音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

社説2 民需開拓促す宇宙戦略に(5/10)

 官需を底上げして宇宙産業の競争力強化を手助けするのはいい。だが、何を日本の特色、得意技とするのかを明確にしなくて民需開拓をうまく進められるのだろうか。政府の宇宙開発戦略本部がまとめた宇宙開発利用の国家戦略「宇宙基本計画」案にはこんな疑問がわく。

 計画案は宇宙基本法の成立で解禁された防衛目的を含め、地球観測や科学など9分野の衛星、有人活動について、向こう10年を見通し今後5年間の具体的計画を示している。2013年度までに打ち上げる衛星の数は34基。過去5年に比べ倍増するとしている。

 日本は衛星打ち上げ数が欧米やロシアをはるかに下回り、中国にも抜かれている。このままでは競争力がますます低下し、各国に太刀打ちできなくなる。官需を増やして産業の技術力を強化し、コストも下げて価格競争力をつけるという考え方はそれなりに筋が通っている。

 問題は海外を含め民需でどんな衛星受注を戦略的に狙うのかが絞り切れていないことだ。衛星計画は総花的で、日本ならではの特色を出すという発想に欠けている。トップセールスを強調しながら、セールスポイントがはっきりしない。これでは官需の投資効果も半減し、外国への売り込みもうまくいかないだろう。

 初めての国家戦略でありながら、全体がこぢんまりし過ぎているのも気になる。着実な取り組みが求められる安全保障絡みの情報収集衛星の拡充や早期警戒衛星の研究はともかく、おしなべて衛星などの計画は斬新さ、独創性に欠ける。ほかの国が考えないような気宇壮大な目標が1つぐらいはなかったのか。

 日本が得意なロボットの活用でも盛り込んだのは誰もが想定する月探査程度。ロボットを使って静止軌道に巨大な宇宙構造物を組み立て、気象観測や通信、放送など様々な機器を組み込んで基地局として活用するといった発想豊かなアイデアがもっとあってしかるべきだ。

 宇宙ビジネスを考えれば、強化を急ぐべきは衛星の技術力だ。国家戦略では資金のかかる有人活動より、日本の強みを生かす衛星技術の確立を優先すべきだろう。何を日本の売り物にするか。なお議論が要る。

社説・春秋記事一覧