Episode 3

How to decide erotic titles.

ポルノの匂うタイトルを!

 

前回紹介した「いたずらロリータ・後ろからヴァージン」(監督:金子修介)の中で、タイトルを決定して行く話に少し触れたけれど、今回はより具体的にタイトルを決めていく過程を紹介したいと思う。


ストーリーを作っていく上でも、話の内容を一言で明瞭に伝えるためにも、また劇場にお客さんの足を運ぶためにも、インパクトがあり、響きの良いタイトルをつけることは本当に
重要である。

しかしながら、この前の話でも書いたようにストーリーと直接関係の無いタイトルがつけられることも時にはある。例えば「マル秘・色情めす市場」(監督:田中登)は名作であるがタイトルと内容が一致しているかといえ
ば疑問である。
でも不思議なことに作品が評価されたり、大ヒットすると、そのタイトルも妙にはまって聞こえてくるものだ

今回のテーマは「タイトル」。映画の顔だけあって、出し方色々です。かっこよくってため息の出た『赤い髪の女』(赤が2つの字です、出ない)


会社が勝手に作ってスタッフが憤慨したタイトル『○秘色情めす市場』(田中監督の発言はこちらの原題は『受胎告知』

タイトル決定を順序立てて話すと、最初にプロデューサー、企画部員からタイトルをつけた企画書が提出されてくる。
最初はそのタイトルで準備が進んで行き、準備稿が印刷される前まではそのままのタイトルで進められる場合が多い。でも印刷された準備稿は全国の各支社の支社長に配られることもあるから、その時はほぼ決定していることが望ましいが、もう一考したい場合は「仮題」をタイトルに付けて印刷することになる。そうすると「後ろからヴァージン」(元は「天使のキスマーク」)の時のように声を大にして変更を要求されることもある。そうなると、内容を考えたり、今はやりの言葉を引っ張りだしたり、漢和辞典とにらめっこをしたりして、ああでもない、こうでもないと宣伝部、興行部を巻き込んでの検討がスタート。

こちらは『ロリータバイブ責め』が、DVD化で原題『秘密の花園』に差し戻し.この作品も漫遊人担当してるんです!

特にポルノの匂いが足りないタイトルには注文が多く、もっと観客の劣情感を煽りたてるようなタイトルを付けることを要求される。でも、ロマンポルノは1000本以上作られているわけだから、これはと思って提出しても、以前どこかで聞いたようなタイトルとダメ出しされ、あまり変なタイトルだと下品過ぎると一蹴される。(「女子大生・三日三晩汗だらけ」監督:山本晋也は最初「三日三晩汁だらけ」だったそうだが、「汁」を「汗」に変えて決まったそうである)僕の経験だと皆さんから一発で喜んで受け入れられたタイトルはほとんど無かったように思う。

楽なのは原作を映画化した場合。原作の面白さ、話題性、知名度にのっかって製作を決めるわけだから、ほとんどの場合、タイトルを変えることは無いし、また原作者、出版社も相当考えた上で決定しただろうから、内容と見事に合致したものが多い。「ピンクのカーテン」」「赤い髪の女」「人妻集団暴行致死事件」「蕾の眺め」「桃尻娘」「キャバレー日記」「天使のはらわた」「輪舞」等がその良い例である。ヒットすれば「ピンクのカーテン」(監督:上垣保朗)のように2,3としてシリーズ化したり、「桃尻娘」「天使のはらわた」のように副題をつけてのシリーズ化も可能である。


また「団鬼六」先生の原作作品だと、先生の名前を冠につけることで、SM作品であることの明確な色づけができるし、「宇野鴻一郎」先生の「濡れて〜」だと「わたし〜しちゃったんです」の独特のモノローグから始まるコメディものであることが分かる。
でも原作の映画化でもロマンポルノからかなり遠いタイトルの場合、原作者、出版社に承諾をいただいた上で変更をすることもある。「ベッド・イン」の原作は「ゆらりうす色」だし、「母娘監禁・牝」は「紡がれる」で、「待ち濡れた女」は「雨ごもり」だった。(何故かシナリオは3作とも荒井晴彦氏によるもの)。

原作表記する例.『待ち濡れた女』


屋根はタイトルが出やすい?こちらは小沼監督の『古都曼陀羅

オリジナルタイトルでヒットした場合も、副題をつけたり、タイトルの一部を変えてのシリーズ化ができ、「美姉妹」もの「肉奴隷」ものがそうである。


 

