特集 アーカイブスの役割と歴史

1.保存─貴重な映像資産を次世代に伝える

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法的に「公的記録保存所」として認められる

1971(昭和46)年、著作物の複製が容易になったことを受け、新しい著作権法が、著作権者の利益保護を目的に施行された。放送番組は、番組制作に関わる権利者の許諾がないと保存することが禁じられ、放送事業者は番組を放送後6か月以上保存できないとされた。

しかし「放送文化財ライブラリー」と「放送博物館」は、'71年にそれぞれ「公的な記録保存所」として文化庁から指定を受けたため、新著作権法では、権利者の許諾を取らなくても、保存目録を作成して毎年文化庁へ報告することで、放送番組の長期的な保存が可能になったのである。

こうして、放送事業者が番組を保存する法的な根拠ができるとともに、「放送文化財ライブラリー」と「放送博物館」は、「アーカイブス(記録・保管所を意味する)」としての位置づけが明確になったのである。

スタジオ番組の保存に結びついた放送文化財ライブラリー収集映像

「放送文化財ライブラリー」では、“人物”に関する文化財の記録を充実させるために、1977(昭和52)年から、3/4インチのビデオテープで放送番組を収録し保存することを始めた。著名人が出演している『女性手帳』(小倉遊亀、二代目中村鴈治郎ほか)『わたしの自叙伝』(丹羽文雄、横山泰三ほか)などの教養番組や、『スタジオ102』(衣笠貞之助、大岡昇平ほか)『NHKニュースワイド』(東山魁夷、丹下健三ほか)などのニュース・情報番組のゲストのスタジオ出演コーナーを収録した。

これらの映像は、もともと文化財の収集を目的にしていたが、結果的には、当時保存の対象とされていなかったスタジオ番組の保存につながった。

体系的・組織的な番組保存がスタートし、保存の一元化が実現する

NHKでは、1973(昭和48)年、東京・渋谷の放送センターへの移転を契機に、番組の制作から送出に至る業務をコンピューターで管理して自動運行を行う、「TOC(テクニカル・オペレーション・センター)システム」を導入した。このシステムでは、放送終了後に再放送予定のある「完プロ」VTRは、TOC(技術運用局所管)の「長期保存庫」で保存されることになった。しかし、この保存は一時的なものであり、永久的な保存を目的にしていなかった。それでもTOCの長期保存庫のVTR数は増し、1981(昭和56)年3月には約1万2千本もの「完プロ」VTRがTOCの長期保存庫に“滞留”していた。

一方で、1980年前後から、フィルムに代わってVTR制作番組が急増し、放送現場から、VTR制作の放送番組を保存してほしい、という要望が高まった。これらをうけて、放送番組の保存全般について議論するため、1981年3月、放送総局に「放送素材保存委員会」が設けられた。ここで、アンコール・再放送など番組編成上の要請、総集編などの新たな制作への備え、などを基準に保存番組を決めた。これに伴い、TOCで一時保存していた番組の「完プロ」VTRが、保存期間終了後、資料部に移管され、保存されることも決まった。テレビ放送開始から30年近くたって、ようやく体系的・組織的な番組保存がスタートしたのである。

そして、これまで、放送文化財ライブラリー、放送博物館やTOCなど、あちこちに分散して保存されていた放送番組のVTRやフィルムを、資料部で一元化して保存・管理するシステムが確立された。また、1984年には、「放送文化財ライブラリー」の資料部への移行に伴って、資料部(現・アーカイブス部)が、公的記録保存所の指定を受け、現在の「NHKアーカイブス」の基礎が出来上がった。

アーカイブス構想が始まり、実現化に向けて動き出す

90年代に入り、衛星放送のスタートもあって、放送番組の数が年々増えていったため、アーカイブスは、映像資料を保管するスペースの確保に苦慮していた。

時を同じくして、NHKは、埼玉県川口市のラジオ放送所の跡地を有効活用していくことを考える中で、映像保管庫の設置構想を進めていった。アーカイブス構想の始まりである。

1998(平成10)年、「映像アーカイブセンター」の「基本構想」が定まった。その基本方針は、デジタル時代に対応した映像資料を体系的に保存し、活用・公開する総合施設を目指したものであった。1999年には、「映像アーカイブセンター」の名称は、映像だけではなく、音声・写真・台本など、NHKの資産全般を保存する場所であるという意味から、「NHKアーカイブス」に決まった。

2001(平成13)年、「NHKアーカイブス」の「事業計画と運用体制」が定まった。「NHKアーカイブス」整備の目的とその役割として、公共放送であるNHKが制作した放送番組は、時代を記録した貴重な文化資産であり、次の時代へ確実に継承することが挙げられていた。

「NHKアーカイブス」の整備に向けて、アーカイブスの映像資料の現場で力を入れたのが、保存映像のデジタル化である。劣化が進んでいるアナログVTRやフィルムを、長期的な保存に耐えうるようにするため、デジタルテープにダビングする必要があった。

アナログVTRについては、1997(平成9)年度からデジタル化を始めた。1997年度に約10万6千本あったアナログ1インチVTRは、2007(平成19)年12月現在で、デジタル化するまで残すところあと約1万本になった。フィルムについては、放送現場での使用頻度が高く、内容的にも貴重な『新日本紀行』『現代の映像』『ある人生』などの番組を優先的にデジタル化し、主要なフィルム構成番組は、ほぼ作業を終えた。

「NHKアーカイブス」運用を開始

2003(平成15)年2月1日、「NHKアーカイブス」が運用を開始した。「NHKアーカイブス」は、テレビ放送開始から1970年代に至るまで、数々の番組を消去してきた反省を生かし、文化資産としての放送番組を大切に保存するため整備された。

「NHKアーカイブス」では、ニュースや番組制作の放送現場が保存番組を活用するとき、原則として貴重なオリジナルテープを貸し出さない。映像や音声が劣化しない最新のデジタル技術を使ったシステムにより、川口と渋谷の間でIP回線(大容量専用光回線)を通じてコピーを行い、コピーしたテープを貸し出す運用を行っている。また、フィルムやVTRの保存環境にも配慮している。フィルム保管庫は温度15℃・湿度50%、VTR保管庫は温度25℃・湿度50%と、温度と湿度を一定に保つことで、貴重な資産を守っているのである。

2007(平成19)年3月現在、「NHKアーカイブス」には、保存されている番組は61万2000番組、ニュースは397万7000項目に達している。

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