都会の若者らによる過疎地や農村など地方への一時移住を助成金つきで後押しするプランに政府が乗り出した。総務省は「地域おこし協力隊」と名づけ、一定の条件を満たした移住者に自治体を経由して年間約200万円を支援する。
経済危機を受けた都市失業対策の一環とはいえ、「青年海外協力隊」の国内版ばりのネーミングの施策を迫られるほど、地方の過疎、人不足も極まれり、ということだろう。税金まで投入しての移住促進に疑問を持つ人もいようが、面白い構想だと思う。都会から地方へ人の流れを促す公的な触媒が、あまりに不足しているためだ。
「協力隊」は東京など大都市に住む若者らがおおむね1年から3年の間過疎地や山村などに移り住み、地域に協力する活動を行う構想だ。移住者はその市町村から「協力隊員」として委嘱され、住民登録をして農林水産業やお祭りのような伝統行事の応援などの活動を行う。
国は1人あたり年間約350万円を自治体に配り約200万円が協力隊員に支給され、150万円を限度に住宅支援や研修など自治体側経費も認める。地方移住支援の実績を持つNPОや希望自治体との間で人材紹介の枠組みを設け、今年度に300人を試行、3年後に3000人規模への拡大を目指す。
率直に言って懸念材料が多い構想だ。200万円の支給を受ける「隊員」名は自治体が公表するが、仮に約束通りの地域協力をせず地元の不信を買った場合、誰が責任を取るのか。また、1~3年程度の滞在で果たして定住に結びつくのか。
そもそも、都市と地方の格差構造に手をつけず数千人の移動を促す効果についても、議論はあろう。構想がうまく動かず、雇用対策にうろたえた政府の場当たり的な愚策として終わる可能性は否定できない。
それでも、試みに値するのではないか。財政難の市町村は東京などの人材をリクルートする余力に乏しく、個別対処は難しい。一方で地方暮らしを考える人も、収入のあてもなく見知らぬ「田舎」に行くのは心細い。仮に任期を終え都会に舞い戻っても、その自治体との縁は切れぬはずだ。
農水省もやはり農村への移住支援策を練るなど、細る一方だった大都市から地方への人の流れを政府が意識し始めたことは歓迎だ。経済危機を逆手に取る形で過疎自治体も、大いに活用してはどうか。100人規模の「協力隊」を組織し、スポンサー役の政府の気をもませるような不敵な町村があっていい。
毎日新聞 2009年5月9日 東京朝刊