豚由来のウイルスによる新型インフルエンザの感染が国内で確認された。初のケースとはいえ、十分に予想された事態である。落ち着いて対処したい。
同時に、国内で感染が広がることは避けられないと覚悟する時でもある。秋冬まで視野に入れた長期戦に備え、基本的な対策の徹底を確認しておきたい。
医療機関は発熱外来を整備し、感染拡大を防ぎつつ患者を受け入れる準備を早急に整えなくてはならない。それには政府の支援もいる。感染者が増えれば、学校や保育所などが臨時休業になることもあるだろう。先を見越した準備が必要だ。
今回の新型インフルエンザは弱毒と考えられ、抗ウイルス剤も効く。日本の行動計画は重い症状を起こすウイルスを想定しており、状況に応じた柔軟な対応が求められる。
一方で、油断は禁物だ。新型インフルエンザの病原性が、季節性インフルエンザと同程度でも、人々には免疫がない。感染者や重症者が多く出る恐れは十分にある。季節性インフルエンザでも、年間、国内で1万人程度が死亡し、多い時には3万人が死亡する年もある。
スペイン風邪の時のように、第1波よりも、第2波で重症者が増える可能性も念頭に置いておく必要がある。初めの流行が小規模でも、秋に備えたい。
メキシコや米国の状況から、症状が重くなりやすい「ハイリスク」の人々がいると考えられる。その条件を明らかにし、弱者を守る対策をたてていくことも重要な課題だ。
重症者を減らすには、まず感染を広げないことだ。そのためには、個人にも感染防止策が求められる。こまめに手を洗うことは大事だ。感染を疑う症状がある人は、できるだけ外出を避けてほしい。自分は治っても、ハイリスクの人を危険にさらすことにつながる。
医療機関の対応も鍵を握る。新型インフルエンザの疑いがないのに、発熱者の診療を拒否するような過剰反応を慎むのは当然だ。一方で、発熱者が病院に押し寄せ、病院が感染拡大の場となったり、機能不全に陥ることも心配される。政府は不安な点を整理し、早急に手を打つべきだ。
国の行動計画では感染がまん延した場合には軽症者には自宅療養が勧められる。そうであれば、往診や、抗インフルエンザ薬を自宅に届けるシステムも構築すべきではないか。
一人一人がどう行動すべきか、医療機関はどう対応すべきか。今後、国民への情報提供はますます重要になる。政府は、事態の推移に応じ、迅速で具体的なメッセージを発していくことが欠かせない。
毎日新聞 2009年5月10日 東京朝刊