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ベネズエラ馬脳炎・東部馬脳炎・西部馬脳炎について

流行は?

 三つの馬脳炎、ベネズエラ馬脳炎(Venezuelan equine encephalitis : VEE )・東部馬脳炎(eastern equine encephalitis : EEE )・西部馬脳炎(western equine encephalitis : WEE )を起こすウイルスは、それぞれ、ベネズエラ馬脳炎ウイルス・東部馬脳炎ウイルス・西部馬脳炎ウイルスと呼ばれます。いずれもトガウイルス科のアルファウイルス属に属します。通常、これらの馬脳炎は、蚊によって媒介されます。しかしながら、ベネズエラ馬脳炎ウイルス・東部馬脳炎ウイルス・西部馬脳炎ウイルスを噴霧によってエアロゾル化したものも、たいへん感染力があり10-100個のウイルスの吸入で感染することが知られていて、テロリストたちによってこれらのウイルスが生物兵器として使用されることが危惧されています。これらのウイルスは、安価で手のかからない過程で大量の培養が可能ですし、貯蔵や操作の過程でも比較的安定なのです。また、現在入手できる株は、病原性において生物兵器として十分に強力であると考えられています。

 ベネズエラ馬脳炎ウイルスは、南アメリカの北部及びトリニダードで特有の脳炎を起こすこともあるウイルスとして知られ、また中央アメリカやメキシコ・フロリダでまれに脳炎を起こすこともあります。ヒトやウマ・ラバ・ロバなどが感染すると重症となることがあります。ウマ・ラバ・ロバなどがベネズエラ馬脳炎になると致死率が30-90%に達することもあります。ベネズエラ馬脳炎ウイルスは多種の蚊によって媒介されます。ヒトやウマ・ラバ・ロバなどが体内でウイルスを増殖させ、蚊への病原体ウイルスの供給源となります。

 1969-1971年にはベネズエラ馬脳炎の「病原性が高い株」による大きな流行がありました。グアテマラから始まりメキシコを進み1971年6月にテキサスに到達しました。この株は、ウマの仲間にもヒトにも病原性の高いものでした。メキシコでは、数万頭の馬が患馬となり8000-10000頭が死にました。また、メキシコでは、17000人の患者が発生しましたが死者は0人でした。テキサスでは、10000頭以上のウマが死亡しました。アメリカ合衆国では、流行がテキサスの国境を越えたことで、緊急事態が宣言され、20州でウマの予防接種が行われました。全部のウマとロバの95%が予防接種を受けました。ウマの検疫を強化し、蚊を殺すために広範囲に殺虫剤が使用されました。1995年にも、大きな流行がベネズエラとコロンビアで起こり、75000人以上の患者が発生し、20人以上が死亡しました。

 東部馬脳炎ウイルス・西部馬脳炎ウイルスよりもベネズエラ馬脳炎ウイルスの方がよくわかっています。これは、1950年代及び1960年代にアメリカ合衆国ではベネズエラ馬脳炎ウイルスが>生物兵器として研究されていた経緯があることにもよります。他の国々もこのベネズエラ馬脳炎ウイルスを生物兵器とした可能性があります。アメリカ合衆国では、ニクソン大統領の1969年11月の生物兵器の貯蔵の破壊の指令により、ベネズエラ馬脳炎ウイルスの貯蔵は破壊されました。

どんな病気?

 ベネズエラ馬脳炎の潜伏期は1-6日です。ベネズエラ馬脳炎ウイルスに感染した人は、100%近くが発病すると考えられています。全身の発熱が急に出現します。15歳未満のこどもでは4%で、大人では1%未満で脳炎を起こします。脳炎を起こした場合には、こどもの致死率35%大人の致死率10%です。しかし、大部分の患者は脳炎までは起こしません。気分不快、高熱(38.0-40.5度)、悪寒、激しい頭痛、羞明(まぶしがり)、筋肉痛が24-72時間続きます。次いで、吐き気、嘔吐、咳、咽頭痛及び下痢も見られるかもしれません。気分不快と疲労感から完全に回復するには、1-2週間かかります。なお、蚊に刺されて感染した場合と噴霧されたものを吸入して感染した場合を比較すると、噴霧されたものを吸入して感染した場合の方が、脳炎の発生が多いことが、動物実験では、わかっています。これは、鼻腔内に入ったベネズエラ馬脳炎ウイルスが直接に嗅神経(嗅覚をつかさどる神経)経由で脳に感染する経路があるためと考えられています。また、妊娠中にベネズエラ馬脳炎ウイルスに感染すると、胎児の脳炎、胎盤の損傷、流産、重症の神経系の先天性異常などを起こすことがあります。

