米金融当局が大手金融機関の健全性を審査する資産査定(ストレステスト)の結果を公表した。バンク・オブ・アメリカやシティグループなど10社に合計746億ドル(約7兆4000億円)の追加の資本増強が必要との判断を示した。
今後は各金融機関が自力でどこまで資本増強できるかが焦点になる。米政府は必要に応じ公的資金の追加投入もためらうべきではない。
大手金融機関19社を対象に実施した今回の査定は、オバマ政権誕生直後の2月にガイトナー米財務長官が包括的な金融安定化策の柱の1つとして打ち出した。
1990年代の日本の銀行の不良債権問題から得られた教訓は、問題解決には金融機関が抱える不良資産の厳格な査定と公的資金を使った資本増強など政府支援の2つが不可欠ということだ。
米金融当局はブッシュ政権時代の昨年秋に公的資金を使った金融機関への資本注入を実施したが、中途半端で米金融機関の経営不安をぬぐい去ることはできなかった。
今回の査定では米経済悪化が今後2年間続くという想定のもとで金融機関の資産を洗い直した。市場の不安をぬぐうための情報開示に米国が動き出したことは大きな前進だ。
米株式市場などでは、米金融不安の最悪期は脱したという観測も浮上している。ただ、今回の査定結果公表後も残る不安はいくつかある。
まずは今回の資産査定がどの程度厳しく実施されたかという点だ。経済悪化が続くシナリオを描いたと米当局は説明しているが、その想定が妥当かどうかは現時点で判断しがたい。日本でも、当初の想定を超える資産価格の下落や景気悪化に伴う不良債権の新規発生で、損失処理額はどんどん膨らんでいった。
もう1つの不安は公的資金が適時適切に投入できるかどうかという点だ。資本増強を求められた金融機関は1カ月以内に資本増強計画を出すことになっている。
金融機関は市場からの自力による資本調達などで計画を達成する構えで追加の公的資金受け入れには慎重だ。だが、これだけ多くの金融機関がすべて自力で資本調達ができるとは考えにくい。
米金融当局は必要あれば、追加の資本注入も排除すべきではない。金融機関への公的資金注入には米国の世論は厳しい。だが、批判を恐れて問題を先送りすれば傷を深くするのは、公的資金を小出しにした日本の例をみても明らかだ。米金融機関と当局の果断な対応を期待したい。