民主党の小沢一郎代表が記者会見で辞任を表明した。西松建設の巨額献金事件で3月初めに小沢氏の公設秘書が逮捕されて以降、各種世論調査で小沢氏の辞任を求める声が大勢だった。逮捕から2カ月余りが経過したが、小沢氏が説明責任を果たしたとは言い難い。辞任は当然だ。
小沢氏の辞意表明を受けて、民主党は速やかに後任の代表を選ぶ必要がある。秋までに必ず衆院選が実施されるという政治状況のなかで、次の首相候補となる野党第1党の党首選びは極めて重要だ。民主党は新党首の下で態勢を立て直し、政策で勝負を挑んでもらいたい。
小沢氏は記者会見で「衆院選での必勝と、政権交代の実現に向け、挙党一致の態勢をより強固にするために、あえてこの身をなげうち、民主党代表を辞することを決意した」と、辞任理由を語った。
13日には麻生太郎首相との党首討論が予定されていたが、小沢氏は大型連休中に自ら進退を決めたことを明らかにした。事件の引責辞任との見方は明確に否定した。
小沢氏は偽メール事件の責任を取って辞任した前原誠司氏の後を継いで、2006年4月に民主党代表に就任した。2007年の参院選で大勝し、参院で与野党逆転を実現した。選挙に強いという「小沢神話」を最大の求心力にして、寄り合い所帯と揶揄(やゆ)される民主党をまとめてきた。
しかし秘書の事件以降は、小沢氏が代表を続けることのマイナス面の方が目立った。政権末期の様相を呈していた麻生内閣は「敵失」で支持率が回復基調に転じ、4月下旬の本紙世論調査では前月より7ポイント上昇して、32%まで戻した。
各種世論調査での次期首相にどちらがふさわしいかという質問でも、麻生首相が再び小沢氏を逆転するようになった。民主党内では「小沢氏では選挙を戦えない」という不満がマグマのようにたまっていた。
小沢氏の秘書が逮捕されてから、民主党は思考停止に陥った感があった。衆院解散・総選挙を求める勢いが弱まり、2009年度補正予算案の審議でも精彩を欠いている。次期衆院選のマニフェスト(政権公約)の策定作業も停滞していた。
衆院選は間近である。選挙の争点を明確にするためにも、代表選で政策論争を深めたうえで、政権公約を練り直す作業が急務である。小沢氏の辞任で政局の潮目が変わる可能性が出てきたが、政策への信頼感を高められなければ、政権交代は絵に描いたもちになりかねない。