新型インフルエンザ感染確認国が増え、世界保健機関(WHO)が警戒レベルを「フェーズ6」に引き上げる可能性もある中、厚生労働省は検疫態勢の維持に苦慮している。手間のかかる機内検疫の対象は現在、メキシコ、米国本土、カナダからの便だけだが、対象国が増えれば業務増につながる。これ以上の検疫官増員も難しく、現場からは「限界に近い」との声も出ている。
「今の人繰りで精いっぱい。先のことまで考える余裕はない」。成田空港検疫所の検疫官は、疲れ切った表情で語る。28日から始まった機内検疫の対象は週260便以上。3カ国からの便が到着する成田、関西、中部の3空港では大型連休中、検疫官を通常の計153人から最大計378人に増やした。
だが、WHOが欧州などでの流行拡大を認定し、機内検疫の対象便が増えた場合、人員確保は難しい。防衛医大などから最大62人の医官らを派遣してきた浜田靖一防衛相は8日の会見で「ぎりぎりのところでやっている。出せるかと言われれば厳しい」と答えた。
一方、国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は「患者が急激に増えれば医療の質が落ちてくる。次の段階の作戦を考えないと」と指摘し、医師を検疫の応援に回すより、医療体制整備に振り向けるべきだとの考えを示した。
厚労省によると、感染者が3カ国に次いで多いのはスペイン、英国、ドイツ。スペイン直行便はないが、英国は週35便、ドイツは週38便ある。さらに3人の感染者が確認された韓国は週500便以上に達する。新型インフルエンザ与党プロジェクトチーム座長の川崎二郎元厚労相は「東南アジアや韓国にウイルスが入ると、対応が非常に厳しい」と話す。
厚労省は「さまざまな想定をしながら、工夫していきたい」と話すが、妙案は見つかっていない。【清水健二、駒木智一、江口一】
毎日新聞 2009年5月9日 東京朝刊