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イオンでは5年で売り上げ2倍!メーカー号泣!「PB商品」という怪物の正体

プレジデント3月25日(水) 19時25分配信 / 経済 - 経済総合
図1〜図3
■1カ月分の醤油が3日で売り切れる

 原油・原材料価格の上昇、株安・円高・ドル安と世界規模で経済構造が変動している。景気は減速する一方、物価は上昇を続けるスタグフレーションに、消費者の危機意識は高まり、生活防衛を強める中、割安感が目立つプライベートブランド(PB)商品への支持が俄に集まっている。

 PB商品とは、小売業者が独自に企画・開発した商品であり、メーカーに製造を依頼し、小売業者が自主ブランドを冠して販売責任を負う商品だ。現在、イオンでは「トップバリュ」、セブン&アイ・ホールディングスでは「セブンプレミアム」、西友では親会社のウォルマートのPB「グレートバリュー」といったブランドを展開する(図2)。

 同じカテゴリーのナショナルブランド (メーカーがつくって全国規模〈=ナショナル〉で販売している商品のこと。以下、NB)商品より、総じて1〜4割程度安いのが最大の特徴である。

 2007年末からパン、カップ麺をはじめとした食品について、大手メーカーが一斉に値上げを発表するなか、イオンが07年11月30日、自社PB「トップバリュ」24品目の値を下げたところ、軒並み飛ぶような売れ行きを見せた。なかでも醤油は1カ月分の在庫を3日で売り切った。インスタントコーヒーに至っては直前の11月26日に国内で6割以上という圧倒的なシェアを持つネスレが値上げを発表したこともあり、18カ月分の在庫が1週間でなくなったという。

 08年2月期、「トップバリュ」の売り上げは2647億円。07年5月には、PB開発専門会社としてイオントップバリュ株式会社を立ち上げた。イオンは3年後の11年2月期までに、小売事業(連結)に占めるトップバリュの売り上げを20%、7500億円に伸ばす計画だ。

 全国に3218店の加盟店舗を持ち、グループの年商は3兆7100億円に上る最大手ボランタリーチェーン、シジシージャパン(以下、CGC)でもPBカップ麺の売り上げは前年比6倍増。

 CGCとは、1973年、オイルショックの混乱のなか「お客様に良い商品をより安く、安定的に提供できるパワーを持つためには、全国規模でまとまることが必要」という考えに基づき、各地の中堅・中小スーパーマーケットが結集して生まれた組織だ。独自商品を企画・開発し、加盟店企業に商品を提供するいわば“PB専業会社”である。PB需要に呼応し、小売り各社はPB商品の拡大を急ピッチで進めている。

 図3は、トップメーカーのカップ麺(NB)と、大手小売りのカップ麺(PB)の価格構造を比べたものだ。
 まずは納入価格をご覧いただきたい。NBが120円なのに対し、PBは55円と半値以下。この価格差は、図にあるとおり、リベート(メーカーが仲介料として卸売業者に支払う費用)、拡販費(値引き)、広告宣伝費によるものだ。

 最大で2倍ほどのNBとの価格差もさることながら、宣伝費をかけずとも飛ぶように売れるのはなぜか。それは店頭を見れば一目瞭然だ。PBはターゲットNBとの価格差がわかるよう、NBの隣に並べるだけでよい。いわばNBの商品力、宣伝力をうまく拝借した商品なのである。

 原価に注目すると、NBの原価は48円、PBは44.55円と、原価も3.45円程度PBのほうがわずかに低い。一般的に、NBカップ麺の原価率は約40%といわれる。対してこのPBの原価率は81%となっている。売価が半額以下だからといって、激安の原料を使っているというわけではないようだ。

 流通事情に詳しいプリモリサーチ・ジャパン代表の鈴木孝之氏は、その仕組みを次のように説明する。
「大量生産、買い切りを交換条件に、小売りがメーカーと直接交渉し、PBの仕入れ原価を大幅に引き下げています」

 ロットが多いほど、仕入れコストは下がる。裏を返せば、条件となる最低ロットをクリアできないと、PBをつくることはできない。
 PB開発では、調達の構造、素材、代替素材、商品仕様、資材、鋼材、製造委託先、生産法、生産工程、物流の各段階において、徹底してコストを見直す。

「製造工場は9割方海外。人件費、不動産を中心にコストが圧縮されており、いまではPBのほとんどが中国や東南アジアで生産されている」(鈴木氏)
 輸送コストひとつ取っても、海外で生産するメリットは大きい。商品を国内トラックで動かすより、コンテナ単位で、船で輸送するほうが断然安いのだ。たとえば、ある商品を運ぶ際、大阪から東京へトラックで運ぶ輸送費よりも、シンガポールから大阪へ持ってくる船賃のほうが安いという。こうした仕組みによって、低価格を実現している。

