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きょうの社説 2009年5月9日
◎八田技師墓前祭 「濃密な交流」を次世代にも
台湾・烏山頭(うさんとう)ダム(台南県)のほとりに眠る土木技師・八田與一夫妻の
墓前に、子どもたちの歌声が響いた。八田技師の母校、金沢市花園小児童たちが歌う賛歌「嗚呼!フォルモサダムの父」である。台湾の人たちが戦後間もなく始めた墓前祭に、金沢から出席者が加わるようになり、今 年は総統として初めて馬英九氏が参列した。台湾の一地方と八田技師の地元による草の根交流が、ここまで大きく育ったことに深い感慨を覚える。花園小児童の訪問を機に、金沢と台湾の「濃密な交流」を、次世代にもつなげていきたい。 八田技師夫妻の墓は、ダムを一望する丘の上にある。終戦の翌年、地元水利会によって 建てられ、以後毎年五月八日の命日に墓前祭が行われている。「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」(金沢市)の世話人代表を務める中川外司氏は、八田技師を慕う台湾の人々の熱い思いに感激し、一九八五年から有志を募って墓前祭への参加を続けている。 そこで生まれた交流の輪は、年々着実に広がり、李登輝元総統の石川県訪問やアニメ映 画「パッテンライ!!」(八田が来る)の制作につながった。台北と小松を結ぶ定期便の就航も、民間交流がなければ、実現しなかったかもしれない。台湾では、烏山頭ダムの世界遺産登録を目指す運動が始まり、現地の土木や農学関係の大学教授らが推進本部を設立し、「他に例のない自然と融合したダム」を世界にアピールしようとしている。 馬総統の墓前祭参列は、八田技師の縁で始まった草の根交流の一つの到達点ともいえる 。次代を担う金沢の子どもたちが、そんな特別な日に日本側の主役であったのは素晴らしいことだった。 馬総統は、八田技師の墓前に手を合わせることで、野党民進党の金城湯池といわれる地 にクサビを打ち込む政治的な思惑もあったのだろう。それでも国民党主席でもある台湾の指導者が日本統治時代の日本人の功績をたたえ、手を合わせた意味は重い。死後六十有余年を経てなお、日台の懸け橋となり続けている八田技師の存在の大きさを思わずにはいられない。
◎郵便割引不正事件 悪用見逃した責任も重い
障害者団体向け郵便料金割引制度がダイレクトメール(DM)の発送に悪用された事件
で、新たに別の広告主が摘発され、印刷・通販大手「ウイルコ」(白山市)前会長ら既に起訴済みの七人も再逮捕された。制度の悪用は広告・通販業界で幅広く横行していたことが関係者の証言などで明らかになってきたが、ますます不可解なのは膨大な違法DMを承認した郵便事業会社(日本郵便)支店の対応である。割引制度を使った郵便物は、通販会社らが格安の発送手段として目をつけた二〇〇五年 から急拡大した。福祉サービスを食い物にした会社側の罪は当然として、それを易々と見逃した責任も重いと言わざるを得ない。検察は郵便事業会社側の刑事責任を含め、広告主に通販、広告、郵便などが絡んだ不正の構図を徹底的に解明してもらいたい。 障害者団体向け低料第三種郵便物制度は郵便事業会社の承認を受ければ定期刊行物を低 料金で郵送できる仕組みで、通常なら一通百二十円の送料が八円前後となる。 大手家電量販店「ベスト電器」のDM発送では十人が起訴され、約五百七十万通の発送 で約六億四千万円を不正に免れた。健康食品会社などを広告主とする新たな事件では、約千六百万通で約十八億円の差額を得ていた。刊行物の名義人である障害者団体はいずれも活動実態がなかったという。 郵便事業会社は、これらの団体、会社に不正に得た利益の返還を求める「被害者」の立 場だが、郵便物を持ち込まれた都内の支店などが障害者団体の第三種郵便にしては異例の多さだったのに、なぜ疑問を持たなかったのか、単に被害者とは言い切れない不自然な点がいくつもある。 逮捕された側は「郵便事業会社も受け入れたので違法性の認識はなかった」などと供述 しており、それが本当なら、承認する側が「お墨付き」を与え、結果的に不正を助長させたことになる。民主党の牧義夫衆院議員の事務所が郵便事業会社に関与したとされる指摘も含め、今後の真相解明のかぎを握るのは郵便側への捜査である。
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