公立小中学校の耐震化に絡み、耐震診断や補強設計を入札しても建築士を確保できなかった自治体が29都道府県の84市町村(一部事務組合を含む)に上ったことが、文部科学省の調査でわかった。数千棟の校舎が倒壊した中国・四川大地震から12日で1年。日本では診断や設計を専門とする構造建築士が大都市に偏在し、地域によって建築士を確保できない「ひずみ」が生じている。
今回の調査は、昨年12月の時点の状況を文科省が約1850の自治体にアンケートして判明した。結果は公表されていないが、北海道や大阪府、中国地方や九州地方の耐震化が遅れている自治体で目立ったという。三重県や宮城県など耐震化率が高い県では該当はなく、取り組みの遅れている地域ほど発注が集中している傾向が背景にあるとみられる。
耐震化は(1)耐震診断(2)補強設計(3)工事の実施、と3段階で進む。診断と設計では構造を専門とする建築士の関与が不可欠だ。一連の耐震偽装事件を受けて、構造設計1級建築士の資格が新設されたが、全国に7762人いる資格者の45%にあたる3478人は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に集中。19人と最少の佐賀と最多の東京では76倍の格差が生じている。
1級建築士でなくても請け負えるが、文科省は診断と設計の段階ごとに学識者ら第三者による判定委員会での点検を課している。
公立小中学校の耐震化率が39%(全国平均62.3%)とワースト1位だった長崎県では、今年度約600棟で耐震診断や設計が判定委に持ち込まれる見込み。四川大地震前の3倍のペースだが、県が把握する診断・設計の実績のある業者は34社。県の担当者は「建築士が足りているとは到底言えない。判定委も12月まで埋まっている」。
徳島、愛媛、高知の四国3県は専門家の不足を補うため3県合同で四国耐震診断評定委員会を設置。07年度は200棟だったが昨年度は300棟を超え、今年度はさらに増加する。事務局は「にわかに国が急ぎだしたことで、自治体の発注が一気に集中している。地方では構造建築士が圧倒的に足りない」と話す。
震度6強の地震で倒壊の危険があるとされた小中学校と特別支援学校は約1万棟あるとされる。
建築士を所管する国土交通省の担当者は「構造の建築士が全国的に足りないわけではなく、入札に参加できるエリアを広げたり、東京や近隣地域の判定委員会を活用したり、自治体の工夫次第で解決できるのでは」としている。(歌野清一郎)
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