■工場を持たないが売り場を持つ“メーカー”

「私どもが、メーカーです」
 イオントップバリュの朝永哲社長は、今年4月、名古屋で開かれたトップバリュ商品説明会でそう言い切った。

「我々は工場を持たないかわりに、売り場を持っています。そこにはお客様の声がある。年間37万件強の声がダイレクトに届きます。これが、他のメーカーとの決定的な違いです」とイオントップバリュ商品本部長で、トップバリュの商品開発責任者を長く務めてきた堀井健治氏が言葉を継ぐ。

「以前は当社も麺工場を持っていたことがあります。しかし工場を持つと、生産稼働率を高めるために、つくり手主導でモノをつくらざるをえない。それでは顧客第一主義を貫けない」
 工場を持たないことで、本当の意味で顧客の立場に立てるのだ。
「『トップバリュ』の役割は、お客様がいま不安、あるいは不満に思っていることについて、イオングループがどう考えているのかを商品を通じてお客様にお伝えすることです。NBとPBを単純に比較するのではなく、使う人の声をきちんと聞き取った、つくり手の思いが伝わる商品ならお客様に支持され、長く愛されていくのだと思います」(堀井氏)

 顧客の声に耳を傾けて生まれたイオンのPBは、メーンフレームの「トップバリュ」、プレミアム感を高めた「セレクト」、徹底したトレードオフで低価格を実現する「ベストプライス」の3階層に加え、サブブランドとして地球環境に配慮した「共環宣言」、健康に配慮した「ヘルシーアイ」、簡単調理で家庭の味を楽しめる「レディーミール」、農薬や合成添加物などの使用を抑えた「グリーンアイ」と、現在七ブランド。それぞれに置かれたブランドマネジャーはいずれも20?30代女性。消費者に近い視点で、さらなる商品開発を進めていく。

「将来は『トップバリュ』を、ライフスタイルを表現するブランドにまで育てたい」と堀井氏。たとえば「トップバリュ」のコーヒーはすべてフェアトレードのものにしたいと考えている。
「『トップバリュ』を買えば森を守れる。CO2の削減に貢献できる。近い将来必ず、そういったことがお客様の購入動機になってくると思います。ブランドを通して消費者の意思を表明できる、『消費者代弁機能』としての役割が、今後PBには増えてくるはずです」(堀井氏)

 小売りにとって、PBは原価率が低く、利益率が高いうえ、顧客にも支持される、消費低迷のなかのいわば救世主だ。

■メーカー側がPB企画を持ち込む

 かつてのPBには「安いけれどまずい、質が悪い」というイメージがつきまとっていた。筆者も以前、ある小売りチェーンが出しているPBのコーラを飲み、その奇天烈な味にたじろいだ経験がある。しかし今回、いくつかのPB商品を実際に口にしてみたが、その多くは、私見ながらNBと互角に渡り合えるほどの出来ばえだった。消費者の節約志向に応えたPBは、クオリティにおいてもNBの存続を脅かす存在へと育っている。大手食品メーカーの営業担当者は漏らす。

「我々にとっては、当然NBのほうが利益率は高いですよ。ただ、儲からないPBでも手がければ、その小売りとの“会話”が増えてパイプが太くなる。だから無視できないんです」
 図3のように、メーカーの利益はNBの22.8円からPBではわずか3.85円と大幅に圧縮されている。

「これはまだいいほうで、販売価格178円の袋麺(5食入り)で利益が1〜2円程度というものもある。小麦価格が上がっても据え置きの場合、原料値上げ分をメーカーが負担していることも」とメーカー関係者は話す。

 それでもメーカーには、PBの生産を受注するメリットがある。それは、NBの5倍、10倍という大量注文を受けることで売り上げを確実に増やせること。大量生産により、生産ラインを効率的に動かせ、工場の運営コストも下げられる。小麦、大豆などの高騰による値上げで消費者が離れ、売り上げを落としたNBは多い。その穴埋めをPBで行っているメーカーも少なくないといわれる。

「イオンが売り上げの2割を『トップバリュ』商品にすると宣言したことで、危機感を強めたメーカーは多い」と、群馬県前橋市に本社を置き、北関東を中心にGMS、ホームセンターなどを展開するベイシアの食品本部長神戸達也氏は言う。
「ジャスコ単体でも売り上げ2兆円です。うち2割の4000億円が『トップバリュ』になると言われたら、メーカーさんは手を出さないわけにはいかない。『うちはやりません』などと言ったら、おそらく(自社製品が)売り場から消されてしまう」(神戸氏)

