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<研究 注目企業>山本化学工業(上) 魚ヒント「水まとう」水着

独自素材開発に全力

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社長や技術者、女性社員が一緒に新素材開発に頭をひねる(大阪市生野区の本社で)

 特殊ゴムなどの素材メーカー、山本化学工業(大阪市)は、2008年夏の北京五輪向けに開発した水着素材で一躍脚光を浴びた。「市場にあるものの後追いはしない」を信条に、独自の素材開発に力を注いでいる。この不況下でも業績は好調で、生産設備の増強に乗り出す。

(杉目真吾)

新基準対応

 「高速水着」問題に揺れた北京五輪で、日本代表の水着素材として関心を集めたのが同社の「バイオラバースイム」だ。これをさらに改良し、国際水泳連盟の新基準に世界で最初に対応した素材を開発した。競泳用水着として5月中旬に日本と米国で発売される。

 開発のヒントは、ぬるぬるした魚の体だ。従来品が水をはじく撥水(はっすい)性を重視していたのに対し、逆に親水性を高めた。素材の表面に並べた凹部に水の分子が入り込み、いわば「水をまとう」ことで抵抗を少なくする。

 「バイオラバー」は、石油などから化学的に作る合成ゴムとは異なり、高純度の石灰石を主成分に、特殊な貴金属の鉱物を練り込んだ独自素材だ。遠赤外線を発し、肩こりに効果があるとされるパッドなど、健康器具として販売している。医療分野での応用に期待がかかる。

占有率トップ

 山本化学工業は1964年の設立で、当時は海女さん用の潜水服メーカーだった。70年代の石油ショックによる不況は、石灰岩からゴムを生み出す製造技術の開発で乗り越えた。84年以降、急激に進んだ円高も、レジャー向けや産業向けなどの用途開発を進めた高付加価値商品でしのいだ。ウエットスーツ素材では現在、世界市場の占有率60%と、トップの地位を築いている。

拡 大

 不況はどこ吹く風で、「マリンスポーツや水着向けの需要が急増し、工場はフル稼働の状態だ」(山本富造社長)という。国内外のスポーツ用品メーカー約20社から水着約8万着分の発注もきている。業容拡大のチャンスとみて、今年6月をめどに、大阪と岡山の2工場に約2億円を投じ、製造ラインを新設する。11年2月期の売上高は09年2月期より25%増の100億円が目標だ。

 新ラインでは、現在開発中の障害者や泳ぎが苦手な人のための水着素材も製造する予定だ。楽に水に浮けるように工夫し、中高年らの需要を見込む。

 ただ、世界経済の悪化で、「消費者が低価格志向を強める可能性もあり、生産規模の拡大などでコスト競争力をつけることが課題だ」(アナリスト)との指摘もある。開発費の捻出(ねんしゅつ)や優秀な人材をどう確保するかが、今後の成長のカギを握りそうだ。

2009年5月4日  読売新聞)

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