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『イラク戦争と情報操作』

(川上和久、宝島社新書、2004年)

イラク戦争と情報操作

「情報化社会」という言葉が喧伝されるようになって久しい。だが、メディアやインターネットの伝える情報は玉石混交で、なにが正しいかの判断は容易ではない。「米国においては01年1月にブッシュ大統領が就任し、9月11日に同時多発テロが起きて以来、そして日本においては、01年4月に小泉政権が誕生して以来、政治─メディア─世論の関係が、メディアを媒介にした政治主導の情緒的な世論という構図に陥り、『情報操作』の問題が、ますます顕在化してきた」(p.9)、と著者川上和久氏が語るように、ぼくたちにとってメディア・リテラシーの重要性は、今日ますます高まっている。

ぼくは以前の書評で「マス・メディアはその発達の当初から政治の道具とされてきたのだし、政治とは切っても切れない関係にあることは間違いない」と書いた(『メディア・リテラシー』)。本書のテーマはまさに、政治権力のメディア操作、とくに「米国の情報操作の歴史とその延長線上にあるイラク戦争」である。だが、気をつけなければいけないのは、メディア操作、情報操作を行っているのは、なにも米国政府に限らないということだ。

たとえば、わが国の小泉首相はメディアの扱いが上手いと言われる。その特徴は、「メディアに対してアピールすることで、情緒的な善悪二元論に落とし込んでいくのが、非常に巧み」(p.10)なことである。こうして国民の単純な情緒的反応を喚起し、世論を一定の方向に差し向けていくメディア・ポリティクス、あるいは「劇場型政治」によって、政治的信条に従って熟慮すること、よく考えることが敬遠され、「大衆化」した情緒的な政治判断が繰り返されることになる。

米国でもわが国でも、憲法によって「表現の自由」が保障されている。だがしかし、そのことによって「言論の自由が、真実への大衆のアクセスを保障するものではない」(p.20)こともまた事実なのだ。「メディアはその影響力で、世論を動かしていく力も持っている」(p.21)のだし、それゆえに「メディアが『政治的武器』になっていく」(p.21)ということをぼくたちはきちんと弁えなければならない。

では、政治権力がメディアを操作する時に、どのようなテクニックを使うのだろうか。本書では、コロンビア大学のミラー教授の分析による「プロパガンダの『7つの方策』」が簡単に紹介されている(pp.50-55)

  1. 「ネーム・コーリング(命名)」
  2. 「華麗な言葉による普遍化」
  3. 「転移」
  4. 「証言利用」
  5. 「平凡化」
  6. 「カードスタッキング(いかさま)」
  7. 「バンドワゴン(楽隊)」

(1)「ネーム・コーリング」とは、攻撃したい敵に対して悪いイメージのレッテルを貼ることである。たとえば、小泉首相が自民党内の政敵を「抵抗勢力」と一括したことや、ブッシュ大統領がイラン、イラク、北朝鮮などを「悪の枢軸」と呼んだことなどがこれにあたる。

(2)「華麗な言葉による普遍化」とは、自らの行為を誰もが認めざるを得ない普遍的価値と結びつけることである。たとえば米国は戦争に際して、必ず「自由」「人権」「民主主義」を守るという口実をつける。

(3)「転移」とは、多くの人々が受け入れやすい権威を笠にすることで、自己の行為を正当化することである。そうした権威として、宗教、国家、民族、歴史、科学、国連などさまざまなものが利用される。

(4)「証言利用」は、信憑性の高いある人物の証言を利用することで、自らの説得力を高めようとすること。さまざまな被害者の証言などが利用され、あるいは偽装される。

(5)「平凡化」は、自らが平凡で普通の市民であることを訴えることで、親近感を得ようとすること。国家元首が奥様と手をつないだり、家族団欒を演出したりということですね。

(6)「カードスタッキング(いかさま)」とは、都合の良い情報を「宣伝」し、都合の悪い情報は「検閲」するなどの情報コントロール。独裁国家や戦時の情報操作では、典型的な手法。

(7)「バンドワゴン(楽隊)」とは、大きな楽隊の音楽が人目を引くように、あたかも世の中の趨勢であるかのように大々的に喧伝すること。人々は、時代の趨勢に取り残されるという情緒的不安を感じ、結局は「楽隊」の法螺話に乗せられてしまう。

本書では、こうしたテクニックを駆使した情報(メディア)操作の実例が、1765年の米国「印紙税法」への反対から、今日のイラク戦争まで、さまざまに紹介される。これはまさしく、米国メディアの裏面史といってもいいだろう。著者の語り口も抑制が利いていて好感がもてる。

大切なのは、こうしたことを十分に弁えた上で、感情に流されることなく、自分の頭でしっかり考え、判断してゆくことだ。「メディアを通じた世論操作がもたらした、『イメージと現実のギャップ』を埋めるコミュニケーションが、少しずつ、メディアと世論によって、求められ始めている」(p.219)。本書は、現代のメディアと政治を考えるための簡便な入門書として最適な一冊である。

(© 2004/11/14, Hata)

■書誌データ■

  • 表 題:『イラク戦争と情報操作』宝島社新書
  • 発行日:2004年8月13日 第1版第1刷発行
  • 著 者:川上和久(かわかみ・かずひさ)
  • 発行者:蓮見清一
  • 発行所:株式会社 宝島社
  • ISBN 4-7966-4164-5 C0231
  • 形 態:224p ; 18cm

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