●神代監督の遺作「インモラル」のお話の後、ちょっとした沈黙の間に白鳥さんはすこしだけ気が遠くへとんでしまったような目をされました。きっと、白鳥さんの中には、神代監督との膨大な時間と思い出があるのでしょう。
なんと神代監督のお話は、生まれた場所の「血」から子供時代にまで遡ります!
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白鳥:最後にお見舞いに行ったときにね、クマさんに、「ありがとう」って言われたの。
何言い出すんだろうって、思ったら、クマさん家を建てたのね。わたしが住んでるところとクマさんの家は近いんだけど、わたしが家を建ててしばらくしたらクマさんに、
「お前が家なんか建てるからカミさんうるさくてしょうがない」って怒られたの。 |
「あかねちゃんが家を建ててるのに、どうしてウチには家がないんですか」って言うんだって(笑)。
「それで俺もしょうがないから、買うことになった」って。
結局それでヨメさんと子供に家を建てられたんだから、そのことを「よかったよ、ありがとう」って言うのね。入院することになっても、ヨメさんと子供の安住するところを用意できたよって。
クマさんは、そんなところがあって、凄く昔風の気質を持ってる人だったのね。
なんかモテたとかいろんな女優さんと浮名を流して好き勝手やってたみたいなイメージがあるけど、そうじゃなくってヨメさんと子供のことはとっても大事にしてた。
昔気質の人なのね。
●「インモラル」と昔気質というお話が出ましたから思うのですが、『インモラル・淫らな関係』という作品は遺作という目で見てしまいますので、「無常感」とか「死」がことさら演出されているように感じてしまうようです。その前に各賞を受賞した『棒の哀しみ』にしても、酸素マスクをしながら撮影していた神代監督の姿があったこともその印象を強くしてしまった部分もあったでしょう。
しかし、例えば『恋人たちは濡れた』という作品にもすでに「無常感」とか「死」は色濃く感じられます。時代の感覚とか、企画の要請だとか様々な事柄が映画には反映するわけですけれど、神代監督に「死」が近かったからというわけではなくて、もちろんそれはあるんでしょうけれど「死」とか「無常」といったことを特別に『インモラル』で遺作として描いたというよりも、神代監督がもともと本人の中に抱えていたような部分もあったのではないでしょうか。
『インモラル・淫らな関係』
販売元=ビーム・エンタテインメント |
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白鳥:それはまったくその通りよ。
もともとクマさんて人は「死」とか「無常」とかの感覚、感情をもってた。
初期のころからそれは作品の中にあるでしょう。
●だとすれば神代さんのどこから来ていたんでしょう。生まれなり育ちでしょうか。
白鳥:それは「葉隠」よ。
佐賀というところで育った、きっとその育ちでもあったでしょう。
「葉隠」の精神の「武士道とは死ぬことと見つけたり」っていうね、あの武士道の精神があるでしょ。あれがクマさんの精神の中に、かなり強く根をはってるような気がするのね。
佐賀は「葉隠」産んだところでしょ。「血」っていうのかな、それは一種の「血」としてクマさんの中に流れてたと思う
そのくせね、そのくせ自分の生まれ育った封建的な風土に対する気持ちっていうものもあって、それには凄く反発していたし、具体的には封建的な父親に対して反発していた。
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『インモラル・淫らな関係』より |
まず父親のことをほとんど語ったことがない。母親のことは良く喋ってたけれど。
クマさんの話で、とっても好きな話があってね、
クマさんが亡くなって、佐賀の県人会が神代辰巳の回顧上映会を開いてくれたの。
クマさんの幼馴染みとか同級生とかが一緒になってね、いろんな話を聞いたときに、佐賀中学時代のクマさんの親友が教えたくれたんだけど、中学の学校帰りに皆で一緒に帰るときに、女学校の横を通るんだけど、クラブ活動で女学生がブルマーで走ってたんだって。
みんな中学生だから、当然ブルマーの下半身に目が行くじゃない(笑)。
クマさん一行は、やれ大根だのあの足は良いだの品評会やってたんだって、やいのやいの皆で言ってたら、中学生のクマさんがね、
「君たち、女性の美しさは全体を見るものだ。足だけを見て判断するものじゃない!」
って言ったんだって。
中学生よ(笑)!いい話だと(笑)思うけど、それが神代辰巳なんだと思うわ。
ある意味では、本当のフェミニストなのね。
でもある面では、佐賀の相当封建的な育ちを嫌いながらもやっぱり自分でも持ってるのね。その狭間にね、自分の身を置いていたような気がするね。
不思議にわたしはあんまり生意気だとか言われたことはないんだけど、よく助監督さんとかにはかなり言ってわよね、
「お前、生意気だぞ」って。
根岸(吉太郎監督)なんかよく言われてて可愛そうだった(笑)。なぜか彼はクマさんにニラまれててね、可愛そうに(笑)。
『宵待草』なんかの頃は根岸とか相米(慎二監督)あたりがみんな助監督だったから、みんな言われてた。
なんかのときに、そう根岸は現場でケガしてね、怒られるわケガするわでふんだりけったり(笑)。
ふふふ…。
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一般作『宵待草』はゴジこと長谷川和彦脚本作です。『青春の蹉跌』もそうでした。
長谷川監督は初期ロマンポルノの助監督を多数務めています。
いつかどこかで過ごした、神代組の風景が、白鳥さんの中に実感をもって帰ってきたのでしょう。白鳥さんは声を出して何度か笑われます。
根岸吉太郎や相米慎二が走り回っていた「神代組」の風景を見てみたい!
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●神代映画では、繰り返し「トンネル」が出てきます。これはシナリオにはじめからあるのでしょうか。
白鳥:はじめからシナリオで指定してるわけではない。クマさんが言うのね。
トンネルだって。
●なぜ、トンネルなんでしょう?毎回毎回。
白鳥:好きなんでしょ。トンネル(笑)。
●(笑)…。
白鳥:クマさん凄く好きなのよ。トンネル。
まあ、あえて理屈をつければね、「体内回帰」ってことなんでしょうけどね。
今風に言うとね、クマさんはかなり「マザコン」だったとは思うの。
まあ「マザコン」って言っちゃうとちょっと言葉が悪いのかもしれないけれど、クマさんは凄くお母さんを敬愛していたのね。
それに反比例して、父親に反発してた。
周りの人の話を聞いてもね、クマさんのお母さんはとにかく優れた女性だったらしいの。神代家っていうのは大きなまあいい家で、使用人なんかもけっこう沢山いるような家なのよ。
それで家のことは全部お母さんがきりもみしてたらしいの。その使用人の人たちを今でも、とっても大切にしてるらしいのね。
神代さんの上映会みたいなのがあってね、「神代家の夕べ」みたいな感じで(笑)やるのよ。
一家が一同に会するんだけど、そんな時は使用人の人たちもみんな声かけられて、それこそクマさんが坊ちゃんの、3つか4つかの時から知ってる人たちが集まってくるのよ。そこで話し聞くと、「本当に、優しい坊ちゃんでしたなあ」ってみんな言ってた。
そんないい家の、クマさんは長男だったのね。
そこで大切に育てられた。でも父親は専制君主だったんでしょうね。
「金魚鉢の事件」っていうのが、クマさん子供の頃にあってね。
妙に細かいお話になってきました(笑)。
ロマン館はこの細かさにこそこだわってお届けします。
神代監督幼少時の「金魚鉢事件」とは?
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