Episode 1 

The First day at the Development Department in 1985

85年末 企画部へ配属 でも企画って?


疾風怒濤の現場篇から、いよいよプロデューサーへの道を踏み出す漫遊人。今回から「ロマン漫遊記」は第2部・企画部篇に突入です。
現場の苦労とまた違った世界とは?。
85年はロマンポルノ後期、観客動員の低下とビデオという新メディアが現れた激動の時でした。

 

1985年12月当時のにっかつ企画部体制に関して簡単に説明しておこう。そのときは企画部と宣伝部が統合され企画宣伝部と呼ばれていた。
 
僕がにっかつ入社当時の樋口撮影所長が企画宣伝担当重役、大畑信政さんがキャスティング、芸文担当、企画調整として植木実さんと僕、仁木さんが宣伝次長で、羽田君、東君が宣伝部員。

以上が企画宣伝部の構成メンバーだが、それに加えてそれまで社員プロデューサーとして企画部にいた奥村さん、半沢さん、千葉さん、鶴さんの4人がにっかつの専属契約社員となり、ロマンポルノ作品をプロデュースすることになっていた。
 

(85年お正月映画として大ヒットした『愛染恭子の未亡人下宿』。タモリや立川談志など豪華キャスト!)

具体的な仕事内容はロマンポルノの企画の立ち上げとシナリオ作りをプロデューサーとしていくこと。
年間10作品のプロデュースを契約している4人のプロデューサーが作りたい企画、他社から持ち込まれた企画、そして企画調整で立ち上げた企画の中から、年間約60〜70作品を決定。それと同時に監督、脚本家も決定し、この段階でシナリオ作りに入る事になる。



こちらもお正月映画『刺青』の伊藤咲子。ロマン大作は脱ぎ惜しみ無し!

それから一年間のプログラム作成。ゴールデンウイーク、お盆、正月の3週間興行はエロス大作で固め、夏は「ひと夏もの」「レイプもの」、正月第2弾は華やかな「オールスターもの」年3回くらいのSMものというふうにプログラムは埋められていく。

宣伝部の準備、配給部の営業活動を早くするために、遅くとも3ヶ月くらいまでには作品を決定する必要がある。現場での撮影作業はこのスケジュールに合わせて進められていくことになる。

そして、タイトル決定。観客の関心をできるだけ煽るように、また映倫コードにかろうじてひっかからないようにタイトルを考えないといけない。

最初に提出されたタイトルで決まることはまれで、当初のタイトルから全く違ったものになることも多く、ときにはタイトルを決めて中身を考えていくこともある。

作品が仕上げにはいったら、編集ラッシュ、オールラッシュ(作品をダビングする前に完成に近い段階のプリントを試写すること)をチェックして直しが必要であれば監督、プロデューサーと手直しをしていく。企画部員は作品内容もチェックする一方で、映倫の先生方の承諾を取ることが重要になってくる。
 

(85年3月23日公開、ヒットした『人妻暴行マンション』の渡辺良子。脚本は現在監督として活躍の望月六郎。)

勿論、上記の仕事の進行は企画宣伝部だけの判断で決められるわけでなく、興行部、映画営業部の承諾を取りながら進めなくてはいけないので、横の繋がりもおろそかにはできない。

企画宣伝部に移って最初にあったのはシナリオライターとの忘年会。日ごろにっかつ作品を書いてくださっている先生方を集めて毎年行われる恒例の行事である。といっても企画部に移ったばかりだから、名前と顔がほとんど一致しない。現場時代に渡されたシナリオの内容と名前から作り上げたイメージと比べながら名刺を持ってご挨拶をして回る。

空いている席に腰を下ろしたところ、たまたま前に座っておられたのは田中陽造さんだった。すぐ頭に浮かんだのは「女の細道・濡れた海峡」「嗚呼!花の応援団」「セーラー服と機関銃」だったが、今年のにっかつ作品で一番印象に残った作品をうかがってみることにした。

「『箱の中の女』だね。小沼さんは映画してるよ。本当にちゃんと映画してる」との返事。

(こちらは10月12日公開の『女銀行員暴行オフィス』麻生かほり。)

企画部の話に移行する前に触れて起きたい作品がこのサイトでも何度か登場した「箱の中の女・処女いけにえ」である。
この作品を見た社長秘書が、企画担当の植木さんとエレベーターでたまたま二人で乗り合わせたとき、エレベーターの隅に避けるようにそっと身体を移したとまで言われる物凄い映画である。



そしてロマンX第1弾として『箱の中の女・処女いけにえ』は製作されたのです。

当時、アダルトビデオの登場でにっかつロマンポルノの映画入場者数は1982年をピークにどんどん下降線をたどっていた。アダルトビデオへ流れていく観客の歯止めをするための対抗策として出されたのが、新ブランドの「ロマンX」。ビデオ撮影したものをフィルムにトランスファーして上映、本番もありという過激な内容を謳ったものである。
作品によればストーリー性は希薄で単純に過激なSEXシーンをこれでもかと見せ続けるものもあった。

「ザ・折檻2 快楽篇」などは際物として物議を醸す一方で興行収入を跳ね上げるパワーもあった。
たしかにアフレコ撮影のロマンポルノよりはシンクロ撮影された作品のほうが臨場感は飛躍的に高まるし、ましてや本番が行われているなら劣情感を煽るのは言わずもがなだ。

僕が初めて見たのは「ザ・本番2」だったかと思うが、これを映画と呼び、流していくことには非常に抵抗を感じた。

『折檻』シリーズは2月23日に第1作が公開され大ヒット、急遽6月29日に『ザ・折檻2』(写真)が公開で更なる大ヒット。そして10月26日に『ザ・折檻3 陶酔篇』が公開という異常な熱狂を巻き起こしました。)

