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【社説】

新型インフル 医療機関は逃げないで

2009年5月9日

 新型インフルエンザの流行地域は世界的にますます広がっている。重症度が当初予想されたよりも低いとの見方が強まっているが、ほとんどの人が免疫を有していないだけに油断できない。

 世界保健機関(WHO)によれば、感染者はこれまでにアフリカを除く全大陸で確認された。WHOでは警戒レベルを六段階のうちの「5」から最高度の「6」への引き上げを検討する動きもある。

 幸いなことに、重症度については専門家の間で今のところ「季節性インフル並み」との見方で一致している。

 感染者が最初に確認されたメキシコで死亡者が多発したのは、発症後の受診の遅れなどによることが徐々に明らかになってきた。

 他の国では抗ウイルス剤の適切な投与で死亡にほとんど至っていないことは安心できる。

 だが、重症度と感染力とは別の問題だ。ほとんどの人は豚由来の新型インフルへの免疫がないため、いったん感染者が発生すると広範囲に広がる可能性がある。多数の感染者が発生すれば多くは軽症で済んでも重症者が増える。

 現時点で重症度が低くても、人から人への感染を繰り返しているうちに高まる可能性もある。

 油断してはならない。

 新型の国内侵入の可能性が高い空港で行っている水際対策として機内検疫や赤外線による体温測定は、当分続ける必要がある。   同時に、帰国者で発熱などの症状がその後出た患者は、自治体の発熱相談センターに相談し、指定された医療機関で受診するよう徹底する必要がある。

 ところが、感染国への渡航歴が最近なかったり、身近に渡航者がおらず感染の可能性が低いにもかかわらず、発熱を訴えた患者が医療機関で診療を拒否される事態が多発している。

 厚生労働省が「医師法違反の疑いがある」として、全国調査に乗り出したのは当然だろう。

 懸念されるのは、診療拒否が増えれば、患者が渡航歴や症状を正確に申告しなくなることだ。それが結果的に新型インフルの感染を広げることにもなる。

 各地の医師会、病院協会はこのようなときこそ社会的責任を自覚し、医療機関に対し、適切に対応するよう指導すべきだろう。

 一九八〇年代後半、エイズウイルス感染者の診療を一部の医療機関が拒否したことで、感染者への偏見・差別を助長したことを忘れてはならない。

 

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