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NIKKEI NET

社説2 決算不振に見る株高の死角(5/9)

 世界の株式相場が回復している。日経平均株価は3月につけたバブル崩壊後の安値から3割以上上昇し、1月の年初来高値を更新した。米欧株も年初の水準に戻している。投資家が、世界的な不況に対する極端な不安心理を和らげたためだ。

 投資家が萎縮していた3月、東京市場では「5月危機説」が取りざたされた。決算発表で予想外の業績悪化が表面化し、資金繰りに窮した企業の破綻が続くといわれた。しかし混乱は今のところ起きていない。

 各国の危機対策が市場の安心感につながった。危機が深刻化した2007年半ば以降、主な対策は世界で600件近くに及ぶ。今週は欧州中央銀行(ECB)が追加金融緩和に踏み切り、日米欧が利下げ以外の政策で歩調をそろえた。貸し渋りを防いで企業の資金繰りを助けるためだ。

 ただ、政策が企業の成長の源である需要に点火したとは言いにくい。日本企業の業績やその見通しを点検すれば、株価が回復しても警戒を緩めるべきでないことが分かる。

 8日までに、3月期決算の国内上場企業は25%が決算発表を終えた。売上高は09年3月期が前期比で6%減ったが、10年3月期はさらに13%減る見通しだ。中でも自動車と電機業界は、世界で需要低迷が続いていることを象徴する。

 トヨタ自動車は前期、4600億円の営業赤字に転落した。今期は赤字が8500億円に膨らむ見通しだ。収益源だった米市場では、保有住宅の価格下落が続いて家計が購買力を落としている。今年の米新車販売は1970年代半ば以来の1000万台割れになるとみられている。

 シャープは前期、東証上場以来初の最終赤字となった。収益の柱である液晶テレビの販売が伸びなかったためだ。今期は黒字への転換を目指すが、消費の低迷で液晶テレビの価格は下がっており、採算面の不透明さは続いている。日立製作所の幹部も記者会見で、今期の業績を「厳しく見ざるを得ない」と述べた。

 企業は無駄な費用を削減する努力を緩めるべきではない。一方、研究開発投資や新興市場の開拓は需要を刺激するだろう。投資家は企業の守りも攻めも評価する。株価が長期的な回復軌道に乗るのはその後だ。

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