 メーカーにとっては、値上げを了承してもらい、自社のNBを置いてもらうのがいちばんよい。しかし、取引先である小売りの機嫌を損ねて、棚から外されることをメーカーは最も恐れている。実際、「NBのままだと値上げせざるをえないが、PBにしてもらえれば何とか価格を据え置きできる」と、自らPBの共同開発を持ちかけてくるメーカーもいると神戸氏は話す。

「メーカーさんから、『値上げさせてください』と言われても、うちは『ダメだ』と突っぱねる。小売りで、メーカーの値上げ交渉に素直に応じるところなんてどこもありません。『値上げするならもう商品を置かない』とはっきり言う小売りもいます。『棚から追い出されず、値段据え置きですむ方法はないか』というのは、いま多くのメーカーが抱える課題でしょう。その苦肉の策として、メーカー側から商品のPB企画を持ち込まれるケースが増えているのです」(神戸氏)

 流通の歴史のなかで、価格決定権は常にメーカーにあった。ところがいま、それは小売りの手に移りつつある。圧倒的な販売数量を武器に、NB商品をPB商品へと形態を変えさせ、値段を据え置かせるまでの力を大手小売りは持ちはじめている。

■この値段なら買う!という“絶対的”な安さ

「当社のPBには、ターゲットにしているNBより、3割から5割安い売価を設定しています」(神戸氏)
 実際、ベイシア西部モール店(群馬県伊勢崎市)に足を運ぶと、目を疑うような破格な値段のPB商品が店頭に並べられていた。豆腐1丁35円、納豆3パック60円、缶コーヒー1本29円……。特売ではなく、毎日この価格なのだ。

 現在、93店あるベイシアの店舗は、その立地を活かし一店舗あたりの売場面積1万平方メートルという巨大規模。1日の来客数は平日6000人、週末には1万人を超え、商品を大量に売りさばく。PB価格の設定においても、ベイシアはメーカーに対し強気の姿勢を見せる。

「PB開発は、まず売価設定ありきです。『安さ』には、相対的な安さと、絶対的な安さがあると思っています。隣の店と比べたら安いね、というのでなく、誰が見ても安いと思える価格、『この値段だったら絶対買いたい』とお客さんが思う“絶対的”に安い価格を最初に考え、『この値段で売れる商品をつくってくれ』とメーカーに言う。価格に見合う原価、品質、そして味を、後から決めていくのです」(神戸氏)

 PB開発において、小売りが組む相手はトップメーカーではなく2、3番手のメーカーである場合が多い。トップメーカーは、基本的には自社NBと競合するようなPBをつくりたがらないからだ。

 2番手、3番手であれば、彼らと組むことによって棚の面積を増やし、トップシェアに立てる可能性もある。実際、CGCがニッスイと組んで開発したPB「おさかなソーセージ」を07年8月、「今月の一品」として宣伝したところ、消費者の健康志向にマッチし、爆発的にヒット。ニッスイの工場を半月以上貸し切っても生産が追いつかないほどだったという。その結果、同年9月ニッスイはそれまでトップだったマルハを抜き、魚肉ソーセージカテゴリーのメーカーシェアで、全国ナンバーワンとなった。

 しかしトップメーカーがPBを受注するという、以前では考えられなかった事態も起きている。トップメーカーにとっても、PBのロットは無視できない大きさなのだ。CGCでは日清食品が製造するPBカップ麺が、平均98円(注:CGCのようなボランタリーチェーンでは、価格決定権は各加盟店企業にある)で販売されている。日清食品関係者によれば、08年1月に17年ぶりに行われたカップヌードルの値上げは予想以上に客離れを起こしているという。工場の稼働率が下がれば、コストはさらに上がる。やむをえずPBを受注して減産分を補っているのだ。

「『期間限定』『限定個数』『カップヌードルとは異なる味』等を条件にPB生産を引き受けた」(日清食品関係者)

 日清食品からすれば、PBとカップヌードルが客を取り合うような事態は、なんとしても回避したいところだろう。

■なぜトップバリュには製造業者名がないのか

 小売り各社が新たにPBをつくりはじめるとき、ブランドが世間に定着するまでは、メーカーのNBブランドとPBブランドを併記する「ダブルチョップ」方式がとられることが多い。NBのブランド力を借りて、商品の信頼性を消費者にアピールするという狙いによるものだ。

