「満床」「医師いない」
夜間の軽症患者の集中による医師の過重労働や医師不足で、救急患者を診る病院が全国的に減る中、広島市でも救急車の受け入れ要請が断られるケースが相次いでいる。広島市消防局の三十七救急隊のうち、昨年最も多く出動した大手救急隊(中区)の夜間の救急活動に同行した。
▽泥酔やけんか… 現場悩ます不適切利用
「ベッドがない? ほか当たります」。山藤伸雄隊長(40)は携帯電話のイヤホンに左手を添えた。午後七時前、市中心部の路上に駐車した救急車内。息苦しさを訴える十代の少女のまくら元で、山藤隊長は不安を与えないよう、声を抑えて病院を探し始めた。
最初に電話した中区の総合病院は既に満床。二カ所目にかけた。現場到着から約二十分。受け入れに応じた広島市民病院(中区)へ出発した。
日付が変わり午前一時五十分、隊員が仮眠室を飛び出した。頭をけがした九十代男性宅へ急ぐ。男性に止血処置をした後、救急車へ乗せた。かかりつけ病院と交渉。外科の当直医師がいないため受け入れを断られた。重症患者を診る二次救急病院へ運んだ。
傷病者の発生場所に救急車がとどまる現場救護の平均時間は一五・八分。救急処置の高度化に加え、病院選定に時間がかかり、五年で三分余り長くなった。山藤隊長は「六、七件交渉しても搬送先が見つからず、一時間かかったケースもある」と打ち明ける。
別の夜は、泥酔やけんかで周囲が一一九番したが、本人が拒否したため搬送しなかった例が三件続いた。他の急患が出ても出動できない時間は、三件で計約八十分に及んだ。
市消防局は、緊急性のない救急車利用は救急医療の崩壊を招くとみる。大手救急隊の車内にも「救急車はタクシーではありません」と記したポスターが二枚張られていた。
市消防局の昨年の救急出動数は十六年ぶりに前年を下回った。広報の効果は出始めているが、限られた病院と医師によって救急体制が手いっぱいの状態は続いている。救急車の適正利用を住民に呼び掛けることは欠かせない。広島県地域保健対策協議会の昨年二、三月の調査では、市消防局管内で不適正とした利用は23・3%に上った。
広島大病院高度救命救急センターの谷川攻一センター長は「大学病院などが初期診断と治療をして、症状にあった医療機関に患者を搬送する仕組みが必要だ」と提案している。(衣川圭)
●クリック 広島市消防局の救急出動
2007年4月からエリアが広島市に府中を除く安芸郡、安芸太田町、廿日市市吉和が加わった。08年の出動数は4万8048件で、07年に続き二番目の多さ。搬送人員は4万2319人で、軽症患者は5割近い2万560人に上った。東京や横浜市では、現場到着や通報時に重症度などを判断し、緊急性の低い場合は自力来院を促したり、出動隊員を減らしたりする取り組みを始めている。
【写真説明】救急車内で受け入れ病院を探す山藤隊長(左)
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