新型インフルエンザの感染が急速に世界に拡大している。日本国内で初めて感染の疑いがあるとされた横浜市在住の高校二年の男子生徒について、厚生労働省は新型ウイルスではなく「Aソ連型」だったと発表した。まずは一安心といえようが、国内での感染者発生に備え、今後も十分な警戒が必要だ。
男子生徒は四月十日から二十五日まで修学旅行でカナダに滞在。帰国後、発熱、せきなどの症状が出たため入院したが、国立感染症研究所による精密検査の結果、新型感染ではないことが判明した。
メキシコで始まった新型インフルエンザの拡大を受け、世界保健機関(WHO)は警戒水準(フェーズ)を「4」から「5」に引き上げている。最悪レベルである世界的大流行(パンデミック)の一歩手前だ。
これまでの情報ではウイルスの感染力は強いが、多数の死者が確認されているメキシコ以外では重症例が少なく、ウイルスは弱毒性とみられている。しかし、油断は禁物だ。
大型連休で海外旅行など人の動きが激しくなる。水際対策の一層の徹底が求められるが、ウイルスの侵入を完全に防ぐことは難しい。国内で今後、感染が広がることを想定した上で、感染拡大の抑止策を強化する必要があろう。
政府は、新型インフルエンザ対策本部の第二回会合で国内の患者発生に備えた新たな対処方針を決定した。国内発生時には不要不急の外出自粛や集会自粛、学校の臨時休校などを要請するとしている。麻生太郎首相は「まん延防止のため必要な措置を弾力的、機動的に取るなど、事態の変化に的確に対応することが重要だ」と述べた。
流行の被害をできるだけ軽減させるには、感染の恐れのある人々を速やかに診断し、確実に治療することが肝要だ。
気掛かりなのは、最前線での医療体制だ。厚労省によると、新型インフルエンザ感染の疑いのある人を集中して診察する「発熱外来」を設置しているのは、全国で三十一自治体にとどまっているという。医師不足などで対応に温度差がみられるようだが、早急に体制を整える必要がある。
個人や家庭の対応も大切だ。人込みを避け、手洗いやマスクの着用などを徹底することが感染を防ぐ力になる。新型ウイルスとの戦いは長期戦を覚悟しなければなるまい。日本政府やWHOが公表する正確な情報を基に、冷静に対処したい。