「ロマンX」は隆盛を極めていくアダルトビデオ時代に一時的に咲いた仇花で、スクリーンで見ることができる点以外にアダルトビデオとの差異が無いことが明解になれば、客足は遠のくことは明らかだったし、ロマンポルノの終焉を迎えることを早めてしまった一因とも言える。

しかしながら「箱の中の女」を他の「ロマンX」と同じように考えてもらうと困る。

ビデオの持つ特性を駆使して通常のフィルム作品に無い過激さを加味しながらも、きちんと人間を描くことに成功した稀有な作品だからである。

フォーマットがフィルムであれ、ビデオであれ、登場人物がしっかりと描けていれば、映画と呼ぶことができるんだという意味で陽造さんは映画していると言われたのだろう。

(こちらも『折檻2』より。特に2が驚異的なビデオ売り上げなのです。現在サイトでは品切れの人気なのでお求めの方は、03−5689−1021までお電話をどうぞ
総集編的な『ザ・折檻 番外編』もあります。)

この作品の撮影は熾烈を極めた。(「木築沙絵子トーク」で木築さんと中田(当時助)監督が詳しく話しています。是非ご覧下さい。

撮影が始まると直ぐ、炎天下のハイエースの中でカラミのシーンをしていたため、主役の女優蔡令子さんが倒れた。その女優が失踪し、スタッフ皆で捜索活動。どうも米軍基地のボーイフレンドのところにいるという情報が入り、当時助監督の中田君は基地にでかけ、英語を駆使して、彼女との連絡を取る。
(写真左が蔡令子)

ようやく現れた彼女はもうこの映画から降板したいという。監督、プロデューサーの前でにっかつに対しての損害も補償するし、なんでもするから下ろしてくれと懇願。
そのとき、彼女を連れて半沢プロデューサーは別室に入った。しばらく経って部屋から出てきた彼女は作品に戻ることを決めていたという話を小沼監督から聞いた。
半沢さんがどうやって彼女を説得したのかは監督も知らないという。
スケジュールは公開までぎりぎりだ。

トラブルはこの後も続く。
誘拐された少女の役を演じた木築沙絵子さんにはさまざまな責めのシーンが待っていた。

水責めのシーンでスタッフが消防用のホースで彼女に水をぶっかけるのだが、責め方がてぬるいと監督自らホースを持って水をかける。
そのうち彼女は本当に失神してしまった。

別の作品の仕上げ期間で製作部の部屋にいたとき、「木築がまた倒れた!」というニュースが伝わってきたのを覚えている。
後半の方で、海岸に運ばれた彼女が、血を抜かれた上で箱の中に詰められ、首だけを箱から出しているショットがあるが、あの蒼白な顔は芝居やメークではなかったんじゃないかと舞台裏を知っているスタッフは語っていた。

いろんな意味で、限界に挑戦した作品なのです。やばい、です。ホント。

ハードな撮影の上、徹夜の連続、スタッフの疲労はピークに達していた。海岸での撮影が始まったとき、テストの声がかかってもカチンコが鳴らない。当時助監督の両沢くんの話では、そのときになって初めて現場に中田くんがいないことに気づいたらしい。どうやら昼飯で立ち寄った食堂に彼を置き去りにしてきたのではないかと車輌部とともに食堂に車を走らせた。「真夏の炎天下、真っ直ぐに続く一本道を祈るような気持ちで車から見ていると、はるか向こうから、米粒のようなものがこっちに向かって必死で走ってくる姿を見かけたよ。それがだんだん大きくなると中田の姿であることが分かってホッとした。まるで『アラビアのロレンス』の一コマのようだったなあ」と笑いながら話していた。

この作品のビハインド・ザ・ストーリーを見せるメーキングが無いのが非常に惜しまれるが、中田くんが監督した「サディスティック、マゾヒスティック」でも触れてあるから興味のあるかたは是非ご覧になって欲しい。

極限状況で作られた作品は鬼気迫るものがあった。
恐怖のドン底に追いやられた木築さんの迫真の演技。サディスティックに彼女を責める夫婦のおぞましい異常性。見ているこちらのはらわたが抉られそうで、思わず目を逸らしたくなるが、その逆で一層画面に引き込まれてしまう。人間を生理的に描いていくときの監督の作品は実に力がある。
釈放された少女をめぐってフィーバーするマスコミに対しての社会風刺もうまく効いており、そこで使われたオニャンコクラブの「セーラー服を脱がさないで」もはまっていた。後に話題になったこの曲を使った半沢さんの先見の明だ。売れた後だとまずこの作品には使用不可能だったろう。原作は無いが、実際に起きた事件をもとにして書かれたガイラ(小水一男)さんのパワフルなシナリオである。

先日、日本に帰ったとき、東横線の学芸大学前の喫茶店で田中陽造さんと偶然お会いした。他のシナリオライターと一緒に何度かお会いしてお話をしたことはあるが、ロマンポルノ時代を含めて、お仕事を一緒にできるチャンスは今のところ一度も無いが、あのときにおっしゃった「映画している」というお言葉は色んな意味をその中に含んでいるようで、企画部に移ったばかりの僕が最初にいただいたいつまでも頭に残るお言葉である。

(続く)


キワモノの中から衝撃的な名作が生まれる、爛熟期のロマンポルノ情勢の中、漫遊人はどんな作品を生み出していくのか。

それは漫遊人の人生が出来上がっていく轍でもあるのでしょう。

第2部もよろしくね。