一昨日行われたロック歌手忌野清志郎さんの葬儀には約四万二千人が詰め掛けた。献花の列は二キロ以上にわたったという。故人が時代に与えた影響の大きさを物語っている。
美空ひばりさんが「戦後」を体現するスターだったとすれば、一九五一年生まれの忌野さんは一世代あとの人々の代弁者だったのだろう。その歌には反骨と諧謔(かいぎゃく)、温かみとほろ苦さがある。
「パパの歌」という九〇年代の作品もあった。子どもの目に映る帰宅後や休日のパパは、家の中でごろごろしているが、昼間の働くパパは光ってかっこいいと歌う。
津山市出身の作家重松清さんの「娘に語るお父さんの歴史」の主人公は、六三(昭和三十八)年生まれのパパだ。娘の宿題がきっかけで、自分が育った時代の「幸せ」と「不幸せ」のリストをつくる。
国産初のテレビアニメ「鉄腕アトム」が始まり、五輪、万博を経て高度成長の道をひた走る日本には「幸せ」のありかが見えていた。その一方で「不幸せ」のリストには交通戦争や公害、薬害が並ぶ。
幸せだったのか。不幸せだったのか。重松さんは主人公にこう語らせている。「いまがたとえ不幸でも、未来には幸せが待ってると思えるなら、その時代は幸せなんだよ」「子どもは、未来なんだ」と。多くの働くパパたちの思いだ。