きょうのコラム「時鐘」 2009年5月9日

 バス停に立っていると、クン付けで名前を呼ばれた。白髪交じりをつかまえてそう呼ぶのは、小学校同級の女子に決まっている。随分と老けた女子である

団塊の世代には、「憲一」や「和子」など、憲法公布や平和にちなんだ名が目立つ。その娘には、人気女優にあやかって「小百合」という命名が流行した。名前は時代を表す

いまの若い世代の命名センスには目を見張る。「大翔(ひろと)」「陽菜(はるな)」など、にわかには読めない名が人気を集める。当初は戸惑ったが、美しい漢字と名の響きは、子への愛情を誇らしげに語る

「海」と書いて「まりん」、「花音」を「かのん」と読む名を知った。白山市からの悲報にあった姉妹の名である。父親の自殺に巻き込まれた疑いがあるという。難読の名だが、外国人にも親しみを抱かせる読みだろう。成長して広い世界に羽ばたけ、という願いを込めた命名だったか

一家を襲った悲劇には、まだ分からないことがある。が、2人の力では抗しがたい事態が突然身に降りかかったのは確かである。美しい名を残して逝った小さな魂に、やりきれない悲しさが募る。