Episode 5

Seductive teacher and  a woman in the bottle!
What the hell is Roman X?

淫乱教師に瓶詰め女!ロマンポルノって何なんだ?
 


「晩年ロマンポルノ構造改革」は外注プロ製作のビデオ撮り作品対、撮影所製作フィルム撮り作品の、『ロマンX』ダブル対決へ!
撮影所の威信をかけての企画担当者となった漫遊人が手がけた、生き残りをかけた「ムスコ濡らし」作品とは?
 

当時の企画部は担当部長が樋口弘美重役、そして大畑信政(「いたずらロリータ・後ろからバージン」「女猫」)さんがキャスティングを担当、企画部員は沖野晴久(「色ざんげ」「イブちゃんの花びら」「夕ぐれ族」)さん、植木実(「箱の中の女・処女いけにえ」「花と蛇―地獄篇」)さん、そして僕の3人。

夏の作品が撮影所製作フイルム撮りのロマンXと外部プロダクションに発注するビデオ撮影のロマンXを2週間づつ興行する「ダブルX」に決まった時、「いんこう」を沖野さんが担当、植木さんと僕が「瓶詰め地獄」を担当することになった。ビデオ撮り作品が本番ありの過激さを謳い文句にした作品ならば、フィルム撮り作品は内容の過激さを売り物にしようということでタブーに挑戦した作品である。


CG
合成じゃないんです。ホントに瓶に入ってるんです!『瓶詰め地獄』の小川美那子さん。

「瓶詰め地獄」は夢野久作の原作であるが、難破した船が無人島に漂着、唯一生き残ったのは幼い兄妹、島に生き残ったその2人からと思える瓶に入った3通の手紙が、順序を逆に流されて来る。最初の手紙には人間としてとんでもないことをしてしまったこと、2番目の手紙には成長し始めた妹の身体に惹かれていく兄の気持ち、そして3番目の手紙は無人島に漂着した幼い二人がなんとか生き延びていこうとしている様子を伝えてある。
原作は3つの手紙だけの短編なのでストーリーはいくらでも膨らませていける余地が残っている。どのような構成にしようかと何度かの打ち合わせをした後、ガイラ(小水一男)さんが作ってきたストーリーはこうだ。


ねっ、ホントでしょ。


ある離れ小島に遊びに出かけた兄妹が宿泊先で隠してあったその3通の手紙を読み、そこの主が実は妹と関係を持ってしまった兄であることを知る。嵐のためしばらく島から出られなくなった二人は、衝撃的な手紙の内容が頭から離れなくなり、次第に禁忌な世界に自分たちも足を踏みいれていく…。
ガイラさんの大胆な発想に皆面白がりながらも、ロマンXであるから何か衝撃的なシーンが必要だということになった。
そこで出てきたのが瓶に妹を詰めて海に流してしまうシーンを最後に持ってこようというとんでもない奇抜なアイデア。勝手な思いつきを脚本に取りこんでいくのはシナリオライターに取っては酷な作業だと思うが、ガイラさんは愉快そうにシナリオに入れる事を引き受けてくださった。そして製作サイドは人間が入るだけの大きさの超特大の瓶を用意することになった。
 


一方「いんこう」は女教師が自分の教え子と肉体関係を持ってしまった実話に基づいたもので、等身大の人間が出てくる話である。
最初はこの作品に携わってはいなかったのだが、若い者の意見も聞いたほうがいいだろうということで担当の一人として加わることになった。お前は若い女教師とやりたいと思ったことはないか、正直な経験を語れと単刀直入に聞かれたが、残念ながら僕は男子高校出身でその高校には保健室のおばさん以外女性はいなかった。

その昔読んだ本宮ひろしの劇画「俺の空」で主人公の高校生が2年生で全単位を修得、最後の1年で旅をするのだが、

ああ、いやらしすぎます。『いんこう』の麻生かおりさん。これで女教師!

旅立つ前に担任の先生の家に行き、「僕の最初の女性になってください」とお願いをして男になるのを覚えていたが、そんな虫のいい話があるわけないだろと思ったくらい。お前は使えないなあと言われたが、まあ色んな意見を出せよと言われ打ち合わせに加わった。

例の事件の後、淫行という言葉がやたらもてはやされたのであるが、誰も正確な淫行条例(条令か?)の正確な内容を把握していなかったため、僕が調べることになった。
一言で言えば、「何人も青少年に対してわいせつな行為、淫行をしてはならないし、見せてはいけないし、させてはならない」ということである。そして青少年とは18才に達するまでの者のことをいうようだ。(だからロマンポルノは18禁の成人映画なのだ。)
脚本家の佐伯俊道さん宅の留守電に条令内容をメッセージとして残したのであるが、実は当時、この条令が施行されていない県が確か3県あった。

