<ぶんか探訪>電気街はアートの街――名和晃平さんと行く日本橋

 
              
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<ぶんか探訪>電気街はアートの街――名和晃平さんと行く日本橋

2009/05/07配信

「日本橋には小学生のころから通っている」と話す名和さん(大阪市浪速区)
「日本橋には小学生のころから通っている」と話す名和さん(大阪市浪速区)

大阪・日本橋は東京の秋葉原と並ぶ巨大な電気街であり、オタク文化の発信地。一方で裏通りには、昔ながらの工業用素材や工具の専門店・問屋が立ち並ぶ。様々な素材を用いて見る人の知覚に訴える作品を発表する美術家、名和晃平さんにとって、ここは部材の調達地、そして制作のインスピレーションが得られる場所だ。

 地下鉄恵美須町駅から地上に出ると、名和さんはすでに買い物を済ませ、大きな紙袋を抱えていた。シマムセンなどの大型電器店やメイド喫茶などが軒を連ねる表通りから、素材や工具の専門店がひっそりたたずむ裏通りへ一緒に向かう。「日本橋はどんどん変わっていきますね」と言う。

 まずは、名和さんの行きつけの工具店へ入る。所狭しと並ぶコンプレッサーや電動ドリルの数々。名和さんにとっては制作に欠かせないツールだ。京都の制作現場で日夜、こうした工具を手に作品作りにいそしんでいるという。「例えば、この棚の工具なんかはすべて持っています」

 ガラスのビーズでシカやコヨーテの剥製(はくせい)を包んだ作品、発泡ポリウレタンがむくむくとわき上がるような立体作品など、名和さんの作品は工業用素材を効果的に使ったものが多い。作品の形状や質感が見る人にどんな感覚を呼び起こすのか。そこに制作の主眼を置いてきた。使う素材が多種多様なだけに、必要な工具も多岐にわたる。

 素材や道具は最近、ネットで購入することが多いそうだが、「型落ちのデッドストックや、規格外の品など、思わぬ“掘り出し物”が見つかることもありますから」と、今でも日本橋での探索を欠かさない。


 そんな日本橋は、名和さんにとって制作の原点といえる街でもある。人形作りの先生だった祖母と、小学校教諭で図工教室も開いていた父親の影響で、手を動かして何かを作ることが幼いころから好きだったと振り返る。

 小学生のころには、自宅の大阪府高槻市から小遣いを持って度々日本橋へ通った。家中に赤外線センサーを張り巡らしては母親を困らせた。電子部品や工具などを見て回るのが楽しくて仕方がなかった。「それは今でも同じです」

 工具店から、次は同じく行きつけの電子部品の店に入った。発光ダイオードやセンサーなど、こまごまとした部品が陳列されている。「ここの店員さんの電子部品の知識はものすごい」と耳打ちしてくれた。「いろいろ質問し過ぎて、うっとうしがられることも多いけれど」とも。「こうした店で電子部品を見ていれば、退屈せず1日を過ごせます」。名和さんの目は心なしかトロン。猫にマタタビ、のことわざを連想した。

 「作品のイメージに合った素材や部品を探すこともあるが、逆に変わった素材や部品から予想外の完成品が出来上がることも多い」という。准教授を務める京都造形芸術大学の学生らを連れ、日本橋を訪れることも多い。

 また、これまでミラノやロンドン、北京など海外で展覧会を開き、現地で電気街や素材の問屋街を探したが、「日本橋や秋葉原ほどの規模の街は見当たらなかった。美術家として日本橋に出合えたのは意味が大きい」と言う。

 最後に裏通りをさらに1本奥へ入り、「3Dスキャン」の技術を実用化したベンチャー企業での打ち合わせに同行した。立体をスキャンし、それと同じ立体をもう1つ造形する技術で、金型や工業製品の設計・試作に使われる。名和さんら多くの美術家が新たな制作手段として注目しているそうだ。

 複雑な装置を名和さんがのぞき込み、担当エンジニアを質問攻めにし始めた。脳裏に、作品のイメージがわき上がってきたのだろうか。名和さんにとって、日本橋の散策は創作の一環にほかならない。様々な顔を持つ日本橋とともに名和さんの作品も進化していくとすれば、美術ファンにはうれしいことだ。
(大阪・文化担当 田村広済)

 なわ・こうへい 1975年、大阪府高槻市生まれ。2003年、京都市立芸術大学大学院修了。在学中に英国王立美術院に留学。国内だけでなく、スペイン・バルセロナや中国・北京などで個展を開いてきた。6月に東京・銀座のメゾンエルメスのギャラリーで個展を開催する予定。
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