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【社説】

小沢民主党代表が辞任 態勢立て直しを急げ

2009年5月12日

 小沢一郎氏が民主党代表を辞した。不信を晴らせず総選挙の陣頭に立てるはずもない。自然な結論だろう。失った信頼回復へ党の態勢立て直しが急務だ。

 ある程度予想はされていても、いざそうなってみると衝撃度は大きい。政権選択の総選挙決戦を目前に、野党第一党の党首が司令塔降板を宣言したのだから。

 辞任表明の記者会見に小沢氏は吹っ切れた表情で登場し、挙党一致へ身を投げ出す、と述べた。

 進退があいまいなままでは、近づく総選挙を好機と位置づけてきた政権交代は幻になる。民主の大勢は代表辞任を好感し、一方、自民など与党からは、民主支持率の復調を警戒する声が出た。

 世論に逆らえずついに

 西松建設の違法献金事件で秘書が逮捕・起訴された。小沢氏は記者会見を重ねたが、説明責任を果たしていない、辞任すべきだ、との世論は各メディアの調査でもすさまじく、六割を超していた。

 しかし小沢氏は「当面」の条件付きで続投を表明、「総選挙勝利を行動基準に判断する」と進退の最終判断を先送りしてきた。

 三年前の代表就任以降、参院選圧勝などで政権に手が届きそうなところまで党勢を拡大した。

 総選挙で勝ち、政権交代できるのも自分、との自負から、この窮地も脱出できると考えていたかもしれない。総選挙を前に野党を狙い撃ちにしたかのような東京地検の捜査に、納得がいかないとの憤慨もあったのだろう。

 だが、かつて自民を離党して政治改革の旗を振った当人が、古い自民の象徴といえるゼネコンからの巨額献金集めをしていた。世間は失望し、疑念を持った。

 「政治とカネ」を抱えた「小沢首相」を想像できる国民はまずいない。それ以前に首相候補として総選挙を戦えるはずもない。世論に追い込まれた格好だ。

 後継選びが党の試金石に

 世論が求めた「説明責任」は、言ってみれば「辞任要求」であったのだ。辞任の最終決断まで小沢氏や周辺が多くの日数を要した。遅きに失した感は否めない。

 小沢氏は辞任表明会見で、自ら身を引くことで挙党一致をより強固にする、それが政権交代の大目標につながる、と語った。

 違法献金事件については「一点のやましいところもない。政治的責任で身を引くのではない」と気色ばんだ。

 多額のゼネコン献金を必要とした理由は何か。多くの国民は小沢ファンも含めて聞きたかったのではないか。辞任会見でもここを避けたのは遺憾である。

 十三日には麻生太郎首相との党首討論が予定されていた。

 首相は小沢氏の辞任について早速「何について責任を取ろうとしているのか、なぜ今なのか、国民は理解できないのではないか」とこき下ろしている。

 国会日程を飛ばすのは、らしいといえばそれまでだが、小沢氏は敵に背を見せてしまった。

 民主党はその答えを用意しなければならない。速やかな後継代表の選出と、国会終盤に臨む態勢の立て直しである。

 「西松建設ショック」以降、民主は事件の負い目もあってか、国会論戦で迫力不足が目についた。企業献金全面禁止の主張も、議員の世襲制限も、有権者には“当座しのぎ”としか映っていない。

 党の危機対応能力が疑われる事態は遅まきながら辞任会見で決着した。

 党内に反転攻勢のムードは高まろうが、失地回復は簡単なことではない。早速問われるのは、後継の新代表を混乱なく選べるかである。お家芸ともいえる騒動が続くようでは、民主への失望を増幅することになりかねない。

 陰に陽に辞任を迫ってきた反小沢派と小沢支持グループとの確執を不安視する向きがある。右から左までの出自や政策、路線の違いから、互いにこの人物だけは新代表に受け入れたくない、という陰口も飛び交う。

 後継選びの過程そのものが政権交代への試金石になりそうだ。自民などから聞こえる「政権を担当するには未熟」批判に応えられるか、ぜひ大人の対応を見せてもらいたいものである。

 総選挙へ事実上のカウントダウンが始まっている。民主党は小沢氏が必ずしも熱心でなかったマニフェスト(政権公約)を完成させる作業を加速させるべきだ。

 首相も解散で応えよ

 新代表のもとで民主は国会論戦を再活性化し、政権与党との対立軸を国民に明示することだ。

 「敵失」で支持率が回復傾向の首相にも、同様の注文をしておきたい。野党党首交代で衆院解散・総選挙は遠のく、との観測もあるようだが、それではいけない。

 歴史的決戦にふさわしい態勢づくりは与野党双方の責務である。

 

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