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社説

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新型インフル―早期発見で広がり防げ

 日本国内で初めて、新型の豚インフルエンザへの感染が確認された。

 カナダでの語学研修を終え、米国経由の飛行機で帰国した大阪府の高校の生徒と先生合わせて3人で、成田空港での検疫で見つかった。

 もし、そのまま帰宅していたら、周辺に感染が広がっていた恐れがあった。ウイルスの列島上陸を防ぐ水際作戦が功を奏したといってよい。

 ただ、3人のうち1人は機内では発熱などの症状はなかった。機外に出てから異常を訴え、検査して感染がわかった。そのまま帰宅していても、不思議はなかった。

 念のため、機内ですでに症状があった2人の近くに座っていた乗客らは感染のおそれがないことがはっきりするまでの10日間、近くの宿泊施設にとどまってもらう。だが、機外で体調不良を訴えた3番目の人の周りにいた約10人はそのまま入国したりした。

 症状が出る前の潜伏期だと検疫をすり抜けてしまう。その結果、感染した人やそのおそれのある人が国内に入ってしまう。そんな、水際作戦の限界もまた、明白になった。

 今回は空港での発見だったので、政府の新型インフルエンザ対策上は国内での発生には当たらず、なお水際に重点が置かれることになる。しかし、検疫の抜け穴に対する懸念が目に見えてきたことを考えれば、国内での広がりを前提にした医療態勢の整備などに一層、力を入れるべきときだろう。

 いま大切なのは、感染が広がった国から帰国して、発熱やせき、くしゃみなどインフルエンザを疑わせる症状が出た人たちはすぐに、発熱相談センターに電話して指示を受けるようにすることだ。それが本人ばかりでなく周囲の人も守り、感染の広がりを抑えることになる。

 幸い、今回の新型の症状はふだんのインフルエンザとあまり変わらず、早く見つけて早く治療すれば、タミフルなどの抗ウイルス薬が効く。

 患者を確実に治療することで感染の拡大を防ぐ。それが着実に行われていることがわかれば無用の心配が広がることもないだろう。

 そのためには相談をためらうことのないよう、患者を特別視したり、責めたりするようなことは厳に慎まなければならない。そして、医療機関できちんと治療が受けられる態勢が必要だ。

 予防には、まず健康を保ち、丁寧に手を洗うことだ。ウイルスは、しぶきにくっついて飛ぶ。ウイルスのついたものに触れた手で口や鼻に触れることで感染するおそれがあるからだ。

 マスクは、患者がウイルスをまき散らさないためには欠かせないが、感染を防ぐ効果はそれほど確実ではない。

 予防は重要だが、限界があることもまた、理解しておきたい。

米ロ核軍縮―まず冷戦思考に決別を

 米国のオバマ大統領が7月にロシアを訪問し、メドベージェフ大統領と会談する。最大の焦点は、12月に期限を迎える第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約締結に向けてどれだけ具体的に踏み出せるかだ。

 その準備の意味もこめて、両国外相が先週、ワシントンで会った。

 事前の雰囲気は良くなかった。昨夏、ロシア軍の侵攻で戦争状態になったグルジアをめぐって、最近、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの関係が再びこじれていた。外相会談でもグルジア問題が取り上げられた。

 だが会談後、ラブロフ外相は大国間で不一致があるのは「自然」なことだと述べた。クリントン国務長官も「ある分野の不一致のせいで、別の大事な問題で動けないのは古い考え方」と語り、核軍縮交渉への意欲を示した。

 冷戦時代には、地域問題での対立が核軍縮に跳ね返り、暗礁に乗り上げる場面が少なくなかった。いま大切なのは、こうした冷戦思考と決別することだ。そのうえで、冷戦期に大量に製造した核を思い切って減らすことだ。

 米ロは今でも、相手に大規模な核攻撃ができる即応態勢を続けている。人間の判断ミスや誤作動で核戦争が起きる危険が、冷戦時代さながらに残る。これも「古い考え方」の遺物である。これを解消し、「核のない世界」を目指すには、冷戦思考の克服が先決だ。

 通常戦力で劣るロシアには、すぐに核兵器を手放す選択肢はない。ただ、米ロとも核関連施設の老朽化が進んでいる。財政難のもとで施設を抜本的に更新するより、できるだけ低い水準の核保有で両国関係の安定をはかった方が、双方の実益にかなう面もある。

 新たな核軍縮条約についてロシアは、核弾頭の総数だけでなくミサイル数の規制を提案している。米国も柔軟に対応する構えを見せている。弾頭やミサイルの数、性能に過敏になって、交渉が滞るようでは冷戦時代の繰り返しだ。そんな愚は避けてもらいたい。

 現在、ニューヨークでは来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議の準備委員会が開かれている。オバマ大統領は核軍縮を進め、核不拡散体制を立て直す意欲に満ちたメッセージを送った。ブッシュ前政権が核軍縮を議題に入れることを嫌ったのとは対照的で、米国の方針転換を強く印象づけた。

 その効果もあって、来年の再検討会議では核軍縮を議題にすることが早々と合意された。米ロなどの核兵器保有国が、NPT6条にもとづいて軍縮交渉を誠実に進めることを約束しているからこそ、多くの非核国はNPTに加わっている。核保有数が突出して多い米ロによる新条約の締結は、NPTの信頼回復に不可欠だ。

 不拡散体制の立て直しのためにも、まず米ロが合意を急ぐべきである。

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