 ベネズエラ馬脳炎に対する特効薬はありません。症状に応じて治療する対症療法になります。解熱剤・鎮痛剤・抗けいれん剤などが使われます。

 三つの馬脳炎、ベネズエラ馬脳炎(Venezuelan equine encephalitis : VEE )・東部馬脳炎(eastern equine encephalitis : EEE )・西部馬脳炎(western equine encephalitis : WEE )の中では、東部馬脳炎が一番重症です。東部馬脳炎では、脳炎を起こした患者の致死率は50-75%に達します。西部馬脳炎は、重症度において、大人に対してはベネズエラ馬脳炎と同様に軽く、こどもと老人に対しては東部馬脳炎と同様に重い傾向があります。東部馬脳炎と西部馬脳炎は、症状で見るとよく似ていて、ベネズエラ馬脳炎にも近いですが、より脳炎症状が目立ちます。東部馬脳炎と西部馬脳炎は、北アメリカ・南アメリカで見られます。潜伏期は、東部馬脳炎が5-15日、西部馬脳炎が5-10日です。

 東部馬脳炎ウイルスは、普段は、沼地の多い森で、Culiseta melanura 蚊と燕雀類の鳥との間をウイルスは循環しています。そのような沼地の多い森の近くでウマやヒトの東部馬脳炎の流行が起こることがあります。蚊が媒介する東部馬脳炎の流行においては、ヒトの感染の発生率は3%未満で脳炎の発生も感染者23人に1人です。しかし、バイオテロ(生物兵器を使ってのテロ)などで噴霧された東部馬脳炎ウイルスを吸入した場合のこれらの発生率はよくわかっていません。

病原体は?

 西部馬脳炎ウイルスが、1930年にアメリカ合衆国西部のカリフォルニアで分離されました。次いで、東部馬脳炎ウイルスが、1933年にアメリカ合衆国東部のバージニアとニュージャージーで分離されました。最後にベネズエラ馬脳炎ウイルスが、1938年にベネズエラで分離されました。ベネズエラ馬脳炎ウイルスは、実験室・検査室で感染しやすいウイルスとして知られています。ベネズエラ馬脳炎ウイルスを含んだエアロゾルを吸い込んで感染すると考えられています。旧ソビエト連邦のモスクワのIvanovskii研究所で、少量のベネズエラ馬脳炎ウイルスが入ったビンが階段吹き抜けに落ち、こわれた事故が1959年に報告されています。このときは、20人の患者が発生しました。大部分はビンの破損から28-33時間以内の発病でした。

 ベネズエラ馬脳炎ウイルスは、11のサブ-タイプに分類されます。TA、TB、TC、TD、TE、TF、U、V、W、X、Yです。この内、ヒトとウマを巻き込んだ大きな流行を起こすのは、TA、TB、TCのサブ-タイプです。アメリカ合衆国では、TA、TB、TCのサブ-タイプに有効なベネズエラ馬脳炎の生ワクチンが現在、開発中です。

予防のためには・・・

 アメリカ合衆国では、ベネズエラ馬脳炎の生ワクチンが現在、開発中です。この生ワクチンを以前に受けて十分な免疫が獲得できなかった人は、追加接種として、不活化ワクチンを接種することもあります。ベネズエラ馬脳炎ウイルスに曝露した後でのワクチン接種では、発病の予防は期待できません。ベネズエラ馬脳炎ウイルスに曝露した後での発病の予防について、アルファ-インタフェロンが動物実験では有効でしたが、ヒトで有効かどうかは、データがありません。東部馬脳炎と西部馬脳炎については、不活化ワクチンがあります。

 ベネズエラ馬脳炎の患者の隔離は必要ありません。ヒトからヒトへの直接の感染、あるいは、ウマからヒトへの直接の感染はないと考えられています。ベネズエラ馬脳炎の病原体ウイルスは、熱によって、たとえば、80度30分の加熱により破壊されます。

 ベネズエラ馬脳炎の患者は、発病から少なくとも5日間、あるいは発熱がなくなるまでは、蚊に刺されないようにしましょう。ベネズエラ馬脳炎の患者は、少なくても72時間は蚊へのベネズエラ馬脳炎ウイルスの供給源となる可能性があります。

参考文献

  1. David R. Franz , et al ; Clinical recognition and management of patients exposed to biological warfare agents ; JAMA, August 6, 1997 ; Vol 278, No.5 ; pp399-411.
  2. USAMRIID`s medical management of biological casualties handbook (fourth edition , February 2001) : U.S.Army Medical Research Institute of Infectious Diseases ; Fort Detrick  Frederick , Maryland , U.S.A.
  3. Medical aspects of chemical and biological warfare ; Borden Institute, Walter Reed Army Medical Center, Washington, D.C., U.S.A. ; May 1997.

2001年11月20日掲載

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2008年4月17日更新
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