NHKアーカイブス
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アーカイブス秘話 番組制作にドラマあり

NHKアーカイブスには、すべての放送番組が保存されているわけではありません。生放送のために、フィルムやビデオに残らずに消えていった番組もあれば、ビデオテープが誕生した当初は大変高価であり次の番組に循環使用するために、貴重な映像がやむを得ず消されていったケースもあります。
そのような中で、消えてしまった番組が関係者の努力で思いがけずよみがえることもあります。出演者ご本人がたまたま録画していた古いビデオテープが見つかったりするケースです。しかしそのような場合でも、録画から数十年の歳月を経ているために、テープが劣化していたり再生機がすでに市場にないなどで、映像の復活には大変な苦労が伴います。
ここでは、そうした映像復活に奔走した担当者の奮闘記をご紹介します。

よみがえる「発掘」ビデオ

見慣れない1本のビデオテープ

それは2006年夏、ドイツ・ワールドカップで日本チームが決勝トーナメントに出場できずに終わり、日本中のサッカーファンが失望の思いを胸に沈殿させている頃でした。

見慣れないビデオテープ戦後60年の特集番組の打ち合わせなどで話をするようになったNスペ(NHKスペシャル)担当のプロデューサーが見慣れないテープを持ち込んで来ました。

それは幅2インチほどの、堅牢なアルミのリールに巻かれたビデオテープでした。通常の2インチテープだと15分程度の分量なのですが、テープの箱には90と書いてあります。

そのプロデューサーは「このテープはNスペで取り上げる人物(故人)の周辺から入手したもので、どういう機械で収録したのかわからない。箱にはその人物の講演記録と書いているが、その人が話しているシーンはこれまで無く、このテープに入っていれば大変ありがたい。どうにかして再生できないか。」と言うのです。

ビデオテープにはびっしりカビが生えていて、このままでは再生できない恐れもあるので、磁気テープをよみがえらせる特殊な技術を持つ会社にテープのメンテナンスを依頼しました。
すると、その会社の社長から「これはソニーのPV-100型のテープだよ。」と知らされました。PV-100型のVTRは1963年に開発されたもので、当時としては画期的な小型化を実現した機械でした。当時は、初めて旅客機の乗客に映像を見せるためにも使われたようです。

復元へのチャレンジ

VTRの再生を試みる現在はもちろん販売されていませんが、その後の調査でNHKの放送博物館にこれと同じ型番のVTRがあることがわかりました。

アーカイブスの技術担当者とともに放送博物館を訪問し、VTRが再生できるかどうか確かめたのは2006年9月初旬のことでした。
しかし、このときはどうやっても映像を再生することができませんでした。
画面に現れるのはノイズだけであり、映像がまったく出てこないのです。

空しい心とテープを持ち帰り、それでもこのまま復元できずに終わるのは大変悔しいので、さらにいろいろなところに聞き取りを続けました。
そうした中で、「JRがこれと同じテープを持っていて、40本くらいダビングに成功したことがあるらしい」との情報が入ってきました。どうもソニーのOBの方でこの機械に詳しい人がいらっしゃって、その方の協力でビデオの復活に成功したらしいのです。

さっそくその情報をNスペのプロデューサーに伝えました。「それはありがたい!できたら、そのVTRを復元するシーンそのものを番組でロケ出来るとなおいいですね!」ということになりました。
アーカイブスは、制作現場をサポートするのも重要な役割のひとつです。
より良い番組を作るために一肌脱ぐのもアーカイブスのつとめと、日程調整、場所確保と走り回った結果、11月に再び映像の再生実験にこぎつけました。
なお本当に偶然のことですが、PV-100型に強いというソニーのOBの方は、NHKアーカイブス(川口)のすぐお隣のスキップシティにお勤めでした。ふしぎな縁のようなものを感じた瞬間です。

復元にかける熱き思い

映像復活へのチャレンジ撮影クルーも参加して、映像復活作業のスタートです。しかし1回目のチャレンジでは映像が出ず、NHK放送博物館のVTRから部品を調達して2回目のチャレンジを行うことになりました。
関係者一同が息を凝らして見守る中、やっと画面に映像が現れました。40数年の歳月を経てはじめてよみがえった映像です。番組はNHKが1967年頃に放送した「婦人百科」であり、ご出演されていたのは、戦後の混乱期にいち早く知的障害児等の福祉活動に活躍された糸賀一雄さんでした。
テープは磁気が弱くなっていて映像は相変わらず安定しませんが、雑音やノイズの中からも、時を経た映像が持つ迫力と現代史に名を残した人物の肉声の重みが確かに伝わってきました。

修復中VTR映像の復活に成功した後は、それを可能な限り修復する作業が待ち受けています。その後、この映像を構成の中に活かして、良い番組に仕上げていくのは番組制作者の役割です。(苦労したんだから使ってくださいね。)

このように時を経たVTRを発掘し、再生機が市場から姿を消しつつある中で、映像の復元を果たすのは簡単なことではありません。

しかし、今回のように貴重な映像を現代によみがえらせる仕事は、数あるアーカイブスの業務の中でもやりがいを感じる(成功した場合は特に)瞬間です。

今回の復元作業は、2007年3月20日放送の「NHKスペシャル ラストメッセージ第6集」制作に関連して行われました。