先日、ニュー・ジャージーで開かれたAsian Fantasy Film Expoに金子修介監督がお見えになった。
僕が働いている会社が、「クロスファイヤー」という監督の作品をニュー・ヨークで公開することになったので、早速インタビューをお願いし、弊社オフィスまで来てくださることになった。
とてもきさくにインタビューに応じてくださり、監督が手がけた作品、これから作ることを企画している作品、これまでどのように映画と関ってきたかについて熱のこもった話をしてくださった。
映画界の先輩である本多猪四郎監督にはじめて会ったときは畏敬の念を覚えたと同時に、歳を取られていても眼の輝きは鋭かったことを話されたが、この話を含め、監督との話のなかで何度か「眼の輝き」という言葉がでてきた。
金子監督はいまや日本映画の中心的な監督の一人であるけれど、その眼はどこか少年のように輝いて見える。
あの瞳の中に次々と作品を生み出す力が秘められているのだろう。これからもファンタジーの世界と現実の世界が融合した面白い作品を作って行きたいと締めくくられた。
(『いたずらロリータ・後ろからバージン』のヒロイン水島裕子。世界独身男性夢のお姿!) |
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にっかつ時代の金子さんはウルトラマンに出てくる全怪獣の身長、体重、得意技を知っていると有名で将来は怪獣映画を撮りたいと助監督時代に話されていた。
また監督が書いたシナリオ、「ズームアップ・聖子の太股」「スケバン株式会社・やっちゃえお嬢さん」監督作品「宇野鴻一郎・濡れて打つ」「イヴちゃんの姫」などをご覧になれば分かるが、オリジナル作品であるけれど、アニメを原作にしたかのような作品が多く、最初から目指していた世界を真っ直ぐに進んでいることが明らかだ。
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金子監督の代表作『濡れて打つ』と『イヴちゃんの姫』可愛い娘ばっかりなのです! |
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その金子監督と企画部に移って間もない頃に一緒に仕事ができたのが、「いたずらロリータ・後ろからバージン」である。
この作品のストーリーはこうだ。
会社の仕事もうまくいかず、彼女にも逃げられた青年が、自棄酒を飲んで帰る途中にゴミ捨て場に投げ捨てられている人形を見つけ、まるで今の自分のようだと同情して家に持って帰る。
翌朝、目覚めると見たことも無い女性がエプロン姿一枚で朝ごはんの準備をしている。
拾われた人形が女性に変身、青年をご主人様と呼んで献身的に尽し始める。人間界に飛び込んだ人形が回りに騒動を巻き起こしたり、軋轢を感じたりしながら青年への愛を貫き通そうとする物語。 |
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今思い出すと、この映画もファンタジーと現実の交じり合った話である。水島裕子さんのデビュー作「部長の愛人・ピンクのストッキング」のプロデューサーの千葉好ニ(「夢犯」「薄毛の十九才」「うれしはずかし物語」)さんが単発の漫画からアイデアを見つけてきて、金子さんと水島裕子さんでこの企画なら面白い作品ができそうだと提案し、企画は成立した。
脚本をお願いしたのは菅良幸(「偏差値H倶楽部」)さん。「キャプテン翼」の劇場版のシナリオをそれまでに手がけられていた脚本家で、僕が勤めている会社がビデオ、DVDマーケットに配給して全米で爆発的なヒットをしたアニメーション「るろうに剣心」のテレビシリーズの脚本家としても有名な方だ。
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デビュー作『部長の愛人・ピンクのストッキング』での水島裕子。 |
シナリオ作りの進め方は、プロデューサー、監督、脚本家、企画部員の顔合わせから始まり、最初は会社の会議室、もしくは近所のレストランでコーヒーでもを飲みながら、プロデューサーから提示された企画のストーリー、テーマ、狙い、トーンなどをディスカッションする。
話の流れはこんな感じでとか、登場人物は誰が必要になってくるとか、このへんに何かアイデアはないかとかいろんな話が出て、脚本家は皆の話をメモに取りながらシナリオ作りの参考にしていく。
忘れてはいけないのはSEXシーンをどうストーリーに絡めていくかということ。 |
ロマンポルノを作るわけだから、当然、色っぽいエピソードを盛り込まないといけないし、誰と誰をくっ付けるかということも考えないといけない。
夜になると、酒を呑みながらざっくばらんに話をすることも多い。多少酒が入ると、遠慮していたこともだんだん言えるようになってくる。
それらの話をもとに脚本家は話を練って、次の打ち合わせの時にハコ書き(ストーリーの流れを箇条書きにしたもの)を書いてきて、今度はそのハコ書きを基にしての話し合いがスタートする。
今ならメールに添付して送ったり、FAXで流しておいて、前もって読んだ後で集まればいいが、当時は自宅にFAXを備えている人はそれほどいなかったし、E-メールなど存在すらしていなかった。
皆が渡されたハコ書きを黙って読んでいる間、脚本家はしばし手持ち無沙汰になるが、皆がどういう反応を示すか気が気で無いと思う。ある程度ハコが固まってきたら、それをもとにシナリオの第1稿目を書いてもらう。決定稿まで何度も書きなおしをお願いするわけであるが、その一方で撮影予定日も迫ってくるから、時には朝型まで皆で顔を付き合せてうなりながら本の直しをしていくこともある。作品によれば、旅館に脚本家を缶詰にして書いてもらうこともある。
この作品を書いてもらっている時もそんなことがあった。
