな財産といえる。城下町遺産や近代化遺産だけでなく、町家も金沢という都市の歴史、市民の歴史を物語る貴重な存在であり、その価値はもっと高く評価されてよいだろう。

 金澤町家再生活用モデル事業は、店舗や貸家、工房、事務所などに活用する場合、六百 万円を上限に改修費用の二分の一が助成される。改修後の一定期間、市民に広く公開することが条件である。

 単に保存するだけでなく、町家の魅力を引き出し、発信するのが狙いであり、長町で完 成した工房は大阪府在住の所有者が昨年度に事業に応募した。東山、千日町の町家も対象に選ばれ、二年目となる今年度分については公募中である。これらは町家の「モデルハウス」といえ、アイデアを生かした成功事例が増えれば市民の関心も高まり、再生の大きな力となろう。

 市が策定した「金澤町家継承・利用活性化基本計画」では、町家集積地域を選定する「 金澤町家地区」制度や、改修手引書の作成、暮らし方や活用方法を提案するアドバイザー支援制度の充実などが盛り込まれている。

 町家活用については歴史的、文化的資源という位置づけのみならず、経済資源としての 可能性を引き出す視点も大事である。住宅需要を掘り起こして不動産市場へ流通させたり、観光客向け宿泊施設への活用など、町家再生ビジネスも広げていきたい。