国内で初の新型インフルエンザ感染者が確認された。カナダに短期留学し、米デトロイト経由で成田空港に到着した大阪府在住の男子高校生二人と男性教諭の計三人で、隔離された感染症病棟に収容されたが容体は落ち着いているとされる。一刻も早い回復を祈りたい。
三人は発熱やせきなどの症状があり、感染が疑われたことから感染症指定医療機関である千葉県成田市の成田赤十字病院に搬送、隔離された。国立感染症研究所の検査によって感染が確定した。医療関係者は万全の態勢で治療に専念してほしい。
政府は、今回のケースについて「入国前の検疫段階でくい止めた」と水際対策が奏功したとしている。飛行機には乗客乗員計約四百十人が搭乗しており、厚生労働省は感染が確認された三人の近くに座っていた人ら四十九人を検疫法に基づいて空港周辺の宿泊施設に十日間、一時待機させ、感染の有無を確認する。それ以外の同乗者も保健所を通じて健康観察を続ける。
今後も検疫・入国審査の厳格な実施など、水際対策の強化が欠かせない。だが、水際で完全に防ぐことは不可能とされ、国内の感染が広がらないよう全力での防止措置が大切だ。
世界保健機関(WHO)が四月二十八日(日本時間)に世界的な大流行を起こす危険がある新型インフルエンザ発生を認定して十日以上になる。メキシコや米国をはじめ、アジア、欧州などで感染者が増える一方、感染の仕組みや症状が分かってきた。患者のせきやくしゃみのしぶきに含まれるウイルスを吸い込む「飛沫(ひまつ)感染」が主とみられるなど、通常のインフルエンザとの共通点が多い。
ウイルスの感染力は強いものの、重症患者は少ないとされる。高熱、せき、のどの痛み、筋肉痛など典型的なインフルエンザの症状が報告されている。ただ、通常のインフルエンザには珍しい下痢の症状が約半数の患者にみられる。
新型インフルエンザ用のワクチンはまだないものの、抗インフルエンザ薬であるタミフルとリレンザを症状が出て早期に投与すれば有効とされている。怖がりすぎず、冷静な対応を心掛けたい。予防策はマスクをはじめ、うがいや手洗いが基本となろう。
各国の研究が進み、新しい知見が得られるようになった。政府や自治体は正しい情報を迅速、的確に伝えることが肝心だ。国内の取り組みを強めてパニックを防ごう。
栃木県の保育園女児が誘拐、殺害された足利事件の再審請求で、東京高裁は殺人罪などで無期懲役が確定した受刑者と、被害者の女児の着衣に付着していた体液のDNA型が一致しなかったとの再鑑定結果を弁護団、検察側双方に伝えた。
確定判決が有力な証拠とした「捜査段階の鑑定によるDNA型一致」を覆す結果である。女児を殺害した犯人は別人である可能性が強まり、再審開始の公算は大きくなったといえよう。
見逃せないのは、検察側推薦の鑑定人が、事件当時のDNA鑑定について、捜査や裁判に適用する科学技術として確立していなかったという指摘である。
現在のDNA鑑定では、同じ型を持つ人の出現確率は「四兆七千億人に一人」の精度で、信頼性は極めて高い。しかし、足利事件でDNA鑑定が実施された一九九一年当時は捜査に導入されて三年目にすぎなかった。翌年から全国の警察でも採用が始まったが、精度は血液型と組み合わせても「千人に一・二人」の低さだったという。
ところが、物証の乏しかった足利事件の裁判では、捜査段階の自白やDNA鑑定の信用性が争点となった。一、二審に続き最高裁は二〇〇〇年、DNA鑑定の証拠能力を初めて認定、上告を棄却し、判決が確定した。裁判所が鑑定の証拠能力について入念に審理しておけば、別の結論があったかもしれない。
ハイテク技術の導入で時効寸前の事件が解決に向かうなど、科学捜査の進歩は目覚ましいものがある。今月から始まる裁判員裁判でも科学鑑定の活用が期待されている。しかし、精度の低い鑑定に基づいて無理やり自供を迫るなど、冤罪(えんざい)を生んでは元も子もない。取り調べ状況を録音・録画する捜査の「可視化」も必要となろう。
(2009年5月10日掲載)