最初は喫茶店かどこかで話していたのだが、店も閉店になり、旅館を押さえることもしていなかった。そこで都内から一番近い新井薬師の僕のアパートで打ち合わせを続行することにした。といっても学生下宿同然の6畳3畳の風呂も無いところ。むさい部屋に男4人が集まって話を続けたが、皆さん文句も言わずに本直しに集中してくださった。
(さえない主人公の部屋は打ち合わせた漫遊人の部屋がモデル?) |
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この本作りに際に参考になる作品として出てきたのが「スプラッシュ」(注:ロン・ハワード監督、ダリル・ハンナが人魚を演じたラブロマンス)と「カイロの紫色のバラ」
(注:ウディ・アレン監督、寂しい人妻ミア・ファロウが映画の中から出てきたスターと恋をするファンタジー。)「スプラッシュ」は僕も見ていたが、「カイロ―」は未見だったので、レンタル店で借り、VTRを当時まだ持っていなかったので、会社のビデオで残業してみたものだ。
やはり多くの作品を見て、アイデアを出す引出しをたくさん持っておくことは必要だなと痛感する。でないと打ち合わせをしていても後手に回ってしまうからだ。 |
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監督はかなり柔軟に僕の意見も取り入れてもらえた。
青年が何かに没頭している時、部屋にいる人間に化した人形に何をさせればいいだろうという話になった時、僕が思いつきでルービック・キューブでもやっていればどうでしょうと言ったら、シナリオに盛り込まれ、監督もそれを採用してしまった。なんか迂闊なことは言っちゃいけないんだろうけど、思いついたことは何でも言ったほうが役に立つのかもしれないと思ったが、4年も前にはやったおもちゃを使った監督の頭にはそれなりの計算があったのだろう。
水島裕子を幽閉する怪しげな悪女役に、これも思いつきで三東ルシアさんが来ればはまりますよねと言ったら、監督も乗って、千葉さんも彼女の事務所と交渉して出演OKを取ってきてくださった。エロス大作で主演クラスの女優さんだったのに。 |
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三東ルシアはCMギャル出身!おじさんに大人気の美貌。 |
監督がご機嫌斜めになったのはタイトル決定。
「金子・水島もの」と企画部では呼んでいたけれど、そろそろ正式タイトルを決めないといけない時期に差しかかり、何故か僕の言った「天使のキスマーク」を皆さんが喜んでくださった。最終的に彼の元を去る彼女が残して行った想い出はキスマークと呼べるものだし、結構綺麗にはまったじゃないかということで準備稿(決定稿前のシナリオ)の表紙に印刷された。あがってきたシナリオを各部署に配って回った直後、興行部からこれはポルノのタイトルじゃあない、もっとポルノらしいタイトルを考えろと注文がやってきた。
準備稿をもとにして、「本読み」が行われる。
この「本読み」とは皆で本を読むのではなくて、この本作りに関った4人の前に、シナリオを読んできた本社の本部長、企画部重役、映像事業部重役、撮影所長、撮影所企画部重役(メンバーは変わったが大体こんな顔ぶれだったように思う)、本社の企画部員が会議室に集まって、この作品が会社の意向から大きくはずれていないか、撮影するに十分なシナリオに仕上がっているかをチェック、また内容に関してもいろんな注文も出される。
撮影開始が迫っている時などはスケジュールを作るチーフ助監督が同席することもたまにあった。
本の中身に関しての注文はさほど無かったように思うが、タイトルは絶対に変えるようにとの厳命が下った。
(監督が泣いてこだわった噂のシーンがこれ。詳細はこちらで。) |
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宣伝部と興行部と企画部でそれぞれタイトル案を持ってこいと言われたが、その前にさんざん考えてきた僕から出てくるものは何も無い。
何がどうなったか、気がついてみれば、「いたずらめしべ・後ろからバージン」というとんでもないタイトルになってしまった。水島さんの反対で「めしべ」は「ロリータ」に変更になったが、何で「後ろからバージン」なんだろう。ストーリーとの関連性など何もないじゃないか。
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タイトル画面もそれまでのロマンポルノとは違うのです |
これは監督に伝えるのはつらいなあと思ったが、案の定、こんなタイトルつけられるとやる気無くすよなぁとムッとした顔をされていた。
この件を監督は今でも覚えていて、ニュー・ヨークでも「あの時天使のキスマークのタイトルを出したの作田だったよなあ」と何かの拍子に一言。すいません、僕が皆さんを説得できませんでした。
この頃夏の作品の準備で忙しく、撮影現場には1度も顔を出すことができなかったが、撮影所で偶然顔を合わせた照明技師の加藤松作さんが「今回は面白い作品になったぞ。ポルノ無しでも十分楽しめるんじゃないか」とおっしゃってくださったのが印象的だった。
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人形に戻ったヒロインは…。切ないラストは無垢な心を描く金子作品の原点です。そして企画タイトルに漫遊人の名が。 |
作品はそれこそ監督が狙っているファンタジーと現実がいりまじった明るくて楽しく、そしてちょっとホロッとさせる作品に仕上がっていた。ひょとしたらこの作品は監督の原点の1つと呼べるものなのかもしれないとこの原稿を書きながら、今ごろになって思っています。
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