Episode 4

Make it happen! Make me wet!

改革作戦!俺の息子を濡らせ!


ロマンポルノは1971年に生まれ、1988年に終焉しています。
漫遊人のロマポ人生を辿るこの連載の現代時間は、1986年。結果的に残り3年のロマンポルノは、アダルトビデオの普及の中で興行的な苦戦が続いています。
過激なビデオ撮りの「ロマンX」や有名な女優を脱がす「ロマン大作」など、様々な「構造改革案」が図られますが…。
漫遊人の「テコ入れ」発言は問題発言となって波紋を呼びます。
今回は「晩年ロマンポルノ構造改革」前編です。
 

1986年のゴールデンウイーク、エロス大作興行は「蕾の眺め」(田中登監督)「部長の愛人・ピンクのストッキング」(上垣保朗監督)の2本立て。
かつてピンキーとキラーズで一世を風靡した今陽子さんと、はじけんばかりの若々しい魅力たっぷりの水島裕子さんを看板に立てて勝負したのだが、興行成績は芳しいものではなかった。

正月映画の「魔性の香り」(池田敏春監督・天地真理、ジョニー大倉主演)「女豹」(小原宏裕監督・田中こずえ主演)の興行成績も成功とは言えなかったため、予算をかけてエロス大作を作ることに意味があるのかの意見も出る始末。

ご存知小林ひとみ!彼女もなんとロマポル出身なんです。ロマポルから出てAVで大スターになった彼女は、終盤のロマポルの象徴かも。「奥戯快感・艶」より。

当時の1年間の番組編成は正月、ゴールデンウイーク、お盆のエロス大作を中心に行われており、その間の作品を準備、製作しながらも常にエロス大作向きの企画探し、監督交渉、女優交渉は行われていた。

それだけ有名女優を口説く落すのは難しく、原作、監督、脚本家を並べての交渉が続く。その一方でアダルトビデオの攻勢に立ち向かうため、本番もありと謳ったロマンXのプログラムを多く盛り込むことも要求されていた。

大ヒット歌手の天地真理「魔性の香り」と今陽子「蕾の眺め」が脱いだ!それでも苦戦する。


そんなある日、にっかつの専属および社員若手監督、若手プロデューサー約20名を集め、企画、製作担当重役数名と企画部員が出席して今後のロマンポルノをどういう方向に向けて欲しいかの話し合いが撮影所の大江戸食堂で行われた。

年に1度、若手監督、助監督、製作部、企画部員を集めて社長、企画、製作担当重役との忘年会が年末に行われていたのは恒例であったが、この時期にこのような集まりが開かれたのは稀なことである。
盛り上りに欠けた話し合いだったが、その主な理由は会社側からのしっかりロマンポルノを作って欲しいという要請が話し合いの中心であったからのように思えた。
 

この「しっかり」ロマンポルノという意味は具体的に言えば、ポルノのシーン、つまり濡れ場を逃げることなくしっかり演出して欲しいということである。濡れ場はあっても演出がどうも逃げ腰になっているものが多いというのが会社側の感想で、ポルノ映画である以上、そこをおざなりに描くことは許されないということである。

勿論、おざなりな演出をする監督などいるはずはないのだが、ポルノシーンが不得意な監督がいたことは事実で、随分後になって、どうもカラミのシーンは苦手だったと正直な意見を僕に漏らした監督もいた。

豊乳大型新人の田中こずえは、グラビアで大人気。でもやはり映画は苦戦する。今でもこずえさんの見事なボディは人気です。その後月食歌劇団で舞台女優として活躍。「女豹」より。

会社側としてはアダルトビデオに流れて行く客の足を何とか止めなくてはいけないという焦りもあったのだろうが、話がポルノの演出に終始したのはフィルムメーカーを志す監督にとっては不満なものであったに違いない。
監督にとってロマンポルノの演出をすることはアダルトビデオに対抗するためでは決して無いわけで、どうも別の土俵に立って話をされているように感じたことだろう。

重苦しい雰囲気を立ち切る為に僕は発言をした。

「何が劣情感を駆りたてるのかは人それぞれだと思うけどせめて僕のムスコの先が濡れるくらいの演出はして欲しいと思う」


これでも濡れないの?漫遊人!「女豹」より。

その場では「こいつは一体何を言ってやがんだ」と言った笑いは起こったが、後日この無邪気な発言は波紋を呼んだ。
その後僕と顔を合わせると「おまえのムスコを濡らさないとなあ」とからかう人もいたが、「誰もお前のムスコを濡らす為に映画を作ってるわけじゃないだよ」と怒りを顕にする人も当然現れた。

僕としては入社したての頃に読んだ「官能のプログラムピクチチュア・ロマンポルノ」という本の中でプロデューサーの三浦朗さんが試写の後、皆にどこで立ったかを聞いたら、皆立ったところがそれぞれ違っていたと書かれていたのが頭にあり、それぞれ違うのだろうけどスタンダードが何かあったほうが程度の気持ちでいったつもりである。
でも数々の名作、ヒット作を生みだした三浦さんの意見と新米企画部員の戯言は重みが違い過ぎた。今後、自分が関る全ての人が僕のムスコを濡らすか、それに反撥して映画を作っていくのかと思うと、こちらのムスコは萎縮してしまいそうだ…。


 

小林ひとみは問題の『瓶詰め地獄』に台詞の無い役でデビューしてるんです。「奥戯快感・艶」より。

その話し合いがあってしばらくして今年の夏はエロス大作は無し、撮影所製作フイルム撮りのロマンXと外部プロダクションに発注するビデオ撮影のロマンXを2週間づつ興行する「ダブルX」をプログラムすることに決定した。作品のクオリティの高さは言うまでもないことだが、衝撃度、興奮度、興行成績でも撮影所作品が負けるわけにはいかない。

何度もの会議、検討が行われた後、一本は当時、高校女教師が教え子と性的関係を持ってしまった実際の事件にもとづいた「いんこう」(このタイトルは前回説明したと思うが)に決まり、小沼勝さんに監督、佐伯俊道さんに脚本を依頼、もう一本は夢野久作原作の「瓶詰め地獄」を「マダムサド牝地獄」で力強い演出を披露した川崎善弘さんに監督、ガイラ(「処女のはらわた」「美女のはらわた」「拷問貴婦人」)さんに脚本を依頼することに決定。そして僕は両作品に企画担当としてつくことになった。この続きは次回で紹介したいと思う。
 

ロマンポルノの行方がかけられた前代未聞のダブルX対決!漫遊人は両企画を手がける。撮影所の威信をかけてこの2本が、外注のビデオ作品に挑む!


「いんこう」

「瓶詰め地獄」
(前回『瓶詰め地獄』をビデオ撮りと間違えて記載してしまいました。失礼しました。この2本が撮影所制作でフィルムで撮られたのです)

話は変わりますが、「にっかつ」時代の元総務担当重役の藤本幹夫さん、編集の冨田功さんが亡くなられました。今年の1月にデザイナーの菊川芳江さんが亡くなられたショックが癒える間もなく届いた訃報です。藤本さんは総務部でしたので、企画製作に直接関わられたわけではありませんが、にっかつを、そして映画をこよなく愛していた素晴らしい方でした。富田さんはにっかつロマンポルノで編集技師としてデビュー、その後多くの作品を担当され日本アカデミー賞を2度も受賞された方でした。心からご冥福をお祈りしたいと思います。

(続く)