神奈川、千葉、長野だったように覚えているが、東京の青年が神奈川で淫行をしたらどうなるのだろう。また青少年同士のわいせつ行為も淫行条令に抵触するのだろうか。実際は抵触するらしいが、そうするとロマンポルノは多くの淫行映画をすでに世に放ってきたことになる。まあそれはともかく、聖職と呼ばれる立場にある教師が教え子に肉体の手ほどきをした、それが女性教師だったという衝撃性が注目されたのである。単なる淫乱女が若い男を食いに走ったという話にしないため、何が彼女をそうさせてしまったのかという動機がポイントになった。話し合いを続けるうちに、ターニングポイントになる特別な出来事ではなく、色んな諸条件が重なってそうなってしまったということに決まった。

両作品ともシナリオの改訂を何度か重ねた後、準備稿で本読みにはいったのであるが、そこでの評価は決していいものではなかった。

「瓶詰め地獄」では一人の重役が何を言いたいのかさっぱり分からない、また一人は頭でっかちになりすぎていないかとの発言。本作りをしていた側は、回想と現実が交錯した中で倒錯の世界に入っていく様を面白いと思ったのだが、どうも観念的に走り過ぎてしまったのかもしれない。
 

「いんこう」に関しては、ちょっと乙に済まし過ぎてないか、もっとどろっとしたところが必要だろと言われてしまった。今でもよく覚えているが、本読み用に僕が付けた企画意図、

「枷を立ち切れ、吹っ切れてしまえ。教え子の肉体を貪っていく女教師の姿をなまなましく描きたい」に、

その結果、こんなに「どろっ」となりました。


重役は企画意図の狙いはOKだからそれらしくしてくれと言われたので、佐伯さんに最初から企画意図を渡せよと叱られてしまった。
佐伯さんには本作りの打ち合わせの後、何度もゴールデン街の飲み屋に連れて行ってもらったのだが、飲んでいる最中に店のママに意見を聞かせてよとふっと原稿を渡すのを見たことが何度かある。
どのように彼女達の意見を取りいれているのかは定かではないが、男ばかりの意見で作られがちなロマンポルノのシナリオに対し、女性の側の意見を聞きたがっているのは間違い無いように思う。両作品とも撮影に向かって、さらなる本直しを続けて行った。
 

その一方でキャスティングも進めていくのだが、当時の主戦力であった2人に依頼。
麻生かおりさんに「いんこう」の女教師役を、小川美那子さんに「瓶詰め地獄」で瓶に詰められる妹役をしてもらうことになった。

そして「瓶詰め地獄」の回想の中で出てくる妹役に、当時は無名だったが、後にアダルトビデオの女王として君臨する小林ひとみさんを抜擢、重役の一人はこんな可愛い娘が出るのかと驚いていた

あまりの可愛らしさとおわんおっぱいに、問い合わせが相次いだそうです。AVデビュー前の小林ひとみさん。

両作品も撮影中はいろんなことがあった。「いんこう」では、女教師が自分の陰毛を剃るシーンがあるのだが、麻生さんは女としてこんな芝居はできませんと涙を流して嫌がったそうだ。助監督の萩庭さん(『ミナミの帝王』等監督)は女優として芝居をしてもらわなくていけないのに、女として出来ないとは役になりきっていないと怒っていた。
「瓶詰め地獄」で瓶にはいって栓をされ海に流された小川さんは窒息で何度か倒れそうになったそうだ。あの中に入っていられる時間には限界があり、ロングショットでの撮影など生きた心地がしなかったと思うし、それこそ海流のせいであらぬ方向に流されはしないかという恐ろしさもあったろう。
 

完成した両作品はスタッフの皆のおかげでクオリティの高い作品に仕上がったと思うが、通常のロマンポルノと比較してロマンXとしての作品性の違いがどこにあるのかと問われたらどう答えればいいのかという不安が残った。
小沼監督は本作りの最中にセックスシーンで劣情感を煽る設定を紙にいろいろ書いては渡され、

しつこいですが、実際に瓶に入って流されてるんです。

お前もいろんなアイデアを出せといわれたのだが、それが物足りないものだったのだろうか。
裸で瓶に詰められ流されていく衝撃は性的衝動に、結びつくものでは無かったのか。反省点は多い。
当然のことながら、両作品の関係者から「お前のムスコを濡らすことはできたか?」と問われた。

本作りをし、ラッシュを何回も見た後ではなかなかそれも難しかったと思うが、僕はハイと嘘を吐いた。
あわれ我が愚息は今後もロマンポルノを語るリトマス試験紙として使われることになるのだろうが、作品に関った自分すらも興奮させるような映画を作らねばと意欲を新たにしたのである。

ビデオ撮りのロマンXも完成に向かって着々と撮影は進み、さてさてどちらがより興行的力があるだろうかと思っていたころ、そんな関心をぶっ飛ばすような映倫の先生方からの御達しが届いた。
その話は次回で話そうと思う。

 
漫遊人が、ムスコが濡れなかったと心の中でつぶやいた時届いた、映倫のトンでもないお達しとは?焦らさないで、おねがーい。

(続く)