 08年4月、愛知県に本社を置くユニーグループが発売したPB「UUCS」もこの形態をとっており、基本的にはNBと同じパッケージを使用している。一例を挙げれば「スコッティ」とのダブルチョップ、カシミアティッシュがある。見た目はNBと何ら変わりはなく、ロゴも「SCOTTIE」と入っているが、よく見ると、「UUCS」のロゴが添えられているという具合だ。
 ブランド力がつき、自社PBの名前で独り立ちできるようになると、NBのロゴをはずしオリジナルパッケージを使用するようになる。ちなみにPBはいずれも簡素なパッケージ。ここでもコスト削減を追求している。

 この段階のものでも、製造者名の欄にメーカー名が記載されているものが多い。セブン&アイのPB「セブンプレミアム」も同様だ。「セブンのものなら何でもおいしいはず」というのはプレジデントの若手男性編集者だが、このような“セブンファン”も多く、味に対する信頼度はPBブランドのなかでも高い。セブン&アイのブランド力で消費者を集めつつ、商品に関する問い合わせ等においては、商品知識や経験の豊富なメーカーのノウハウとサポート体制を活用している。

 一方、どこにもメーカー名の表示されていないPBがある。イオンの「トップバリュ」だ。販売者は「イオン株式会社」、問い合わせも「トップバリュお客さまサービス係」の連絡先住所とフリーダイヤルの電話番号が記されているのみだ。
「『メーカー表示があるものは、誰がつくっているかわかるので安心だ』という声も消費者から聞かれます。確かにメーカー名を書いたほうが、最初は売りやすいかもしれません。しかし、小売り名とメーカー名が併記されていることによって、製造責任も販売責任も中途半端になる危険性がある」と堀井氏は言う。

「過日に起きた中国・天洋食品の餃子事件では、JT、CO―OPという一流企業が揃って説明責任を果たすことができませんでしたね。おそらく、工場検査も商品検査も、天洋に任せていたのだと思います。食の安全を脅かす事件が引きも切らないいま、お客様はこれまで以上に品質や安全・安心について厳しい目を向けています。自社の名で商品を売るということは、商品の全責任は自社でとるということ。そのための管理体制を自社のコストで行うのは当たり前です。そうでなければ自社ブランドとはいえない」(堀井氏)

 しかしメーカー名を記さずに、どうやって安心・安全を担保していくのか。
「当社では『トップバリュ』をつくっていただく際、必ず該当工場の検査、安全診断を実施しています。そこでは、『日本でつくっているから安心』『大手がつくっているから安全』とはいえない結果も複数出ています。メーカーさんの商品を仕入れているだけでは結局、自分のところのお客様は守れない。メーカー名が書かれているから安心だと思うのは、正しい考えではないのです」(同)

 イオンでは、08年8月末までに一次原料を、今年度中には二次原料までを含めてすべてを公開する予定だ。労働環境、労働基準、地球環境にまで踏み込んで、生産者としての責任を果たすという意思表示である。

■イオンかCGCに入らないと残れない

 トップバリュ同様に、CGCもほとんどすべてのPB商品で、販売者に自社名のみを記載している。商品本部本部長の白井暁専務はいう。
「当社では、青果も食肉も水産といった素材系もすべて『CGC』のPB商品という認識。生産地からお客様に届くまでをトータルインテグレーションし、商品において我々が全面的に責任をとるというのは、PB開発の基本姿勢です」

 CGCの安全への取り組みを、卵を例に見てみよう。
「安全な卵をつくるために、メーカーさんと組んで雛からパックに詰めるまで一貫管理しています。我々の卵は、いつ産んだ卵なのか、1個ずつすべてトレースバックできます。1つの施設は100万羽単位。100万羽というと10個パックで1カ月に200万パックです。その全量をわれわれが買い取るという契約があって、はじめてコストをクリアし、ここまで徹底した管理ができる。安全を追求するためにも、規模が必要なのです。5年ほど前からこの取り組みを行っていますが、ここまで安全にこだわって卵をつくっているところは、国内ではほかにないと思います」(白井氏)

 こうして、サルモネラフリーの、安全安心な卵を食卓へ提供しているのだ。しかしこのようなことは、原材料の調達先、製造工程など、製造に関わるすべての情報を得なければ実現できない。メーカーにとっては、手の内をすべて小売りにさらすことになる。このような取り組みは、長期的な信頼関係がなければ成功しないものだろう。
「どちらか一方が得をするような関係は、そんなに長くは続かない。メーカーの利益を圧迫するような、無理な価格設定はうちはしません」(同)

 イオンやCGCは、もはや「小売り」の枠を超えている。
「PBとは、すなわちモノづくりです。小売業にとって最大の課題は営業利益率の改善であり、コストを下げ、粗利率を上げること。そのためには独自のPBを開発し、川上にのぼらなければならない。規模の拡大は前提条件です」(鈴木氏)