僕が現場時代に製作担当をした「制服肉奴隷」は「肉奴隷」シリーズの1作目で、そのシリーズ4作目の「女医肉奴隷」が企画担当者として最初の作品である。
企画担当者と言ってもこの場合は最初から「肉奴隷」シリーズの新しいものを会社から製作するように言われたもの。

「制服」「令嬢」「美姉妹」の次に来るとしたら何だろうという話になり、辱め、貶めて行き、最終的に男の肉欲を凌駕するSEXの虜になるわけだから、ある程度、品格のある設定がいいのではというところから「女医」に決まった。

プロデューサーの鶴さん(「美姉妹肉奴隷」「レイプハンター・通り魔」)が短編小説からアイデアを持ってきて、監督は「美姉妹肉奴隷」に続いて藤井克彦監督にお願いし、シナリオも同じく大工原正泰(「女教師・生徒の目の前で」「宇野鴻一郎の女医も濡れるの」)さんにお願いすることになった。

大学病院に勤めて、将来を嘱望され、同じ病院に勤める医者をフィアンセに持った女医が、自分とそっくりな女性が裏ビデオに出演していたことから、淫らなアルバイトをしている嫌疑を周囲からかけられ、自分のアイデンティティを失っていき、最後はSEXの虜になっていくストーリーである。藤井監督はあまり意見を強く押し出されることはないが、納得した様子を見せることも滅多に無いので、僕はこのままでいいのかどうか戸惑ったものだ。鋭い眼光を光らせながら、時折搾り出すような声で意見を言われる。一方、大工原さんは飄々とアイデアを出して、皆の反応を見ながらシナリオに取り込んでいかれる。また大工原さんはお弟子さんの山下久仁明さんを共同脚本としてお連れになった。ベテラン2人と仕事をするのは勉強になる一方で、肩が凝りそうだったが、同年輩の脚本家が一人加わったおかげで気分的には随分楽になった。


 

ストーリーの最後で彼女にそっくりな女性が実在することを知らせるくだりで、(麻生かおりさんの二役だが)その違いの決め手を何にするか、誰に発見させるかで展開を討議しあった。
向こう側の世界(肉奴隷化)に行ってしまった女医が見つけるよりも、フィアンセが見つけたほうが2人の距離が遠くなった印象が強まるだろう、また、肉奴隷化してしまった女医にとっては良く似た女性が実在しようがしまいが、すでに関係ないだろうということで後者は決まった。

前者は普段の癖とか、立ち居振舞いの違いとかで証明した方が面白いとか、その女性を出さないほうが、ひょっとしたらアイデンティティを失った女医が本当にしていたのかもしれないという色んな想像を掻き立てることも出来るのでは等の意見も出たが、最終的に耳の後ろにある黒子の有無にフィアンセが気づくというより明確な結論を出すことに決定した。この辺りで作品全体の雰囲気はガラッと変わってくるもので、トーンは最初から決めて本作りをスタートさせるものだと思っていた僕は、本を作っている最中でもちょっとした展開の違いで大きく味付けを変えていける楽しみ(怖さ)があることを教わった。


この作品のキャスティングには裏話がある。当初、主役はこの頃のエースであった赤坂麗(「高校教師・成熟」「美姉妹・剥ぐ」)さんに決まっていたのであるが、突如彼女がこの作品には出たくないとの話が起き、彼女を本社に呼んで話し合いをしたのだが、納得してもらえない。

本作りが具体的に始まる前だったので、まず本を読んでから決めて欲しいと頼んだが、もっと新しい別の世界に進んで行きたいとのこと。
そこでロマンポルノのエース格に成長しつつあった麻生かおりさんにお願いすることになった。


ロマポ後期のエース!美形NO.1赤坂麗.『高校教師 成熟』より.あなたは赤坂麗派?それとも麻生かほり派?
 
麻生さんは「団鬼六・縄責め」(関本郁夫監督)で高橋かおりとしてデビュー、縄が食いこんでいく白い肌を見るとSM映画の女王として将来君臨することを期待されたが、SM映画は勘弁してくださいとのことで、「女銀行員暴行オフィス」(西村昭五郎監督)「凌辱めす市場・監禁」(上垣保朗監督)で主演していた。この作品以後、麻生さんはロマンポルノ最後の時期の看板女優として何本もの作品に出演することになった。

で、この作品のタイトルだが、「女医」のいう文字はいいが言葉にすると「JOY」と聞こえ、どうも肉奴隷と合わないといったような映画評論家の記事を読んだことがある。肉奴隷化することは「JOY」かもしれないが、確かにどろっと重い文字につけるには健康的で軽過ぎる響きかもしれない。皆が納得するタイトルを付けるのは難しいものである。


麻生かほりの肌は真っ白で縄映えするプロポーション!『花と蛇 地獄編』は売上トップの人気.もっとSM作が見たかった.

