二〇〇七年の新潟県中越沖地震で被災し、全七基の運転が止まっている東京電力柏崎刈羽原発について、新潟県の泉田裕彦知事は東京電力の清水正孝社長に、7号機の運転再開に同意することを伝えた。
原発のある柏崎市と刈羽村は既に再開を容認しており、これで地元了解が出そろった。東電は九日に原子炉を起動させる方針だ。順調なら四十―五十日間の試験運転後に営業運転入りできるとしている。
大地震に見舞われた原発の運転再開はこれが初めてである。沖合には中越沖地震を引き起こした活断層が存在し、今後も地震が発生する可能性がある。
泉田知事は原発の安全性について「改善する努力を続けてほしい」と要請し、営業運転の前に県の技術委員会で審議することや、設備の定期的な検査の強化などの条件を付けた。住民の不安を考えればもっともな要求だ。東電は運転再開に当たっては安全確保に細心の注意を払わねばならない。
中越沖地震では、想定を上回る揺れに見舞われたため、クレーンなどの設備が壊れ、3号機の屋外変圧器では火災が発生。6号機では微量の放射性物質を含む水が海へ流出するなどし、柏崎市から原発の緊急停止命令を受けた。
国際原子力機関(IAEA)の立ち入り調査では、原子炉の安全性に影響する深刻な損傷は見つからなかったものの、東電は今後起きると想定される地震による最大の揺れの強さ(基準地震動)を大幅に引き上げ、七基で約一千億円と見込まれる耐震補強工事を進めてきた。
しかし、震源断層となる海底断層の評価では懸念も残る。東電は当初、長さは最大約八キロで活断層でないとしていたが、〇三年に約二十キロの活断層と認め、中越沖地震後には長さを約三十四キロ、さらに三十六キロと変更してきた。想定に甘さがあったというしかない。
県の技術委員会では、海底の活断層はもっと長いとする専門家の指摘があった。それが正しいとしたら、揺れはさらに大きくなろう。知事の同意で住民の不安がすべて解消されたとはいえないことを、国や電力会社は認識しておくべきだ。
発電所構内では、この二年間で火災が九件も発生した。消防への通報遅れなど防火管理のお粗末さも明らかとなった。原発の安全性への信頼が揺らいではなるまい。運転再開では情報公開に努めるなど、誠実な対応も欠かせない。
新型インフルエンザに感染した疑いが少ないのに、発熱などの症状で病院を訪れた人が診察を断られるケースが全国で相次いでいる。医療機関側の勘違いもあるようだが、故意の診療拒否なら問題は大きい。国や自治体は実態を調査し、正しい情報提供と指導を徹底すべきだ。
厚生労働省は医療機関に対し、患者が発熱などの症状に加え発生国への渡航歴がある場合には、自治体が保健所などに設けた「発熱相談センター」に電話で相談し、そこで紹介される医療機関での受診を患者に勧めるよう指導している。
ところが、共同通信の七日までの調べでは、こうした条件に該当しないのに診察されなかったり、発熱相談センターへの電話を促されたケースが東京都で二百十二件あったほか、岡山、高知など少なくとも六県一政令市で各数件程度あった。
このうち岡山県のケースは、医療機関側が、発熱の症状を訴えた患者は診療の前にセンターへ相談しなければならないと勘違いした事例で、県は「診療拒否には当たらない」とする。
他の自治体でも、単に熱があるだけで「センターに相談を」と診察しなかったり、発生国への渡航歴がないのに「感染の可能性がある」として診察を拒む例があったという。多くは患者への対応を勘違いした過剰反応のケースとみられるが、単なる診療拒否なら許されない。
新型インフルエンザは海外で拡大し続け、日本政府は今月、国内で患者が発生した場合の感染拡大阻止のため、外出自粛や学校の臨時休校要請などを盛り込んだ新対処方針を決めた。国内での感染拡大という事態は考えたくないが、いざという時の備えの「入り口」でのこうした混乱は好ましくない。気を緩めず、かつ冷静に対処したい。
(2009年5月9日掲載)