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NIKKEI NET

社説2 スリランカの人道問題憂う(5/12)

 インド洋に浮かぶ島国、スリランカで深刻な人権侵害が続いている。反政府武装勢力に対し政府軍が包囲網を狭める中で、戦闘地域に取り残された民間人の被害が急増しているのだ。日本を含め国際社会は事態打開の努力を強めるべきである。

 宗教・民族対立が根底にある反政府勢力タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)と政府軍の内戦は、25年以上に及ぶ。これまでに7万人以上の死者が出ている。

 2002年には停戦協定も発効したが、05年に強硬派のラジャバクサ大統領が就任してから再び対立が強まった。政府軍は08年7月にLTTEの東部の拠点を制圧するなど攻勢を強め、内戦は最終局面を迎えたとの見方が強まっている。

 追いつめられたLTTEは防衛のため数万人の民間人を「人間の盾」にしているという。これに対し政府軍は、民間人がとじ込められた地域では重火器を使用しないと表明するなど配慮の構えを表向きは示してきたが、実際は激しい攻撃を繰り返しているようだ。

 政府軍はジャーナリストが戦闘地域を取材するのを認めていないため実態は不明な部分が多いが、国連によると今年1月後半からの戦闘の結果、民間人6000人以上が死亡し1万3000人以上が負傷した。

 政府軍もLTTEも「人命に対し残酷なまでに無関心で国際人道法に違反している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど国際的な人権団体は指摘している。

 こうした状況を受け、スリランカ問題を担当する明石康・日本政府代表は最近、現地を訪れ、民間人の安全を最優先するようラジャバクサ大統領に求めた。同国への最大の援助国として、日本が人道問題への強い関心を示すのは当然である。

 日本は現在、国連安全保障理事会のメンバーでもある。国際的な枠組みを通じて事態の打開を目指す努力も強めるべきだろう。

 まず必要なのは現地の情勢の正確な把握である。国際社会として何をすべきなのかを決めるためにも現状を早急に把握しなくてはならない。それにはスリランカ政府が認めていないメディアや人権団体の戦闘地域立ち入りの実現も欠かせない。

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