 そのためのインフラ整備にいち早く取り組んだのがイオンだ。この10年でIT・物流システムに約700億円を投じ、自社の店舗展開に合わせた仕組みを整えた。全国に配置した基幹物流センターと、クロスドックセンター(通過型物流センター)からなる物流体制も整備された。
「商品を受け入れ、備蓄する自前の物流システムと、製造の状況、在庫をリアルタイムで把握できる情報システム、その2つのインフラを整えて、はじめてコストを構造的に下げることができる」(同)

 大規模商業施設を全国に展開しているイオンは、資本業務提携を繰り返し、現在、グループ全体で平日400万人、週末には1000万人もの客が来店する。ダイエーやマルエツ、系列ドラッグストアでのPB販売も始まった。今後も提携店を増やし、マスのメリットの追求に努める。ロットをまとめられるので、イオンではNBより原価率が平均10%低い。

 CGCも同様だ。この1年で、他のボランタリーチェーンに加盟するスーパーで、CGCへと鞍替えするという企業が増えている。そのなかのひとつが遠鉄ストア(静岡県)である。08年3月より、それまで加盟していた八社会(関東大手私鉄系スーパーマーケットが共同で設立した、PBの企画・開発を手がける会社)を脱退し、CGCに参入したが、その理由は、八社会よりCGCのほうが仕入れ規模が大きく、「Vマーク」(八社会のPB)より「CGC」PBのほうが、店頭価格が平均して1割ほど安くなるからだ。このように大きな組織には規模のメリットがあるため、ますます提携・参加企業が増えていくという好循環だ。

「このままいくと、イオンまたはCGCに参入しなければ小売りは生き残れないという事態が起きないとは言いきれない」と鈴木氏。PBをきっかけに、業界の再編淘汰は加速がついたようだ。

■流通支配権を奪い返す

 カップ麺や飲料など加工食品から始まり、いまや衣料品、自転車など生活のあらゆる分野へと拡大してきたPB。
 この5月27日には、イオンが三洋電機と共同開発したドライヤー、アイロンなど六種の家電が新たに発売される。ウォルマートなどアメリカの大手小売りではPBが売り上げに占める割合が20%、イギリスでは同じく40%にも達しているという。また、欧米の小売店では、PBのほかにはNBが1〜2種類しか置かれていないことも珍しくはない。

 日本においても、商品を選択する自由度が、今後は大幅に狭まる可能性があるかもしれない。しかし、消費者に主体性を持って選択する場を提供するのも小売りの役割だ。

 イオン、セブン&アイ、西友といったGMSがここ2、3年でPBを拡大するという方針を明らかにした。これからPB構成比が高まると、ベスト3から削ぎ落とされたメーカーは、PBをつくるほうに回らざるをえない。さらには、メーカー同士のM&Aも活発になっていくだろう。あくまで仮定の話だが、イオンのような大手小売りの傘下に入るメーカーも出てくるかもしれない。

 かつて、日本の流通には「PB大魔王」を自称する男がいた。ダイエーの創業者、故・中内功氏だ。
「流通革命とは、主権者としてのメーカー・生産者に代わり、消費者が主権を持つこと」「チェーンストアは、工場を持たないメーカー」「現在の流通部門を支配する者は生産者であるが、現状に飽き足らず革新を目指す流通業者は、生産者をその権力の座からひきずりおとし、流通支配権を流通業者の手に奪い返すことを目指している」と、自著に記している。

 64年、東京オリンピックの年にダイエーは松下電器とテレビの価格決定権をめぐって激しい戦いを繰り広げた。そのさまは“30年戦争”と称され、国内の流通構造を揺るがすものとして注目を集めた。単にメーカーがつくったものを仕入れ、販売するだけでは、価格を大幅に下げることはできない。それなら自分たちの手で「圧倒的な安さ」を前面に打ち出したPB商品をつくるしかないと、70年、13型カラーテレビ「BUBU」を5万9800円で発売。同等のメーカー品は10万円を超えていた。そして78年、中内氏はジュース、醤油などのカテゴリーで「セービング」の前身となるノーブランドPBを発売した。

 それから30年、「価値をつくりだすのは消費者だ」と言い続けた中内氏の志を継ぐ者たちが、自社のPBを武器に、新たなる流通革命を引き起こそうとしている。
(※)価格は、都内店頭にて調査したものです。

ノンフィクションライター 野崎稚恵=文

(PRESIDENT 2008.6.16)

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  • 最終更新:3月25日(水) 19時25分
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