タイトル決めの難しさにさらに拍車をかけたのが映倫(当時の日本映画倫理委員会)からの厳しい御達し。テレビ、雑誌等における裸の描写はどんどんエスカレートしていったにもかかわらず、成人映画に関しての規制、特にタイトルに関してはどんどん厳しくなって行った。

使えない文字がまず決められた。「淫行」の「淫」がそうで、ある時期からこの文字がパタリとタイトルから消えた。1986年の夏に公開された「いんこう」(監督小沼勝、主演麻生かおり)は漢字が使えない苦肉のタイトル。その名が示すように女教師が男子生徒と肉体関係を持ってしまうストーリー。最初「わいせつ行為」と命名したがあっけなく映倫からダメ出しを食らってしまった。

特定の職業、属性を明確にしたものもある時期に使用禁止になった。そこで「看護婦」は「白衣」に、「女教師」は「美教師」に、「セーラー服」は「制服」への変更を余儀なくされた。前者と後者の響きの違いを感じて欲しい。「女子校」も使えないから「XX学園」となる。また「犯す」も使えなくなった文字の1つである。この規制が早くから始まっていたら「女教師」(監督:田中登)「美姉妹・犯す」(監督:西村昭五郎)といった名作のタイトルはどうなっていたのだろうか。

営業部からの「ポルノの匂いの強い」タイトルの要求と映倫からの規制にサンドイッチにされながら、企画部員はタイトル案を搾り出さなければならなかったのである。

コミカルで語呂がいいのが藤浦組のタイトル。
「くいこみ海女・みだれ貝」「温泉芸者・湯船で一発」「絶倫海女・しまり貝」(元のタイトルは「海女物語」)「スワップ診察室・蜜しぶき」。
聞いただけで吹き出してしまいそうなタイトルでありながら、いやらしさを含んでいる。

(DVD化希望にも『海女』もののリクエストを多数いただいています.やはり「特定の職業」ということでビデ倫規制にひっかかるんです、けどDVD化は諦めません!下は渡辺良子)

タイトルに女優の名前を冠につけ始めたのはイヴの登場あたりからだろうか。

「順子わななく」(監督:武田一成)「小松みどりの好きぼくろ」(監督:山本晋也)とそれ以前にもあったが、「イヴちゃんの花びら」(監督:中原俊)「イヴちゃんの姫」(監督:金子修介)「イヴの濡れてゆく」(監督:村上修)と3本続けてタイトルに女優名をくっつけたのは彼女だけだろう。イヴさんは風俗業界から女優に転身したことで大きな話題を呼んだ。そしてこのあたりから女優陣のカラーが変わっていったのも事実である。

 

思い出があるのは没になったり、使えなかったタイトル。
タイトル名だけが先行して企画として成立しなかったのは、
「マドモワゼルの膝枕」(五月みどりさん、小松みどりさん姉妹共演〔競艶か?〕を狙っていくつもの企画案が立てられたが成立しなかった)、
「魑魅魍魎」(ロマンX向けのタイトルとして提出したがポルノには無理との判断)、「午前0時の女」「堕天使」「魔奴」等。変更を余儀なくされたのは「天使のキスマーク」(「いたずらロリータ・後ろからヴァージン」)を含め、「制服十字軍・絶叫」(固すぎるとのことで「狙われた放課後・絶叫」監督:廣西眞人に)、「現役女子大生・いじくる股ぐら」(映倫から直接的過ぎるとのことで「現役女子大生・下半身FOCUS」監督:北澤幸雄に)、

タイトルに名前が出るのは大変なこと.「順子わななく」など数えるほどの中で、やっぱりイヴちゃんはアイドルだった

「妖宴・闇縛り」(最後のロマンポルノシナリオコンテストで選ばれた関澄一輝さんの作品だったが、意味が分からんと言われ「妖艶・肉縛り」)等。

タイムアバンチュール・絶頂5秒前」(監督:滝田洋二郎)は「美少女プロレス・失神3秒前」(監督:那須博之)と語呂が似ているが、中部支社長の案を採用させてもらったものだ。「奥戯快感・艶」(監督:池田賢一)は最初「艶」だけだったのだが、ちょっと説明をつけよと言われて副題をつけたのだが、漢字だらけで硬質な印象がしてならない。もうすぐお盆、消えて行った数々のタイトルに供養でもするかなと。合掌。
 

あたしの選んだ「カッコヨシ」タイトル『犯す』イカしてます。

(続く)