通常国会は大型連休明けから二〇〇九年度補正予算案についての実質審議が衆院予算委員会で行われているが、これまでの与野党の論議をみると低調と言わざるを得ない。過去最大となる十四兆六千九百八十七億円に上る追加経済対策。その政策効果、予算の執行体制などが十分なのか、野党はもっと踏み込んだ論戦で、与党をただすことが必要だ。
衆院予算委での審議で民主党は菅直人代表代行、前原誠司副代表といった論客を並べて麻生太郎首相らを追及した。菅氏は「補正予算案の中身はとても賢い支出とは言えないものがたくさんある」と指摘し、具体例として小学校入学前三年間の子どもに一年限りで年三万六千円を支給する子ども手当を取り上げた。中学卒業まで月二万六千円を支給する民主党案との違いを強調し、ばらまきと批判した。
これに対して、与謝野馨財務相は「民主党の言うような手当を創設すると何兆円もかかる」と財源論で反論した。しかし、限られた財源の使い方として、どちらがいいのか。定額給付金の時も議論になったが、一時的な給付金による経済効果がどれだけあるのか、もっと論議を深めるべきではないだろうか。
予算の支出先と合わせて、見過ごせないのが財源問題だ。財務省は〇九年度末の国の債務残高見込みを発表したが、九百二十四兆円と、初めて九百兆円を突破する見通しとなった。国の借金の大部分を占めるのは国債だ。〇九年度予算で補正を含め計四十四兆円の新規国債を発行することが借金急拡大の主な要因で、追加経済対策だけで十兆円超の国債残高が積み上がる。
追加経済対策で大幅な財政出動に踏み切った副作用が早くも顕在化することとなる。不況を克服できても、その後の財政再建策が大きな政策課題となるのは間違いないだろう。
今週は予算委に加え、十三日には麻生首相と小沢一郎民主党代表による今国会初の党首討論が開かれる予定だ。“政治とカネ”が焦点の一つだが、補正予算案の経済効果や財源問題、今後の財政見通しなどについても意見を戦わせてほしい。
一方、与党は同じ十三日に補正予算案と関連法案を衆院通過させる方向だが、民主党は採決の日程をめぐって反発しており、党首討論を開催できない可能性も残っているという。次期衆院選までに両党首が顔を合わせる最後の機会になるかもしれない。党首討論はぜひ実現してもらいたい。
米金融当局が、大手金融機関十九社の資産の健全性を調べるために実施した資産査定(ストレステスト)の結果を公表した。個別の金融機関の資産状況や必要な追加資本増強額について公表するのは異例で、金融危機の早期解決を目指すオバマ政権の強い姿勢の表れといえよう。
米経済は、このところ住宅市場や個人消費などが安定に向かう兆しが見え始めたものの、金融機関の資産内容に対する懸念は根強いものがある。「市場や金融機関はまだ相当な緊張状態」(バーナンキ連邦準備制度理事会議長)という。
ストレステストは今後二年間に予想以上に景気が悪化した場合の損失発生状況などを査定、資本不足額を試算した。資産内容の透明性を高めるとともに、損失に耐えられない金融機関の資本増強を促すのが狙いだ。
査定の結果、十社に対して計七百四十六億ドル(約七兆四千億円)の資本増強を求めた。六月八日までに資本増強計画を策定し、十一月九日までの実行を要請した。指摘された金融機関は相次いで増強策を発表しており、市場にはひとまず安心感が広がっているようだ。
ガイトナー財務長官は公的資金を投入する用意も表明しているが、民間からの資本調達が容易になれば、公的資金の投入額は抑えられそうだ。ただ、今回の資産査定について、資産評価の根拠が示されていないといった疑問の声も聞かれ、必ずしも楽観はできない。
日本では前回の金融危機で発足した金融監督庁(現金融庁)が大手銀行の集中検査を実施し、公的資金を注入したが、不良債権処理が進まず、金融不況が長引いた。米国も次の焦点は官民共同による不良資産買い取り策だ。金融不安の火種一掃へ全力を挙げる必要がある。
(2009年5月11日掲載)