現在自らが監督した映画『罪とか罰とか』が公開中のケラリーノ・サンドロヴィッチが主宰を務めるナイロン100℃の新作『神様とその他の変種』が4月17日から上演される。劇団の看板役者の一人である大倉孝二に話を聞いた。
映画『ピンポン』や大河ドラマの『新選組!』、『CHANGE』など、映像でも多くの作品に出演しているから、芝居に興味のない人でも大倉のことを知っている人は多いだろう。演劇界を見回してもその個性は突出しており、年々存在感に磨きがかかっている。昨年、ダブルキャストの2本立てで上演された『シャープさんフラットさん』では、大倉は三宅弘城と役をチェンジする形で両方に出演。2つの役で50ステージに上がるという過酷な1カ月だった。
「本当にきつかったですね。本番も稽古も人の倍やらなければいけなかったんで、無茶苦茶なスケジュールでした」
この過酷な負荷のかけ方はそのまま大倉と三宅に対するKERAの期待の表れかと思ったのだが…。
「KERAさん曰く、前回公演でなぜ僕と三宅さんが主役だったかというと、順番だって言い切ってました(笑)」
今年の年明けにはNODA・MAPの『パイパー』にも出演した。
「シャープさんが50ステージで、パイパーが64ステージ。そして今回は40ステージくらい。1年満たないくらいで150ステージ以上やることになったんです。やっちゃだめです、こんなの(笑)」
今回の作品はKERAによると「台詞もいつもの口語体から少しばかり離れた文体で書いてみている」というように、新しい挑戦を試みている作品のようだ。
「言い回しとかかなり独特なものになってます。だいたい同じ内容のこと言っているということでは許してくれなくて、語尾とか台詞の言い回しを一字一句間違わないで言ってくれって訂正されますね。KERAさんの中では珍しいことかもしれないですね。言い回しと言うことにこだわりをもって、今回はやっているんだなって思います」
今回の役柄は?
「動物園の飼育係です。今、脚本が少しずつ出来上がってきて、ちょっとずつ進んでいるんですが、この人のパーソナルが現れる出来事がまだ起こっていないので、今後この飼育係がどんな展開になっていくのかさっぱり分からないです(笑)。他の人たちが、いろいろと何かが起こっている雰囲気をじわじわと醸し出しているなかで、僕だけ全くサスペンスフルな中にいない。KERAさんのことだから最終的に本筋にかかわってはくるとは思うんですが」
観客が劇場でドキドキワクワクする感覚を役者は稽古場で体験している。次はいったい何をやることになるんだろうか…とか。
「ありますね。やっぱり難しい役振られたらどうしようとか普通に毎回思いますね。他の公演だったら稽古初日で台本もらうことも多いじゃないですか。引き受ける段階で読んでいたりすることもあるんですけど、ナイロンの場合は行ってみて、しかも何日もたってみないと分からない。だからいつもドキドキしてますよ」
役者として目指すところを聞いてみた。大倉はどう言われるとうれしい?
「やっぱり面白いと言われるのが一番うれしいですね。カッコ良かったとか言われるより、面白かったと言われるのが一番うれしいですかね。何がしたくてナイロンに入ったかというと、面白いことがしたくて入ったんで。今ではお芝居の質も変わってますけど、昔はホントに笑わせるための芝居を作っていたんで、だからできることなら、そういうくだらない笑いだけをやる芝居をやりつづけて食えるのなら、それが一番僕はありがたい。難しい役とかシリアスな役をやることもあるじゃないですか。そんなときふと、“オレ、ガラじゃないことやってるな”って思うんです」
大倉の話の中からは随所にKERAに対する信頼感とかリスペクトの思いが見え隠れする。
「見ている人の立場に全く立ってない発言かもしれないんですけど、ナイロンはKERAさんがやりたいことをやるのが一番いいと思うんです。KERAさんは不思議と自分の中でこれは評判がよかったっていう作風があっても割とすぐ変えちゃったりする。だから見ている人はあれがもう一回見たいとか思ったりするかもしれないけど、あまりやりたがらない。でも僕はそれが凄くいいなと思ってる。今回もまた違うことをやろうとしているので、前の作品が好きで見に来てくれる人には気に入らないものになるかもしれないけど、僕らは凄く楽しいんですね。僕も飽きっぽいんで、“また同じことか”って思うより、難しくても、“あー、またなんか今回違うことをやり始めたぞ”ってワクワクする。僕自身は勝手にナイロンの存在意義はそこだと思っているんです。変化し続けるという部分が僕自身がナイロンを好きな部分なんですね」
(本紙・本吉英人)
【日時】4月17日(金)〜5月17日(日)(開演は月火水金19時、土13時/18時、日13時。※18日(土)は19時、29・4・6日は13時/18時、5日は13時開演。木曜は休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前より発売)【会場】本多劇場(下北沢)【料金】全席指定 6800円【問い合わせ】キューブ(TEL 03-5485-8886=平日12〜18時 〔HP〕http://breakerz-web.net/)【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ【出演】犬山イヌコ、みのすけ、峯村リエ、大倉孝二、廣川三憲、長田奈麻、藤田秀世、植木夏十/水野美紀、山内圭哉、山崎一